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46.クロク平原

「さて、と……」


 戦闘が終わった後も、やるべき事は色々とある。

 元の魔人の姿に戻るのを待つだけの俺やダメージを最小限に抑えたリフィス、キィリやシドはともかく、ユイやレミナは装備や傷の処理も必要だ。

 そういうわけで、他には倒れているアズールの治療など割合忙しく動き回る連中を眺めることしばらく。


「っ……」

「う……」


 全身を苦痛に浸されるような感覚と共に身体から力が抜けていく。

 アズールが小さく呻いて目を開けたのは、それとほとんど同じタイミングだった。

 立ち上がろうとするとグラリと足元が揺れる。駆け寄ったリフィスに支えられてアズールの方を見ると、奴もゆっくり立ち上がるところだった。

 少しよろけた水将だが自力で踏みとどまる。

 ……俺だってリフィスが来なくても倒れるような事は無かったけどな! そもそも俺とお前じゃ疲労の理由も度合も全然違うだろ!

 なんとなくそんな事を思ってから、キィリも居た事に気づきしまったと思う。

 ……ま、今更気にするような事じゃないか。


「さて、今後の方針について話すにしても……少し場所を移すか」

「…………」


 ん?

 てっきり反論してくるかと思ったが、ユイの反応が薄い。

 何事か考えるような様子で俯いている。


「おい、聞いてるかー? 命の恩人を無視するもんじゃねぇぞー」

「っ……分かっている」


 イマイチ調子が出ないな。

 ……どうせ俺には関係ない事だ。こんなこと気にする方が馬鹿らしいぞ、と。

 気分を切り替えて遺跡を出る。


 これからする話を考えると町中ってのは都合が悪い。

 むしろ近くに見える町から少し離れた草原の真ん中に、俺たちとユイたち勇者一行、二勢力のテントが並んだ。

 二つのグループに分かれて夕食をとる。

 俺たちのところは例によってリフィスが作ったビーフシチュー。使っている香辛料も多めで、むしろ普段より気合いが入っているように思える。

 対する勇者一行は……水で戻した乾燥野菜や干し肉を味付けして炒めたものを食っていた。良く言えば素朴って奴だが、やっぱり優越感は感じる。

 熱の操作を応用して空気を動かしシチューの匂いを届けてやると、ユイがジロリとこちらを睨んだ。


「……ファリス様。恐れながら、あまり御行儀がよろしくないです」

「それくらい分かっちゃいるんだがな」


 リフィスに注意され、大人しく引き下がる。

 そこでキィリが難しい顔で勇者たち……ユイの方を眺めているのに気づいた。


「キィリ、どうかしたか?」

「えっと……」


 困ったように視線を泳がすキィリ。

 なんとなく察して勇者たちの方へ向かう音を遮断する。


「確認だけど、勇者ってのはあの剣を持った女の子でいいのよね?」

「ああ」

「勇者……やっぱり特別なのかしら。あの子だけ読心が効かないの。何かに遮られてるみたい」

「へぇ? それは割と残念だな」

「そうね……なんででしょう? ああ、あの子だけってのは少し語弊があったかも。あのシドっていう御爺さんも何考えてるのか分からないわ。もっともそっちは完全に思考を空にしてるからなんだけど」

「悟ってやがんのか……ちょっと別格過ぎねぇかあの爺さん」


 そんな雑談を交わしながら完食。

 汚れは炎で清め、食器の類は収納魔法で片づける。

 そうか、ユイに読心は効かねぇのか……よりによってというか、なんというか。

 不確定な上にキーパーソン、手綱はいつでも握れるようにしておきたかったんだが。

 ちなみにユイたちの会話にも聞き耳は立てていたが、察知されてたか特に重要そうな話は聞けなかった。


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