43.水妖の遺跡
前半説明多め、時間が前話からだいぶ飛びます
――シェリルが仲間に加わってから、結構な時間が流れた。
メーゼに銃の研究をさせるためスタグバールに戻り、いつの間にか南部復興の中心になっていた縄張りでちょっとした事件を解決したり。
上層部に人間の頭数が足りてないって事で、ゲーム知識を参考に各地を巡って内政に長けた[英雄]を拾ってきたり。
あとは基本的に俺、リフィス、キィリ、エマ、シェリルの五人で勇者たちには教えていない稼げるサブイベントを消化してレベル上げに努めた。
他の[英雄]もスカウトしたいところだったが……あまり人数を増やし過ぎると小回りが悪くなる。
いざ魔王グナルゴスに挑むとしても、指示や連携、そしてそれを維持する労力を考えるとこれ以上人数を増やすのは望ましくない。
ゲームのように酒場に預けてそれっきりとか、一時の別れって体裁で二度と会わないとかってわけにはいかないし。
本気でそうしようと思えば不可能ではないが禍根が残るのは避けられないだろうし、そうするとどうにか保ってきた善人としてのイメージにもケチがつく。
パーティとして多少バランスが悪いところはあるが、「セグリア・サガ」屈指のバランス型キャラクターであるエマとシェリルがいるから大丈夫だろう。もちろん二人とも、あらゆる状況に最善の対応ができるように鍛えた。
俺とリフィスも守備範囲は多少偏るものの、その中では割と多い手札が揃っている。
キィリは……正直どうだろうな? いや、読心もあって戦闘面では訓練ならエマとも互角以上に渡り合うだけの力がある。とはいえ、その読心は不安要素でもあり……魔王みたいな強敵、そうでなくてもイカれた相手と戦うときは気を付ける必要がある。手放すには惜しい能力なのも確かだが。
ああ、分体で監視してたが勇者たちも順調に腕を上げている。……たまに俺が狙ってたサブイベントに遭遇しながら。
メンバーは最後に会った時と変わらないユイ、レミナ、アズールの三人に、闘神の異名を持つシドという爺さんが加わっている。勇者一行の戦力アップにはこの爺さんの貢献度合いが非常に大きい。
各地でサブイベントを回収していて立った仮設だが、このセグリア大陸で実際に起きていることと「セグリア・サガ」の内容はほぼ一致すると言っても……まぁ、構わないだろう。そんな歯切れの悪い言い方が表現としてはしっくりくる。
まず、今のところ確実に共通しているといえるのは運命とでも言えば良いだろうか。
ゲームで起きていたイベントは現実でも確実に発生する。それを取り巻くキャラクターたちも概ね変わらない。ゲーム内ではイベントごとに幾つかの結果が設定されていたこともあって、イベントの結末についてもゲーム内で描写されたどれかに収まる。
次に相違点として、現実の人物とゲームのキャラクターの対応が時折おかしくなっている事が挙げられる。
例としてはある町で出会う二人の傭兵が分かりやすいか。
ゲームでは一人が魔人に故郷を滅ぼされた女剣士で、もう一人が心配半分下心半分で彼女につきまとうチャラ男。
現実だと故郷を魔人に滅ぼされた剣士にチャラ男がつきまとっているのは変わらないし、後に発生するイベントの中身も実際ゲーム通りだったが、当の剣士が男だった。
だからどうしたという話ではあるが、これが中々に面倒くさい。誰がどのキャラクターなのか分からなくなるからだ。あまり多いケースではないのが救いではあるが……。
ちなみにゲームでは男だったメーゼも女だと知ったのは少し前のこと。もっともガキの性別なんてどっちでも大差ないし、まさに余談ではある。
そして、最も厄介なのはサブイベントの時系列がバラバラになっていること。おかげで今が「セグリア・サガ」のシナリオに当てはめた時のいつに当たるかもハッキリしないし、サブイベントの回収も計画通りには進んでいない。
……そう。
せめて最後の齟齬さえ無ければ、こうなることもなかったのに。なんて愚痴ってても仕方ないか。
「……貴様は!?」
「リファーヴァント……なぜ邪魔をする」
空撃ちした魔法でシドを牽制し、ドーム状に展開した「火界呪」で水刃の雨を受け止める。
振り返った勇者ユイ、精霊のような姿をとった水将アズルムイトの二人が同時に敵意を孕んだ声を上げた。
「言っておくが俺は勇者側だ。……キィリ、どうだ?」
「アズールの意識が消えたわけではないわ。奥深くに押し込められただけ。でも、このまま人格の統合が進めば消滅も時間の問題ね」
「なっ……!」
「つまり、さっさと余計な魂だけぶっ殺せばいいだけの話か」
「そうなるわね」
「頼りにしてるぞ。もちろんリフィスもな」
「ふん、よく言うわ」
「お任せください」
先ほどまで「陽炎」で隠れていたせいで出来なかった会話を行い、情報を共有。やる事がシンプルなのはありがたい。
……そう。俺は今、奴の拠点である水の神殿で水将と対峙する勇者一行の間に飛び込んでいた。
炎将としての正体がバレるのは避けられないし、割と緊急で駆け付けたのもあって仲間はリフィスとキィリだけ連れてきている。
それもこれも、アズールが水将の力を引き出す前に消化するイベントを一つ飛ばしたのが悪い。俺も奴の立場なら同じことをしていたのは棚に上げておく。
結果として間抜けにも他の水将分体に飲み込まれたアズールを回収するため、こうして介入する事になったわけだ。
ゲームじゃこうなったらアズールは離脱確定だったが、ラナの死亡イベントが引き延ばせているように、手を尽くせばゲームと違う結末を引き寄せるのも不可能ではないのは分かっている。
キィリの言葉でそれは確証を得た。
「リファーヴァント……何が目的だ」
「お前の仲間の尻拭いだよ面倒くせぇ」
「…………」
「なんだよ[闘神]」
先ほどから無言でこちらを見ているシドに声をかける。
初期レベルでゲーム後半の竜さえ屠る爺さんは余計な事は言わず、簡潔に疑問を投げかけてきた。
「手段はあるのか?」
「俺には魂を直接刈り取る力がある。お前らよりずっと使いやすいスキルがな」
「どう手伝えばいい」
「好きにしろ。初めて共闘する奴に合わせる気もない」
「リファーヴァント、貴様……主を裏切るつもりかぁぁああアアア!」
俺がそう言い捨てた時、先ほどからずっと何か言ってた水将が吼えた。
「湟牙」……全魔法の中でも屈指の実力を誇る無数の水剣が、結界を容易く突き破る。
既に第二形態の姿をとった水将……一筋縄ではいかねぇか。




