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41.ギレムス遺跡――6

「――っと?」

「ファリス様!」


 不意に視界が揺れ、足元がおぼつかなくなる。直後、何か暖かいものに包まれるのを感じた。

 我ながら珍しい思考の空白の後、倒れそうになった自分がリフィスに受け止められているんだと気づく。


 ……拙い。

 今誰かに襲われれば致命的だ。力の抜けた身体では碌な抵抗もできないだろう。

 せめて、どこか安全なところに逃れねぇと……!

 何のビジョンも無いまま、ただ募る焦りが闇雲に身体を動かそうとするが意味は無い。

 パニックに陥る俺の視界に、よく見る呆れ顔とは微妙に異なる表情をしたキィリが近づいてくるのが映る。


「……少し、休むといいわ」

「ッ……!」


 身をよじって逃れようとするが叶わない。

 やがてこちらに手が伸ばされ……混乱の中、俺の意識は途切れた。



 ……身体の下に、ほのかな熱を感じる。

 誰かに背負われているのか?


 いや、待て。そもそも今の状況はどうなってる?

 意識が戻っているのは隠したまま周囲の様子を窺う。

 聞こえてくるのは戦闘音。

 声から判断するに、エマとキィリが前衛。それでジールとリフィスが銃、魔法で後方から援護しているようだ。これまで前衛だったリフィスが下がっているのは俺を背負っているからで、その穴を埋める形でキィリが前に出ているのか。

 普段の戦いでは魔法を使うばかりで動こうとしないキィリだが、思いのほか戦えている。そのスタイルは割と初歩の技術を力技で補う、どこかリフィス(魔人)にも似たもの。


 優勢らしいのを良いことに思考を続ける。

 確か俺は、隠し通路の奥にあった圧殺部屋の罠を力尽くで破って……そのまま倒れたのか。

 どういう事だ?

 脳内の情報を片っ端から洗い出し、その時の症状が貧血とか魔力枯渇に似ている事を突き止める。

 だが、あの程度で力を使い果たすほど俺は魔力に困っちゃいない。

 ならば何故……?

 まず、ほぼ確定した事として人化した状態から全力の爆炎波(タイダルフレイム)を撃つと魔力枯渇で倒れるとする。

 問題は原因だ。

 人化すると一度に出力できる魔力の量がかなり制限される。

 これまで意識した事は無かったが、その原因が一度に扱える(、、、、、、)魔力量そのもの(、、、、、、、)の減少にあるとしたらどうだ?

 そのキャパシティの限界に近い魔力を一度に使用すると、人化に際して抑え込まれた大本からの魔力の補充が追いつかなくなる……そう考えれば筋は通る。


 もちろん検証は必要だろうが、大まかな認識としてはこんなところだろうか。

 何より面倒なのは、今後人化したままで大量の魔力を使おうとすると今後も似たような事態につながりかねない事だ。

 エマに話した時の、俺が魔人の血も引いてるとかいう設定にテコ入れして言い訳作っていく必要があるかもしれないな。


 ……思考が一段落したところで、ふと思い至った事がある。

 キィリ(読心能力)だ。

 次いで思い出すのは、力尽きた時の自らの錯乱した思考。第二形態とかいう安全ラインさえ忘れて狼狽するという醜態。


「ッ……!」


 頭が沸騰しそうなほどの殺意が理性に押し潰されて悲鳴を上げる。

 当然だ、衝動に任せて今すぐ動くような愚は侵さない。

 殺るなら不幸な事故で済む時間と場所、タイミングで。これまで旅を共にしてきたよしみだ、自覚する暇も与えず楽にしてやる。


 ……だが(、、)

 そんな理屈とは別の何かがブレーキをかける。

 それでいいのか、俺はいま積み上げようとしているものの土台に手をかけてるんじゃないのか。

 既に何通りも練られた暗殺計画とは次元が違うほどの稚拙な考え。根拠も無ければメリット、デメリットの管理だって曖昧に過ぎる。

 この思考は、なんだ……?


「……ファリス様?」


 リフィスの声が、俺を現実に引き戻した。

 それとほぼ同じタイミングで核を破壊されたゴーレムの身体が崩れる音が響く。


「……御苦労だった、リフィス。自力で立てる」

「畏まりました」


 いつも通りの腹心に少し落ち着きを取り戻す。

 ……そういえば、さっきの物騒な考えもカモフラージュしてなかったって事は筒抜けか。

 キィリ自身は前線にいたとはいえ読心は常時発動型と言っていたし、部分的にはバレているだろう。

 最悪、リフィスだけ連れて振り出しに戻るかもしれないな。どこか達観した思いでキィリを見ると……小生意気な少女は、例の呆れ顔に似た微妙な表情を浮かべていた。

 憐れんでいる、のか? そう感じた瞬間、また心が波立つ。

 だが、分からない。この感情は単なる憤怒や憎悪とは違う。俺は……どうしたいんだ?


「ようやく起きた? 調子は……ある程度戻ったみたいね。用事も済んだし、さっさと外に出るわよ」

「お、おう。そう……だな」


 何を考えているのか、キィリは俺の考えていた事には一切触れなかった。

 俺の方としても今だけはその方がありがたい。

 俺たちに背を向け歩き始めたキィリに倣い、俺も黙々と足を進めることにした。


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