4.再動――3
「んー……」
ゲームじゃ炎将の支配下にある街はダンジョン扱いで、普通に魔族とのエンカウントもあったが……。
これは街として機能してないな。
そこらで魔族同士が争ってたり、人間を襲ってたり。余波で建物もボロボロだ。
暇があれば飛び回って抵抗勢力を街ごと滅ぼしてたことも考えれば、国全体がこんな感じか。
万が一にもバレるリスクを考えると、良いヒトやる上で結構な負債になるんじゃないか?
だが、逆になんとかする姿勢だけでも見せれば挽回は効くだろうし――やる価値はあるな。
「ひッ……」
目の前で震えているのは二人の人間。この雑貨屋の店員だ。
俺も王族の公開処刑なんかで普通に顔出してたし――って、仲間になるキャラも一人交ざってたな。惜しいことをした。
訳も無くコイツらに絡んでいた馬鹿な魔人を目の前で粛清したからってのもあるかもしれない。
「じゃあ、この紙束もらって行くぞ。代金はこれで足りるな?」
「も、もちろんです!」
「あの……お釣りを……」
「ら、ラナ!」
「サンキュ」
お? 元から返事なんて期待してなかったが。
ラナ、ね……コイツは中々肝が据わってるな。
二人の顔を覚えてから店を出る。
善は急げって言うし、早めに行動に移ろうか。
囚われの勇者サマ御一行には悪いが、今しばらく放置させてもらおう。
とりあえず城に戻り、回復していたリフィスを回収。
城の隣にある廃墟は御誂え向きにも無人。まあ、国を滅ぼした四天王のすぐ側だしな。
スペース的には十分だろう。
さて……。
「『煉獄の檻』――ッ、『壊星爆』!」
戦闘中でもないし、魔法だけに集中できるとはいえ……だいぶ消耗したな。
とりあえず場所の確保は済んだ。
魔力を通じて号令を掛ければ、数分も経たずして更地には街にいた全ての魔族が集まった。
その様子を観察しつつ、俺自身の記憶を頼りに脳内で仕分けていく。
「わざわざ集めて悪かったな。密度高くてキツいだろ? すぐ楽にしてやるよ。『乱火槍』」
「「「ギャッ――」」」
「動くな!!」
「「「ッ……!」」」
更地の至るところから噴き上がった火柱が、マトモな断末魔さえ許さず魔族共を焼滅させる。
残った魔族も当然身の危険を感じて逃げようとするが、それは一喝して止める。
まあ、基準を満たすだけの知能があれば逃げきれないことくらい分かるだろうし。
というか……一万近い魔族の、ほぼ九割が脱落か。
理由なく人間及び他者を攻撃した馬鹿ってのは。
――まあ、良い。鞭の次は飴をやらないとな。
「残ったお前らは合格だ。褒美をやるから小さくまとまれ」
「……――!?」
「り、リファーヴァント……様……?」
魔族に与えたのは俺自身の魔力。それが意味するのはリフィス同様の眷属化だ。
度重なる大技で場もこの上なく俺の魔力に馴染んでるし、だいぶ楽だ。
眷属化には諸々の恩恵……ゲーム的に言えばモブ連中が中ボスに昇格するくらいの効果がある。
雑魚に半端な力を与えても意味なんて無いってのは俺たち共通の認識だが……今後を考えれば、手駒は多いに越したことないし。
今合格した奴らならそう馬鹿なことは考えないだろう。
唯一の眷属って特権を無くしたからか絶望的な表情で凍り付いてるリフィスも早めにフォローしておくか。
「言っとくがリフィス、お前が特別な眷属なのは変わらないからな」
「…………!」
凄い勢いで顔を俯かせたリフィスだが、荒ぶる狐耳と尻尾を見るに機嫌は直ったとみて良いだろう。
コイツらに適当な指針を示したら次は人間だな。
やっぱり下手に全投げしたら身内で勝手に揉めるだろうし、俺の権威で纏めるか。
面倒は力で抑えつつ、結果的に良い思いでもさせてやれば陥ちるはずだ。
なら――俺は再び魔力を通じ、街中の人間に此処へ集まるよう命じる。
おまけ程度の強制力はあるが、全員が従う訳じゃない。そこで魔族の出番だ。
「俺がお前らを残した理由は――っておい、お前ら聞いてんのか?」
「「「勿論です、リファーヴァント様!!」」」
なっ……?
魔族共の態度が、さっきまでと全然違う。
凄ぇやる気に満ちた返事をしてくれやがったのは幸い一部。
だが、全員が大なり小なり忠誠心宿る眼で俺に注目しているのはどうなんだ。
……いや、いかん。悪い事じゃないんだ。
気を取り直せ。こんな事で動じる炎将じゃないだろう?
「あー、俺が望むのは一つ。使える手駒だ。意味なく火種と禍根を量産するような馬鹿はいらない」
「「「御言葉、肝に銘じます!」」」
「……そ、それでだ。最初の命令。今俺が出した召集に従わない人間を迎えに行け。五体満足で連れてくるのが難しいようなら俺が出るから呼ぶように」
「「「はっ!」」」
「リフィスは残れ」
「…………」
「特別って言ったろ?」
「……私は…………夢を、見ているのでしょうか…………?」
「そうかもな」
この俺が……恐れているのか? あまりにチョロ過ぎる魔族共を。
なんだ、俺の眷属になるのってそんな良いもんなのか? リフィスみたいに命拾ったわけでも無いのに……。
ともかくまた沈みかけてるリフィスを現実に引き戻し、俺に起きたこと――前世の記憶と、それによる変化を全て伝える。
ちょうど良い時間だし、勇者サマ御一行に渡すゲーム知識メモを作りながら。
今くらい場を染めてないと無理だろうが、炎で焦がすと作業が速いな。
パソコンとやらがあれば三部コピー余裕だったんだが。勇者一人に渡すと即処分とかありそうだし仕方ない。一応破壊耐性も付与しておこう。
「――その上で確かめておこう。お前の忠誠に期待して良いな?」
「当然……! 我が身、我が命、我が心の全てをリファーヴァント様の為に!」
こればっかりは眼を見て確認する。
普段とは比べ物にならない口数に加え、決意の炎が見えるような金色の瞳。
……流石に、疑いようもないな。
「ならその忠義に応えてやるか」
「…………!」
最初の眷属化の時から、最大限の魔力を注いではいたが。いずれ能力を取り込む布石として。
馴染んだからか増えていた容量分、追加で魔力を与える。
魔法陣から放たれた光を浴びたリフィスは、文字通り狐色だった毛並みが朱色に変わった。
何か食べ物を連想しそうになるが……いや、今うどんはどうでも良い。
自分で来た奴も眷属連中に運ばれてきた奴も、人間が集まり始めたからな。話はここまでだ。