37.ギレムス遺跡――2
「――『狼牙連襲』!」
「『閃爪』」
エマの連撃が曲がり角から現れた人造ゴーレムの身体を揺るがし、生じた隙を突いたリフィスの一撃がその核を斬り裂いた。
この手の敵の末路は色々あるが、今回の相手の身体は砂になって崩れ落ちた。
「弱点むき出しの相手とはいえ、中々手早く仕留めるじゃねぇか」
「あ、ありがとうございますっ」
「恐れ入ります」
軽くコメントすると、二人はわざわざ振り返って頭を下げる。
……こういうのも悪くない。
なんとなく、そう感じた。
隙が大きい代わりに威力に補正がかかり連続で攻撃できる上級スキルを上手く使いこなして地力を補っているエマと、シンプルな下級スキルで魔族ゆえの力を的確に叩き込んだリフィス。
戦法の違いとはいえ結果的に素のステータスと動きの関係が逆になっているのが見ていて面白い。
特にエマ。
ステータスの方は未だに貧弱だから油断して失う事のないように気を付けないと……そう改めて意識する必要があるくらいには安定した戦力を発揮している。
何も無ければ片田舎で蔑まれながら地味な一生を送っていた小娘がここまでの才覚を秘めていたとは皮肉なものだ。
ゲーム時点での能力とはまた別だから尚更、エマ自身のポテンシャルって感じがする。
そういえば最近エマにかかりっきりだったが、リフィスも上級スキルは使えるようにしておいた方が良いな。
それだけのスペックがあるかどうかはやってみないと分からないが、試す価値はあるだろう。
そんな事を考えながら、時折遭遇する人造ゴーレムや亡霊を順調に撃破する二人の後を歩いていると……不意に、乾いた銃声が響いた。
「今の音は……?」
「気になるな、行ってみるか」
まさか初日で掛かるとは思わなかったが、これは僥倖って奴か。
ここらで……いや、現時点では地上界全体を見ても、銃を扱う人間はただ一人。
最初から[銃士]の天職を持つ唯一の存在、ジール。
今回この遺跡に立ち寄った最大の目的である人物に接触するため、俺は音の聞こえた方へ歩みを進めた。
「これは――」
「行き止まり、か……」
「あー、ファリス」
「なんだ?」
「一応言っておくけど、今向かってる方向は目的地の真逆よ」
「む……」
「…………」
「先ほどの十字路へ引き返すなら、この分かれ道は左です」
「そうか」
それから歩くことしばし。
俺は……道に迷っていた。事が起こっているであろう部屋へキィリの感知を頼りに進むも、一向に辿りつけない。
そろそろ間に合わないんじゃないか? それは困る。
いよいよそんな懸念が頭を過ったころ、案の定キィリが状況に一刻の猶予も無いことを告げた。
……仕方ない。
今まで彷徨った道の中で、問題の場所への直線距離が一番近いと思われる通路へ移動。壁に手を押し当て、魔力を込める。
「爆ぜろ! 吹っ飛べ! 一切合切焼き尽くせ! 『爆炎波』!!」
大急ぎの詠唱で威力を増幅させた火炎がゼロ距離で内壁にぶつかり、指向性を持つ爆発を引き起こした。
一時的に視界が砂煙で覆われるが、確かに撃ち抜いた手応えはあった。熱風を起こして砂塵を振り払うと、魔法は無事に目的の部屋の壁に大穴を開けていた。
「な、な、なん……っ」
「悪ぃな、邪魔するぞ」
銃は……よし、部屋の隅にちゃんと転がってるな。反対側の端だしすぐ拾うわけにはいかないが気を付けておこう。
部屋の中には柄も格好も悪いチンピラが三人。そして、そいつら同様に爆発で吹き飛ばされたらしい暗紅色の長髪を適当に束ねた少女……ジール。
服が多少乱れてるのが気になるが、脱げちゃいないからセーフだろ。結果論だが、恩を売るにはベストなタイミングになったか?
「早速だがお別れだ。『血赤の追牙』」
「「「ッ――――!?」」」
エマの訓練にも使っていた炎獣を三匹放つ。
もっとも、今回は手加減無しだ。炎獣はまともに反応も出来ていない雑魚共を、悲鳴さえ上げさせずに焼き尽くした。
ゲームじゃこのイベントでジールの動きを封じるのに使われていた装置が地面に落ちていたのを回収。
そのまま歩みを進めて銃を拾い、動かない身体で無理に起き上がろうとしているジールに手渡す。
「――答えて……っ。アンタたちは、何者?」
「ファリス様!?」
銃を受け取った少女の手は、最小限の動きで銃口を俺に突きつけてきた。
ったく……麻痺した身体で良くやるもんだ。




