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35.ギレムス

 次の目的地ギレムスに着いたのは、ツィルスを発ってから一週間ほど後の事だった。

 訓練の甲斐あってエマは[上級剣士][魔導士][属性適性・炎]の天職(ジョブ)を得た……と思われる。

 使えるようになったスキルとか魔法を元にしての推測だから、間違っちゃいないはずだ。体力(ステータス)面がついていってないのがネックだが、まぁエマなら上手く使うだろ。


 「セグリア・サガ」の魔法習得の形式は少し変わっているが、そこはこの大陸でも同様らしい。

 [魔導士]のような魔法系の天職は、属性適性系の天職と合わさって初めてその真価を発揮する。リフィスの雷属性のような特殊なものは本人の資質に左右されるが、火水風土陽陰命の七属性は後天的に得る事が可能。

 その方法は属性に関する攻撃の経験を積んだり、逆にその属性の攻撃を喰らったりすることが一般的だ。エマだと後者は言わずもがな、前者の方は実戦のときに炎属性付与とかのサポートをしてやったのが効いたんだろう。

 ちなみに他の天職同様、属性適性も例えば火なら火→炎→焔って具合に成長させられる。


 俺が他の属性の適性を得られるかは気長に試すとして、エマとキィリには全属性の適性を習得させておきたいところだな。

 今のままだとリフィスが雷属性ある以外全員が炎一色だし、手札は増やしておきたい。

 まぁ……今回はどれとも違うスキルを回収に来たわけだが。


「……こ、これは……」

「ん?」


 エマの震え声に、意識を現実へ引き戻す。

 目の前にはそこそこの大きさの廃墟が広がっていた。

 あー、そうか。

 どうせ読心で知ってるキィリはともかく、リフィスとエマにギレムスの状況は伝えてなかったな。そもそも表向きは旅の途中にたまたま立ち寄ったって体だし。


「そういやエマは初めてか? 滅ぼされた町を見るのは」

「は、はい……」

「確かにルートゥの周りには無かったが、こういう所はそれなりにある。原因は魔族だったり災魔だったりするが……ここは地域としちゃ大陸中央部だし、災魔の仕業だろうな。荒れ具合を見るに、こうなったのはだいぶ前らしい」

「…………」

「まあ、ベッドで寝れるだけありがたいしな。今日はここで休んでいくぞ」

「住んでいる人も案外いるみたいだし、悪くない判断なんじゃない?」


 目当ての人物と接触するにはこの町に入らないと始まらない。

 順当に行けばこれから巻き込まれるイベントとか考えても実は野宿して町の連中から距離を置くのが無難な選択ではあるんだが……。

 何か言おうとしていたリフィスはキィリが良いタイミングで制してくれたし、とりあえず町に入るのは決定でいいか。


 ギレムスを回って宿を探しながら、知識と実際の建物の配置を照らし合わせていく。細かいところは何ともいえない部分があるが、主要な建物なんかは大体同じだな。

 当然といえば当然だが、ゲームじゃアイテムが拾えたところを見ても何も無かった。いくら廃墟でも、道の真ん中に唐突に鉱石が落ちてるなんて事はあり得ないか。

 鉄クズの積もったゴミ山なんて、案外ありそうな気もするが……そこまで調べるだけのやる気は出ないな。そんな必死になるほど貴重なアイテムでもないし。


「――その槍を返せぇええ!」

「へっ、嫌なこった!」

「畜生、それは俺が盗ったんだぞ!」


 不意に治安の悪さを象徴するような罵声が響いた。建物一つ挟んだ向こう側で何かが騒がしく走り去り、そして再び死んだような静寂が辺りを満たす。

 主要な勢力圏から離れてるせいで、この町は半ば放置されている。冒険者ギルドは一応存在するが、肝心の冒険者も数が集まらないせいでその動きは活発とはいえない。

 そんな無秩序な状態が続けばどうなるか。その答えが先ほどの騒ぎに通じる治安の悪さだ。闇闘技場なんてのもあったはずだが、無闇に関わらないのが吉だろうな。


「……おっ、こんなとこでも冒険者ギルドってのはやってるんだな」

「町の様子からも、まともに機能しているようには思えませんが」

「その辺も含めて情報収集といくか。一応リフィスとエマは外で待っててくれ」

「……分かりました」


 建物に入ると、見慣れない余所者に視線が集中した。

 警戒するにしろ値踏みするにしろ、せめて隠す素振りくらい見せろよ。そう内心で呆れながら少しばかりの殺気を込めて睨み返し視線を散らす。

 掲示板に張り出されている依頼に目を通していると、周囲でも再びぼそぼそと喋る声が聞こえるようになった。


 遺跡関連の依頼は……よし、あるな。第一条件クリアだ。

 さっさと受付に向かい手続きを済ませる。

 ところでここに溜まってる連中の中に、何か面白いこと考えてる奴はいないのか?

 キィリに目を向けると、心底嫌そうな表情で首を左右に振られた。ああ、確かにくだらない事考えてる連中は多そうだしな……読心能力持ちには鬱陶しいか。用事も済んだし、とっとと出てやるとしよう。


「面白そうな依頼があったから取ってきたぞ」

「依頼、ですか?」

「そう心配しなくても普通の依頼だよ。この町が滅ぶきっかけになった災魔と同時に出現した遺跡の調査だってさ。敵でもアイテムでも、掘り出し物があるかもしれねぇぞ」

「あまり、この町に長く留まるのはお勧めできませんが…………分かりました」


 一瞬リフィスの視線がキィリの方に動いた。

 俺もよくやってる事とはいえ、相手の考えを察するのが最近キィリ経由って感じになってるのは、なんだかな……。

 別に誰のせいとか言う話でもないんだが。


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