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33.ドープ草原

 当初の目的(サブイベント回収)も済んだ事だし、ツィルスを発つ。

 次に向かうのは……候補は二つあるが、どちらにするか。脳内にセグリア大陸の地図を思い浮かべる。

 うーん……ここから近い方に寄るのが定石なんだろうが、イベント回収できるかは微妙だな。時系列に依存する出来事だし。

 まぁ、様子を見ていくに越したことはないか。


「ほーら、噛まれると熱いぞー」

「くぅ……っ!」


 草原の真ん中に野営地を設け、俺は訓練と称してエマに炎獣をけしかけて遊んでいた。

 獣を模した炎を敵にぶつける魔法「血赤の追牙(レッドアサルト)」と使い魔生成の中間ってところか。熱も控えめで物理干渉可能だし、我ながら訓練向きだと思う。感覚としてはラジコンを操るのに通じるものがある、かもしれない。

 俺自身が操作に不慣れなのもあって動きは粗いが、魔力を込めたぶん単純な速度と力はそれなりにある。

 エマが自分より強い相手に襲われた時に生き延びる力をつけるのを目的にしてるから、地力は多少上回っているくらいの方が良い。


「っ、今――!」

「そこで進化っと」

「えぇ!?」


 唐突に炎獣から翼が生え、避けられない軌道にあった刺突を華麗に躱す。

 雑魚を甚振るってのとは趣が違うが、これはこれで中々に楽しい。

 最終的に三羽の炎鳥に囲まれたエマが疲労で防御も満足にできなくなったところで切り上げる。

 多少は熱い思いこそしただろうが、回復も必要ないくらいの火傷未満だ。放っておいても大丈夫だろう。

 俺も眠くなってきたな……そろそろ休むか。肩で息をしているエマを抱えてテントに引っ込む。



「――い。起きなさい、交代よ」

「んぁ……」


 キィリに揺さぶられて目を覚ます。時間を確認すると夜明け前だった。

 エマが寝てるのを確認して一瞬だけ人化を解き眠気を飛ばす。

 軽い掛け声と共に起き上がり外へ向かおうとすると、なぜかキィリもついてきた。

 話す事でもあるのか? テントを出て振り返る。


「わたしも早く寝たいし、大した事でもないから手短に話すわね。エマについての事よ」

「ん? 思ったより成長のペースが速いって事か?」

「それも確かに気になるけど別の事。わたしはまぁ分かってるけど、対外的には旅の目的をどう説明するつもり?」

「あー、エマが気にしてたか?」


 質問から大体の事情は呑み込めた。確認の意味を込めて尋ねるとキィリは素直に頷く。

 まぁエマの立場からすれば寧ろそれを気にするのは当然の事だ。聞いてこないのが不思議なくらいではあるが、余計な事を言って捨てられるのでも恐れてるってところか?

 手懐けるには早めに疑念を解消しておきたいところだが、そうなると向こうからは遠慮して訪ねてこない可能性も高い。


 もちろん答えは用意してある。といっても本来の目的と大して変わらないものだし、伝え方の問題ってことになるが。

 四天王の存在からそれを統べる存在……魔王の事を連想するのもそう飛躍した発想ではないし、四天王を撃破したら魔族の侵攻が鈍ったことから魔王の暗殺に同様の効果を期待するのも妥当ではある。

 仮に相手がその考えに納得できなかったとしても、第二の勇者一行として残る四天王であるアズルムイト(水将)ベザンドゥーグ(地将)の暗殺を目論んでいると言えば名目は立つ。

 水将に関してはもう半ば片付いていると言っても過言じゃないがな。

 とすると俺たちとしても勇者としても、レベリングして地将だけ倒したら次はもう魔王か。決戦の時も案外遠くないんだな。

 ……その時[英雄]共には普通に四天王だった頃の俺を上回るくらいの実力が無いと話にならないわけだが。そっちはまた追々進めていくとしよう。


「……相変わらず、嫌味なくらい良く回る頭ね」

「凶暴・狡猾・冷徹と三拍子揃った最悪の魔族だからな」

「何それ?」

「煽り文……キャッチコピーみたいなもんだよ。悪くないだろ?」

「最悪って言われてるじゃない。まぁそんな事はどうでもいいんだけど、結局エマにはどう話すつもりなの?」

「そうだな、こっちから話す方が手っ取り早いだろう。勿体付けるような内容でもないし、食事のついでに軽く言っておけば十分なはずだ」

「それが妥当なとこかしらね。ふあ……それじゃわたしは休むから、後はよろしく」

「おう」


 そう言うと欠伸を漏らしながらキィリはテントに戻っていった。

 さて、俺はどうしたものか……見張り番なんてそんなもんだが、こういう時間が一番持て余すんだよな。

 少し考えたが、今回は魔剣製造を夢見ての特訓に費やすことにした。

 若干だが成功率の高い新品の剣を遣えるのはリフィスが寝てる今だけ! ってな。


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