32.ツィルス――5
地を砕き現れた魔獣はワーム。
その外見を表現するなら前世でいう電車が一番近いか。アレの体積をそのままに、蛇と芋虫を足して二で割ったような見た目をしている。
その外殻はまさに電車……鋼鉄に匹敵し、並の装備では歯が立たない。
レベルを見るまでもなく、流石にコイツがエマの相手に早過ぎるくらいは分かる。
そんな事より、せっかくのハウンド共の拘束を解きやがって……。
「人の邪魔してんじゃねぇよ! 『紅狙砲』ッ!」
「オオオォォ……」
手元に圧縮した炎球に指向性を与え、火柱に変えて眼下の虫ケラに叩き付ける。
人化した状態で出せる最大火力に中身を焼かれちゃ自慢の外殻も無意味だ。
悲鳴さえ半ばで燃え尽きたワームの骸に降り立ち、再びの「滅びの炎雨」で改めてハウンド共を拘束する。
……ほらミスった。さっきは全員抑えられたのに、今度は勢い余って仕留めちまったのが数体。
今ので場の魔力も俺色に傾いたし、こうも縄張り主張しちゃ新手にも期待できないだろう。
「えっと……」
「ほらエマ、何ボサっとしてんだ。続きやるぞ続き」
「は、はいっ」
思ったより稼げそうにないな。
エマが辛うじてその辺の雑魚となら戦えるって分かっただけでも収穫とするか。
それもこれもこのワームのせいで……ん?
そういや外殻はまだ使えそうな感じで残ったが、もしかして売れるのか?
「――はあぁッ!」
「ギャウ!?」
エマとハウンドの戦いを横目に、仕留めたワームをリフィスと解体していく。
まぁこういうのも悪くないが……金を稼ぐなら適当なところで金貨使って釣銭もらえば済む話じゃないか? 持ち歩いてるだけで使えないようじゃ持ち腐れって奴だしな。
適当にタイミングを見て今度話してみるか。
「――よっ、と」
軽く力を入れてワームの外殻を剥がし、収納魔法で回収する。
ワーム肉……美味いのか? 生で見てもよく分からねぇな。
「――っ、えぇー……」
「む……どうしました、キィリ?」
「下からワームの大群。わたしとエマじゃ対処できないから助けて」
「っ……分かりました」
「えー……面倒臭ぇ……」
それまで何もしてなかったキィリが、唐突に嫌そうな声を上げた。
ワームの大群って……なんだよそれ聞いてねぇぞ。
「セグリア・サガ」には無かった展開に内心で愚痴を零す。
動き出したリフィスが、敵の気配を察知したらしく視線を下に降ろす。間違い様のない地鳴りが響いたのは直後の事だった。
俺の忠臣はキィリの方に向かってる。これじゃエマまで助けるのは間に合いそうにない。
仕方ないな……。
溜息混じりに駆け出しつつ炎針で交戦中のハウンドを始末。エマの小柄な身体を抱え上げるのとほぼ同時、一際大きな揺れと共に地面が裂けた。
下から突き上げる勢いに逆らわず、先ほどと同じように上空へ吹き飛ばされる。
「「「オオオォォォン……!」」」
「ちッ……」
見下ろすとそこには十体近いワームの姿。どれも最初に倒した個体よりは貧相なのを見るに、先走ったリーダーを群れが追ってきたって形か。
元々低い知性が完全に吹き飛んだ目が一斉に俺を睨んだ。
リフィスたちは……まだ地表にいるが、ワーム共の突き上げはうまく避けたらしい。
逆にハウンド共は全滅か。拘束したままだったし当然かもな。
いよいよ訓練どころじゃねぇよ畜生!
「『紅狙砲』ッ!」
「オオォァァア……」
苛立ちを込めた一発で手頃な位置にいた一体を仕留める。
ああ地味に面倒臭い。
人化さえ解けりゃ炎嵐でも起こして一網打尽に出来るんだが、流石に今の姿じゃ出力が足りない。
……この際だ、気分優先で行くか!
「『朱塗血刀』」
エマを抱えてるのと反対の手に生み出すのは、下手すれば俺自身よりデカい刀身を持つ炎の刃。
宙を蹴って一番近くにいたワームに接近し、一閃。
ずり落ちる頭を足場に次の獲物へ飛び掛かり、また一閃。
最初に斬った首が地に落ちるのと、最後の一体を仕留めるのはほぼ同時だった。
崩れ落ちる身体から飛び降り、まだ動く頭部一つ一つにトドメを刺して回る。
まったく……マジで散々だったな。
もうサブイベントに期待するのはやめる事にしよう。
今度は全員でワームを解体しつつ、俺は心の中で呟いた。




