3.再動――2
新シリーズ3話投稿の三話目です。
「まあそう殺気立つな。お前らを殺す気はもうないし、ついでに四天王でもない」
「巫山戯るな!」
怒鳴り声に含まれる憎悪は想定の範囲内だ。
そもそも騎士クロムからして、俺が騙し討ちで腕一本奪ったのが死因の一つだし。
「まず確認したいんだが、お前日本人だよな?」
「……それがどうした。まさか貴様も――!」
「違う違う。確かにさっきその記憶に気付いたが、今の俺をあんな虚弱共と一緒にすんじゃねえ。それよりお前、セグリア・サガって知ってるか?」
「何を言っている?」
しらばっくれてる様子は無いな。
じゃあもうコイツは用済みだが……一応もう少し確かめておくか。
幸い、会話も成り立たない訳じゃないし。
「俺は今のところこの世界と全く同じストーリーのゲームの記憶があるんだよ。お前、グリフタの町でペット探しを手伝っただろ」
「!」
「脈アリだな。それ、最初に東へ向かった時の四天王イベント開始フラグだ」
「……結局、貴様は何が言いたい」
「さっき日本人の記憶に気付いたって言ったろ? 色々知って考えが変わったのさ。魔王への忠誠なんざ微塵もねえし、勇者に殺されるのも御免だ」
「…………」
「これは俺の情報だが、魔王はバカみたいに強いからな。お前が潰してくれるってんなら喜んで逃がしてやるよ」
「……それを信じると、思うのですか?」
黙り込んだ勇者に代わって、レミナが口を開いた。
こっちは……敵意はあるが、憎悪まではいかないな。
聖職者らしいというか、立派なもんだ。
「別に、お前らが信じても信じなくても構わない。改心した俺を見逃して、ついでに魔王を殺ってくれればな」
「あなたが……改心?」
その言葉は疑いに満ちていた。
ゲームじゃレミナは割と単純なお人好しだったが、そこまでチョロくないか。
なら……ここで言っとくか。
俺の思惑を知ってる奴だって少しはいた方が面白いだろうしな。
「例えば勇者、お前できるなら今すぐにでも俺を殺したいだろ?」
「当然だ」
「大陸にいる人間なら大体そうだろうよ。それを心から陥としていくのさ」
「洗脳か!?」
「違う、あんな面倒で不完全なもんじゃねえ。[英雄]ってのはお人好しが多いからな、逆らえなくなるまで恩を売るんだよ」
「…………」
「そのままだったら敵意全開で向かってくる奴らを誑かして従える。想像するだけで滑稽だと思わねえか?」
「……それが、改心だと言うのですか?」
「行動だけ見れば改心以外の何物でもないだろ。ああ、これからのイベントで覚えてる範囲の内容は教えてやる。纏めてくるから少し待ってろ」
「待てっ――!」
「待つのはお前らだって」
炎癒をアズールにも掛けた後、魔力を奪って炎で檻を補強。
ついでにゲームじゃアイテムを無力化する効果のあった虚無の領域も使っておく。
この状態じゃ薬草を齧ってもただの草。この魔法、ゲーム的には奥の手だった気もするが……まあ良いか。使い道そんなに無さそうだし。
それより、さっき話してて一人思い出した奴がいる。
唯一俺が魔力を与えて眷属にした魔人――リフィスって名前も、俺がつけた。
ゲーム知識を信じるならアイツの忠誠心は本物だ。実際に俺を庇って死ぬルートだってあったし。
……拾った目的なんて、珍しい雷属性をどうにか奪うことだけだったが。
もう力に興味は無いし、また違う形で役に立ってもらおうか。
勇者共に不意打ちかけて返り討ちに遭ってたが、幸い死んじゃいないはずだ。
今やこの街は魔術的に俺の手の内にあるようなもの。
まして城の中ともなれば、誰が何処にいるかくらい分かって当然だ。
リフィスは……いた。今にも死にそうな様子で廊下に伏している。
電気で無理矢理に身体を動かして、向かおうとする先は……俺の部屋か?
「う……」
「よう、リフィス。ご苦労さん」
「リファ……ヴァン、ト様……ご無事……で……」
「話は後な。今は身体休めて待機してろ。『炎癒』」
魔法だけ掛けて俺は城の外へ。
俺が生きてる以上、アイツに手を出すような魔人もいないだろうし。
確か城に紙は無かったな。……俺がなんとなく燃やした所為で。
まあ、過ぎたことは仕方ない。
俺はメモが取れる紙を調達しに街へ向かった。