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27.ルートゥ――7

「――えっと。こういう時、どっち(、、、)で呼んだら良いのかしら?」

「ん? そうだな……」


 ルートゥへ向かう途中、背中のキィリが呟いた。

 普通に考えて人間の名前であるファリス呼びは論外だ。誰かに聞かれることが正体の露見に直結する。

 だが、炎将リファーヴァントとして呼ばれるのも……あまり望ましいことではない。今までの所業が所業だ、関連づけられれば足枷にしかならない。

 じゃあ……また新しい名前を考えないといけないのか? 面倒だな。


「思考は読めてんだろ? なんか適当に考えろ」

「急に言われても簡単に思いつくものじゃないわ」

「別に何だって良いんだよ」


 そういやエマには紅い魔人とか呼ばれたな。

 もうレッドで良いか。

 魔人の姿で誰かと関わるつもりもないし、適当でも問題ないだろ。


「で? それだけか?」

「……レッド。あの村に着いたら、何をするつもり?」

「あ? 今更どうした、読心誤魔化した覚えは無ぇぞ」

「なら言うけど。種隷(スレイブ)への対処と、エマの差別の原因になった宿屋の主夫婦の抹殺……違う?」

「いや、合ってる。それがどうかしたか?」


 いまいちキィリの発言の意図が掴めない。

 一体なにを気にしてるんだ?

 意味もなくこんな話をするような奴じゃなかったはずだが……。

 首を捻っている俺に、キィリは言葉を続ける。


「種隷に関して、何も分からないわたしが口出しする事は無いわ。でも、それ以外……村の人たちに手は出さないで」

「は? 俺は別に理由(ワケ)もなく虐殺しようってんじゃない。元凶をシメるだけで事を収めるあたり、むしろ良心的だろ」

「一面から見ればそれも事実でしょうね。でも、エマから見たら? それがどんな人間であったとしても、彼女は二人を育ての親として慕っているわ」

「いや……冗談だろ? あんな目に遭って、その元凶に対して持つ感情じゃねぇ」

「確かに、その感情が純粋な好意とは言い難いわ。でも、恩義を感じているのもまた事実。……それとも、わたしが嘘を吐いているように見える?」

「………………」

「まあ正直に言えば、わたしもアイツらには虫唾が走るけど。だからってエマの家族を葬るのは良心的だと思う?」

「……チッ」


 気に入らねぇ。が……そう言われちゃ、良いヒトとしては動けない。

 それに、焼き討ちが今後エマを手懐けるにあたってマイナスになるだろうって計算くらいはできる。

 なら、引き下がる他ない。

 この鬱憤は種隷にでもぶつけることにするか。


 やがて目的地(ルートゥ)に到着。

 種隷は休息を必要としないって設定だった。この村に用があるんなら、深夜でも徘徊している可能性は十分にあるはず。

 展開した黒炎で夜空に紛れ、魔人の視力で上空から村を見渡す。

 …………見つからないな。

 それらしい二人組を見つけたと思ったら、単に人目を忍んで逢引してるカップルだった。勝手にやってろ。


「……戻る?」

「いや、知識に無い種隷が何考えて動いてるのかは知っておきたい。本格的に何か狙って人間に擬態してるんなら屋内に居る可能性もあるし、もう少し探す」

「分かったわ」


 幸いルートゥはそれほど大きい村じゃない。

 それにキィリの読心は、一定の範囲内なら屋内外問わずに有効だ。

 目当ての相手の判別方法が限界まで抑圧された犠牲者の意識ってだけあってキィリの集中力こそ要求されるが、そこまで困難な作業でもない。

 一度降り立って人化し、気配を消しながら地道に村を回っていく。

 そして……。


「――!」

「来た、か……?」


 キィリが反応を示したのは意外な方向だった。

 そっちに建物はない。小さな畑があるくらいで、獲物の姿もまた見えない。

 だが俺の問いにキィリは頷く。

 そう……井戸の中で、何者かが蠢いていた。

 音を聞く分だと這い上がってきているようだ。気配を殺したまま死角へ隠れると、やがてぬっと突き出た手が井戸の縁を掴んだ。


「「…………」」


 下級の種隷に言語能力は無い。

 掛け声一つ上げることなく、一見普通の人間に見える二人が井戸から姿を現した。しかし一方の片腕は頼りなくぶらぶらと揺れ、もう一方の片足からは濁った血が大量に流れていた。

 片腕が砕けている方は、無事な手に奇妙な光を帯びた鉱石を握っている。

 ……周りに余計な奴は居ないな。


「よう、面白そうなもの持ってんな」

「「…………」」

「ちょっと寄越せよ――っと!」


 姿を見せて声を掛けると同時、鉱石を握った種隷は一目散に駆け出した。

 対照的に突っ込んできたもう一体を炎剣で両断。逃げた種隷を飛び越えて正面に立ち塞がり、相手が方向を変えるより早くその首を刎ねる。

 これでも種隷は死なない。器になった犠牲者が死んでも動き続ける。

 ……というわけで、鉱石だけ奪い取って炎で焼き尽くした。レベル20にも満たない雑魚を相手に手間取る要素など無い。


「これが、奴らの目的?」

「なんか変には見えるが……分かんねぇなコレ」


 「セグリア・サガ」にも無かった要素だし、思い当たる節は全く無い。

 スタグバールのメーゼ(狂科学者)に見せたら何か分かるか?

 会いに戻るにしても当分先の話だろうし、今は収納魔法で保管しておこう。

 とりあえず、これで本当にルートゥでの用事は終わり。

 再び人化を解いた俺はキィリを背負い、野営地へ引き返した。


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