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26.ルートゥ――6

 さて……片っ端からイベントを無視してこんな田舎まで来たわけだが。

 目的の[英雄]、エマが手中に収まった以上もうこんなところに用は無いな。

 他に抑えておきたい候補がいないわけでもないが……エマは大器晩成タイプ。

 しばらくは特訓を優先してやるべきか――。


「ちょっと、ファリス」

「ん?」

「なに全てが終わったみたいな顔してるのよ」

「……?」


 今後のことを考えているとキィリにたしなめられた。

 何か忘れてる事でもあったか……?

 少し考えて思い出す。

 コイツの能力(読心)が発覚した理由の一つ……種隷(スレイブ)

 そう思われる何かがこの村(ルートゥ)に居るって話だったか。

 キィリがその姿を見てから割と時間が経ったから、場合によっちゃもう村にはいない可能性も高いがな。

 ……まあ、村には用事が無いわけでもない。一回向かうくらいは良いだろう。

 とはいえずっと立ち止まってるのも怪しいし、エマに事情……俺たち魔人組やキィリの読心を明かすのはまだ早い。

 適当に誤魔化して移動を始めるか。


「――ん? キィリは何かやり残したでもあったのか?」

「はぁ……大したことじゃないし、別にいいけど。また時期を見て埋め合わせしてもらうわ」

「じゃあ決まりだな。とりあえず、手頃な魔獣が出るっていう南の方でも目指すか」

「南、ですね。かしこまりました」

「ん、了解」

「わかりましたっ」


 エマだって体力が低いわけではないが、三人だった頃に比べればペースは落ちる。

 日が暮れるまで歩いたとしても、人化を解けばルートゥとの間を往復するのにそう時間はかからないだろう。


 問題の種隷だが、俺には一目で識別とかそんな便利な事はできない。

 確実に目的を果たすにはキィリも連れていくことになるな。

 寄生されてる人間を助けてやれれば最上だが……難しいだろうな。

 「セグリア・サガ」の情報と同じなら種隷の本質は浸食・同化。加えてゲーム中では種隷にされた人間を助けられたケースは存在しない。

 テンプレを参考にするなら、寄生初期に植え付けられた種を引き剥がせば可能性が見えるが……微妙だ。

 そもそも今回のケースが初期かも分からないし、そういうパターンにつきものの障害である器へのダメージとかへの対策が何一つ取れていない。

 余計な情報を与えることになる前に一撃で仕留めるのが今出来るベストになるだろう。


「「「キチチ……」」」

「ん?」


 神経を逆撫でるような鳴き声が思考を遮った。

 音源を求めて顔を上げると、雲一つない青空を汚すようなくすんだ色合いの鳥が三羽。

 サイズはそれなりに大きい。頑張ればエマくらい攫えそうにも見える。

 人里から離れていればかなり色々な地域で見かけられる、下級とはいえれっきとした災魔だ。地域によって呼び名も色々あるが、それはどうでもいい。

 大陸南部、スタグバール周辺ではネイグとか呼ばれていたはず。


 視線を追ってその狙いを読む。

 ネイグの脅威度は、万全なら多対一にでもならない限り並の冒険者でも身を守れるくらいには低い。

 多くの場合は荷物を駄目にすることで嫌われるこの鳥の視線の先には……エマがいる。相手をさせるにはまだ早いな。


「んー……『炎針(フレアニードル)』」

「「「ギッ――」」」


 目を細めて照準を合わせ、小さな炎を三つ飛ばす。

 中々の速度で直進した炎針は狙い通りに鳥共の首を貫いた。例によって小さい爆発で落下の勢いを和らげる。

 この鳥、肉は不味いが爪と嘴が良い素材になると聞いた。状態の良いものを売ればそれなりの金額にはなるだろう。


「どうだ?」

「お見事です」


 そちらに顔を向けると、情報源(リフィス)は慇懃に一礼する。

 旅立ってすぐは死体の処理とか気にするのが面倒で燃やし尽くしては注意されたものだった。

 それで……そう、晩の用事を考えていたんだった。

 まあ、種隷については実物を見ないと今以上考えても無駄か。

 もう一つ、俺の用事の方だが……エマの迫害の原因になった宿屋。

 こっちは別に焼き尽くしても構わないな?


 日が暮れたところで適当に野営の準備。

 リディスの料理に舌鼓を打った後テントに入る。

 結界をセットし、エマが寝入るのを待って行動を開始する。


「じゃあ俺とキィリは種隷っぽいのを探しにルートゥへ引き返してくる。リフィスはエマの方を頼む」

「お任せください」

「すぐ戻るが、一応警戒は怠らないように。命令はエマの護衛だが、万が一の時には自分の命を最優先にしろ」

「お言葉、肝に銘じます……!」


 リフィスは人化したままだが、なんとなく揺れる尻尾が見える気がした。

 まったく……何がそんなに嬉しいのやら?

 ともあれ、ここで長々と念押しするよりさっさと用事を済ませたほうが速い。


「どうだ?」

「大丈夫なんじゃない?」


 一応、周囲の人目をキィリに尋ねる。

 読心に頼った方法だから、意思のない人形……使い魔くらいなら大丈夫だが、秘宝なんかで監視カメラっぽい事をされると無力なんだよな。

 もう一体くらい自分の周りを把握するための使い魔でも作れたら便利なんだが、キャパシティ的に限界があるからな……。

 あまり得意ではないが、今は俺自身の索敵で確認を重ねておく。

 こうして割と穴だらけな安全チェックを経て人化を解除。

 キィリを背負い、俺はルートゥへと飛び立った。


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