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2.再動

 新シリーズ3話投稿の二話目です。

「おい、二階廊下でノロノロ歩いてる三匹! 十秒で来い!」


 俺は城内に意識を巡らせると、適当なところにいた魔人を呼びつける。

 それから間もなくして、三体の魔人が息せき切って飛び込んできた。


「この城には地下牢があったな。コイツらを放り込め」

「「「ご命令、承りマシた!」」」


 人語もぎこちない下位の魔人が怯えきった様子で応えたのを確認して身体を横たえる。


 第二形態。それは最高位の魔族の死を覆す力。

 俺が覚えている限りじゃ、なるのはこれで二回目だ。一回目は魔王様の圧倒的な力に魅せられ忠誠を誓った時。

 この姿は普段に数倍する力を発揮できる代わりに身体へ大きな負担を掛け、寿命も削る。

 

「ッ――」


 しばらく横になっていると、全身に痛みが走った。

 存在そのものを揺さぶられるような苦痛と共に、姿が魔人のものへ戻っていく。

 ……。

 …………あれ?

 俺、なんで四天王やってるんだっけ?


 ……俺はリファーヴァント、魔人にして四天王最強の炎将だ。

 魔王様に忠誠を誓い、彼の御方の地上界(カーキエス)降臨がためセグリア大陸を侵攻し瘴気に染めるのが使命。

 地上界と異なる次元に存在する魔界(エスルグム)の焔として自我を得て以来、魔王様以外に自分より優れた者はなく。スタグバールとかいうこの国も容易く押し潰した。


 ――だが、それより()の記憶がある。

 いくら人間にしても有り得ないほど脆弱な生き物が席巻する世界。

 だというのに、その人間が操り驚くほどの速度で駆ける鋼の塊。

 街には天を衝くひょろ長い塔が乱立し、人間は毎日忙しく動き回る。

 何よりその世界には魔法が無く、信じ難いことに戦いさえ無いに等しかった。

 科学の発達も著しかったが……詳しい事は理解できないと、他ならぬ自身の記憶が告げている。


 特に気になったのは、「セグリア・サガ」とかいうゲームだ。

 ボタンを押すと画面が動く、それだけのことの何が楽しいのかは分からない。

 問題なのはその物語の中身。

 その世界――日本から勇者として召喚された主人公が仲間を集めて四天王を討ち、魔王をも滅ぼすというありふれた物。

 それに関する記憶が、不気味なほどに現実と一致していたことだ。

 自分が先ほど吐いた台詞すら、ゲームで主人公が炎将リファーヴァントの第二形態に敗北した時と一言一句違わない。


「なんだと……」


 俺は思わず頭を抱え、この記憶がもたらした情報を反芻した。



「――――」


 どれほどの時間そうしていただろうか。

 俺は徐に立ち上がると、地下牢に向けて歩き始めた。


 自分の中に眠っていた記憶が打ち壊したものは二つ。

 一つは魔王様……いや、魔王グナルゴスへの忠誠心。

 確かに奴は馬鹿みたいに強いが、それだけだ。

 考えの大元は子供じみた幼稚な支配欲。従ったところで、その先には破滅しかない。

 もう一つは、力への執着だ。

 蹂躙の範囲が国から世界に広がったところで無意味。

 この渇きはそんな方法じゃ満たされないのが分かった。

 そうなると……強くなることに今まで程のやる気は持てない。


 とはいえ、考え無しに好き勝手し始めても魔王に殺されるのは確実……。

 それ以前に勇者の脅威をこれで退けたと安心できるかも不確かだ。

 ゲームでは勇者が死ねばセーブデータからやり直す仕組みだった。

 聖剣なんて得体のしれない武器の担い手だ、何らかの形で再現してくる可能性は十分にある。


 俺の気配を察すれば、城内にいる普通の魔族は逃げるようにその場を離れる。

 少しでも不興を買うか、そうでなくても気紛れ一つで殺されるのだから当然だ。

 おかげで余計な手間が掛かることもなく目的の場所に辿り着けた。


「おい、勇者」

「…………」


 へんじがない、ただのしかばねのようだ……違う。まだ気絶しているだけだ。

 回復してやれば話は早いんだが、やったことないな。とりあえず奥の奴――レミナだったか? そいつで試す。


「『炎癒(ヒートヒール)』」

「ぅ……熱っ……」

「よし、成功だな。魔力は奪っておくが」


 意識がまだ朦朧としている様子のレミナから、暴れないように魔力を奪う。

 というかこの檻、何の処理も無しって……魔法使えば一発で破れるじゃねぇか。


「もう一発、『炎癒(ヒートヒール)』」

「ぐ、ぁ……っ」

「お目覚めか、勇者ユイ?」

「貴様……!」


 お、勇者は流石だな。

 魔力を奪い終わる頃には、もう敵意に満ちた目でこちらを睨みつけていた。

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