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19.ルートゥ――3

 その日、宿で寝ていた俺は馴染みの魔力を感じて目を覚ました。

 これは……盗聴防止の魔法か。

 俺は身を起こすと、隣の部屋でキィリと寝ていたはずのリフィスに声をかけた。


「どうしたリフィス? 何かあったようだが」

「は、はい。キィリの事に関して緊急の報告があります」


 普段は落ち着いているリフィスがこんなに動揺しているのは珍し――くもないか。

 いや、忠義絡みの事を除けばやはりそうある事ではない。

 それにいきなり本題に入るって事は、少なくとも本人にとってかなり緊急なのは確かだ。

 自分で盗聴防止の魔法を施しておきながら、リフィスは更に声を潜めた。


「奴はファリス様の正体(、、)に勘づいて……いえ、確信を持っていると思われます」

「ッ!?」


 その口から放たれた言葉は、俺を驚愕させるのに十分なものだった。

 なるほど、リフィスが動揺するのも頷ける。

 ……何故だ。

 どこでバレた?


「リフィス。それは、どこまで(、、、)だ? 種族か、所属か、個人か」

「その全て、です」

「…………!」


 その言葉になおさら疑問が募る。

 俺が魔族だと思われるくらいなら、戦う様子を見て抱いた思い込みが偶然に的中していたという可能性もある。

 だが俺が四天王の一角だということ、炎将リファーヴァントであることを思わせるような行動は一切取っていない。

 ……いや、俺が四天王だと気付けば得意とする魔法から炎将なのは理解できるか。

 ともかく四天王だとバレるような下手は打っていないはずだ。

 そもそもそんな行動を取る必要さえ無かった。

 なら、何故だ……?


 そこで思考が行き詰った。

 俺の口はより多くの情報を求めて新たな問いを発する。


「それで、だ。お前はその事をどうやって知った?」

「つい先刻、寝言によって」

「…………は?」


 その意味を理解するのに一瞬の間が空いた。

 途端に情報の信憑性が暴落する。

 流石に馬鹿馬鹿しいと思ってしまうのも無理はないだろう。

 その反応を見たリフィスは慌てたように言葉を足した。


「無論、ただの寝言であればこれほど緊急にはご報告致しません! 極めて明瞭に、ファリス様をご正体と関連付けて何事か考えるように喋っていたのですっ」

「んー……」

「元はと言えば私がそれに気づいたのも、その声が何憚ることなく何者かと会話しているように聞こえて目が覚めたからで――」


 一生懸命言い張る姿はどこか前世の記憶にある、夢を本当に見たと主張する子供のようにも見えて微笑ましい。

 だが彼女は炎将が一の眷属リフィス。

 当然の事だが子供とは違い、こんな洒落にならない虚言は吐かない。

 何事か考えるように……何者かと会話しているように……キィリは一体、何を話していたんだ?

 その内容に手がかりがありそうだ。


「――『「セグリア・サガ」だとこの村に滅びるようなイベントは……』とか――」

「……ん? 今リフィスなんて言った?」

「『セグリア・サガ』だと――」


 俺はゲームでの情報をリフィスに伝えている。

 だが、「セグリア・サガ」という名前まで教えただろうか? 答えは否だ。

 それを指す単語はゲームという言葉で事足りた。

 この世界で「セグリア・サガ」という名詞は俺の頭の中にしか無い。


 そうすると可能性は絞り込めてくる。

 一つはキィリが俺の思考を読んでいること。

 ゲームには登場しないが、魔族にはそういう能力の持ち主も存在する。

 能力が存在するなら、それが人に宿っている可能性も有り得ない話ではないだろう。


 もう一つはキィリも俺と同様に、「セグリア・サガ」の情報を含む前世か何かの記憶を持っている事。

 こう考えると思い至らずにいられないのは、今の俺の行動さえもキィリの知る「セグリア・サガ」のシナリオの範疇だった場合だ。

 自分の行動が今もレールの上だとすれば不愉快だが、仮にそうだったとしても俺がその可能性に気付けた時点で打つ手は幾らか存在する。

 最悪でもキィリを殺ればその後の俺の行動が操作されることはない。


「……ファリス様?」

「考えるだけじゃ埒が明かねぇ。俺もその寝言、聞きにいくぞ。ついでに真相もはっきりさせる」


 時間を確認したが、夜はまだ長い。

 問題の寝言さえ聞ければ、朝までにはケリがつけられるだろう。


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