18.ルートゥ――2
――さて。ガキ共は追い払った。
ここからどうしよう……?
イベントに介入するのが早過ぎたせいで、「セグリア・サガ」と同じやり取りをなぞることはできない。
不確定性が増したのは痛いが、ゲーム知識はいったん忘れて普通に会話をこなすとするか。
「おい、お前。名前は?」
「え? あ……わたしは、エマと言います」
「そうか。エマ、さっき石当たってたろ。見せてみろ――『炎癒』」
「あっ……暖かい。ポカポカする……」
「それはついでだ」
「ありがとうございます」
ひとまずファーストコンタクトには成功したと見て良いか。
この環境じゃ、単純にエマを攫う形でも仲間として引き込むことは可能だろう。
だが……それだけだと不十分だ。
予め、魔族としての正体が露見しても離れないだけの忠誠を得ておきたい。
素直で誠実とあってはなおさら、仕込みを先にしておく効果は高いはずだ。
「あ、あの……」
「ん? ああ、悪かったな」
「あなたの名前を聞いても、良いですか?」
「俺はファリス、冒険者だ。後ろにいるのが仲間のリフィスとキィリ」
「リフィスです。以後お見知りおきを」
「……あっ。どうも」
「その……ど、どうも」
顔に当てたままだった手をどけ、流れでそのまま自己紹介に移る。
リフィスが地味に値踏みする目を隠しきれてないな。
さりげなく移動して間に入る。
キィリはどうした? なんか気が抜けてたようだが。
人数が増えたせいか、エマが萎縮気味になっている。
けっこう気弱な感じなのか。
話を持っていく方向を少し間違えたか?
次の行動は……確かゲームじゃ、主人公はエマの境遇を気にする発言をしてたらしいな。
この寒い中薄着で震えていて、おまけに子供にも馬鹿にされているとなると、同じ疑問を抱くことに不自然さは無い。
ただ、その話題をどう切り出すかとなると……前世の知識でも参考にするか。
ソースは本の中っていう又聞きにも近い情報だが、普通に使えるだろ。
「寒いのか? これやるよ」
「え?」
着ていた上着をエマに被せる。
サイズは合ってないが、上着だし大きな問題にはなってない。
寧ろ良い具合に全身を覆ってて、防寒具としては十分その役割を果たせている。
「ふぁ、ファリスさん! そんな、悪いです!」
「ななな何をなさっているんですかファリス様!?」
「気にするな、俺が勝手に渡しただけだ。そしてリフィス、なんでお前まで狼狽えてる」
魔力の乱れが酷いな……これ、下手したら人化解けるんじゃないか?
一応、いつでも誤魔化せるように魔法の準備だけしておくか。
「こんなに寒いのに防寒具なんて脱いだら……!」
「それなんとなく着てたけどさ、俺は炎魔法得意だから元から必要ないんだよ。それにお前、やっぱり寒かったんだろ? なら大人しく受け取っとけ」
あ、遂にリフィスの人化が解けた。何故だ?
待機しておいた陽炎で即座に隠蔽する。
ともかく、流れは作れた。後は仕上げるだけだ。
「――っと、済まねぇな。仕事の邪魔だったか」
「そんな事は無いです!」
「うおっ!? ……そ、そうか。まあ時間喰っちまったのは事実だ。埋め合わせくらいしてやる」
思ったより強い即答に、不覚にもたじろがされる。
気弱な態度とは裏腹にメンタル面……芯は強いって事か。
とはいえこんな事でフラグを逃すわけにもいかない。
半ば強引に畑仕事に割り込む。
念の為、程度の意味合いではあるが、これでゲームでのイベント通りの行動はクリアした。
「……ファリス様の…………上着…………」
「…………」
なんか二人がぼんやり立ち尽くしてるのが気になる。
キィリはともかく、リフィスの方は後で話でも聞いておく必要があるな。
「あの、ファリスさん……」
「ん?」
「どうして、こんなに優しくしてくれるんですか?」
「別に、優しくした覚えは無ぇな。俺は自分のやりたいようにやってるだけだ」
「じゃあ、ファリスさんは優しい人なんですね」
「……っ、ははっ! そんなまさか!」
ゲームには無かった質問。
その答えに対する反応は予想もしなかったもので、堪えられなかった笑いが零れた。
こういうのを夢にも思わなかったって言うのか?
まさか俺が優しいなんて形容される日が来るとはな!
「本当の事を言うならな。エマ、お前を見込んでの事さ」
「え? それって……でも、そんな……!」
こんなに愉快なのはいつ以来だろうか。
興が乗ったからか、つい本音が出る。
ぼんやりしているリフィスに声をかけるのも忘れて、俺は存分に笑える場所を探しにその場を離れた。




