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16.幽霊屋敷

 小説タイトルを変更しました。(7/7)

「――『火之牙(ファイアファング)』」


 詠唱ついでにあくびを飲み込む。

 夜闇に乗じてテントに近づこうとしていた蠍は、悲鳴も上げずに燃え尽きた。


「……はぁ」


 思わず溜息が漏れる。

 原因は言うまでもなくキィリだ。

 彼女もゲームでは主人公の仲間になる[英雄]の一人、俺の懐柔対象(ターゲット)には違いない。

 が……他の連中と違って、切り札となるゲーム知識が無いのが痛い。

 確かフラグとか言うんだったか?

 それで重要なの逃して無駄足になるってのだけは避けたいんだがな。


 そもそも、[英雄]にしたってその数はけっこう多い。

 現実で一々相手にしてたら、それこそタイムリミットになって魔王が襲撃しかねないくらいには、だ。

 だから[英雄]の中でも特に強力な面子を優先的に手懐けていきたいところだったが……予定が狂った。


 いつだったかメーゼを回収した時みたいに気絶させて飛ぶって手は厳しいだろう。

 一緒に旅をするとなれば、あの時と違って適当に誤魔化すという選択肢の確実さは格段に弱まる。

 現実じゃどう転ぶか分からないが人数オーバーの恐れだってあるし、[英雄]絡みのイベントにはなるべく関わらないようにしながら地道に歩くしか……。


 メーゼといえば、ゲームと実際じゃ別人だったってのも無視するわけにはいかない。

 狂科学者ってキャラクター性事態は変わらないが、青年と少女じゃ大違いだ。

 「セグリア・サガ」の内容と現実には齟齬があるからゲーム知識を盲目的に信じるなって警告として捉えておこう。

 そうなるとゲーム知識に基づいて練った計画も当てにできたものじゃないな。

 よし、現状特に気にすることは何もない! 解決!


「ファリス」

「うおっ――と、キィリか」

「熟考するのは構わないけど、交代の時間よ。明日に備えて休息は十分に取った方が良いわ」

「おう、そうだな」


 ちょうど考えが一段落したところで、キィリが話しかけてきた。

 そうか、人化してると疲労も常人並に蓄積するからな。

 魔人の姿に戻れば一瞬で治るが、気配とかも考えると簡単に使える手段でもないし……無理に起きてるメリットもないか。

 こればっかりは鍛えられる領域の話じゃないのも分かってる。

 夜の番は大人しくキィリに引き継ぎ、俺はテントに戻った。



「――念願の氷剣を手に入れたぞ!」

「そうか、興味無ぇな」


「――父の仇を探している」

「へぇ、頑張れよ」


「――ああ、出会いが欲しいなぁ」

「身の程を弁えろ」


 と、そんな感じで[英雄]関連のイベントを回避しながら進むことしばらく。

 少し時間をおけば復活する類のものだったし、今は放っておいても大丈夫だろう。


「――夜逃げした貴族の家に幽霊が出るんだって! 探検に行こうよ!」

「生憎そんなヒマじゃねぇんだ」


 ……幽霊屋敷か。

 ゲームじゃ「いいえ」選択すれば都合良く凍結されてたが、現実じゃこのガキ共は自分たちだけで行くだろう。

 実際は夜逃げどころかその貴族は自分が召喚した悪魔に殺されていて、怨霊として屋敷に憑りついている。

 善人としては事情を知ってる以上、見殺しにするわけにもいかない。

 脅して探索を中止させるのも外聞が悪い上に、どうせ俺たちが消えたらまた行くだろう。

 [英雄]を仲間にしてからレベル上げに利用したかったが、仕方ない。潰しとくか。


「なんか嫌な予感がするわね。わたしのこういう勘って当たるのよ」

「奇遇だな、俺もだ。場所の見当はついてるし、準備を整え次第向かうぞ」

「仰せの通りに」


 まあ準備って言っても道具の補充くらいか。

 わざわざ日没を待つ義理もない。

 俺たちは速足に件の幽霊屋敷へ向かった。



「裏門の方から嫌な気配を感じる」

「施錠されてるな……『爆炎波(タイダルフレイム)』ッ」


 キィリはやたら察しが良くなる天職(ジョブ)でも持ってるのか?

 裏門はダンジョン的には出口にあたる場所だ。

 案の定鍵がかかっていたが、そこは力業で突破。

 すぐ近くにある墓標へ向かい……いきなり墓を冒涜するような真似も良くないか。

 手持ちの聖水を振りかける。


「これは気の毒だ、供養してやらねーとなー」

「グ……ォオオオ」


 そこまで高級なものでもないが、大量に掛けてやると流石に我慢できなくなったか貴族の怨霊が現れた。

 日中の幽霊ってのも間抜けなもんだな。

 さっきの炎の余波で木々が吹き飛んでさえいなければ、木陰の薄暗さで誤魔化しも効いたんだろうが。


「キィリは下がってろ。リフィスはキィリを守りながら周囲を警戒だ」

「了解」

「お任せください」


 指示を出していると、木々が無いせいかやや離れたところから蝙蝠や雑霊が飛んできた。

 ……夜だと浮かび上がって見える雑霊が、日光の元だと透き通って視認しにくいのは誤算だな。

 臭いもないし、意外と捉えにくい。

 とはいえ、この魔力の感じじゃ攻撃を受けても心配はいらないか。


「オァアア……」

「お前の相手は俺だ」


 陽射しに逆らうように闇を纏い呻く怨霊。

 レベルは32と、ボスにしては低い部類だ。

 ……実体の無い相手に、普通に剣で斬るんじゃ効きは薄いな。

 寧ろなんで少しとはいえ効くんだよ。

 そこは単にゲーム的な要素ってわけじゃなかったのか?


「お前も吹っ飛ばしてやる。あの裏門のようにな――『爆炎波』」

「――――!」


 まあ小技で遊ぶような気分でもなかったし、一撃で片付ける。

 それと連動して他の敵もすぐに沈黙した。

 小イベントなんて現実に消化するならこんなもんか。


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