15.旅立ち――5
「――さて。旅支度はこれで整ったな」
「ええ」
「じゃあ早速、出発するか」
「お待ちください。時にその用件は緊急のものでしょうか?」
「いや? だが、意味もなくグダグダするのは嫌いだ」
「ファリス様はまだ人として行動するのに不慣れな御様子。人員が増える前に一度、旅の練習をしておくのが宜しいかと」
ふむ……正直な感想を言うなら面倒だ。
だが、指摘されると不安になってくるのもまた事実。
脳内でゲーム時の情報を振り返ってみるが、目的地に関して滅亡系のイベントは無かったはずだ。
少し考えた後、俺はリフィスの提案に頷いた。
結果から言って、旅の練習は問題なく一通り消化できた。
すぐ順応できたとはいえ知らない事も多々あったから、数日を費やしただけの価値はあったと思える。
課題が残ったとすれば……料理か。
焼く以外の調理法も出来るよう、機会があればリフィスから教わろう。
今度こそ目的地に飛ぶか――そう考えながらテントを畳んでいた朝のこと。
そう遠くない距離に魔力の乱れを感じた。
それが示すのは、誰かが魔法を使って戦っているという事。
「如何致しましょう」
「見に行く」
同じく気付いていたリフィスに短く応え、魔力の方向へ向かう。
その先で戦っていたのは黒い長髪が特徴的な一人の少女。
プレイリーホーク……平原を狩場にする猛禽の群れに魔法で応戦している。
駆けつけた角度が悪く、ちょうど少女の正面から出くわす形になった。
「――げ」
「どうしました?」
「後で話す」
その姿を見る限り、少女はおそらくキィリ・ナクロニア。
「セグリア・サガ」で主人公の仲間になるキャラの一人で、同時にできれば会いたくなかった相手でもある。
ゲームキャラでありながら、その情報がほとんど無いからだ。
ちなみにその理由は、キィリが俺の前世の片思い相手と似ていてつい連想するせいでゲームをプレイする時避けていたからという残念極まりないものだ。
だが、魔法タイプのキャラにこの状況はかなりの危地だ。
善人的には見捨てられない。
……というか、俺たちが気づかなかったらコイツはここで死んでたのか?
「助太刀する。『火之牙』」
「『散斬火』っ」
「……助かるわ」
人として戦うなら、相手が飛んでいるのは厄介だが……。
的は大きいし動きもそこまで俊敏ではない。
翼を裂いて地に墜とすのは容易かった。
すかさずリフィスが斬撃を叩き込んでトドメを刺していく。
程なくして戦闘は終わった。今日の昼は焼き鳥だな。
「ありがとう。貴方たち強いのね」
「ま、まぁな」
心なしか笑みを浮かべたような表情で少女は口を開いた。
別人であってくれとの祈りも虚しく、放たれた台詞はゲームでキィリが仲間になる際のイベントと全く同じ。
……これはもう駄目かもしれんな。
ゲームじゃ仲間をPTから外す時は酒場に預けるんだったか。
現実で使える手じゃねぇな。
どうすれば良いんだ?
「訳あって一人旅をしてたけど、そろそろ限界を感じてたの。良ければ同行させてもらえないかしら?」
考えろ。
四天王最強の頭脳を駆使して答えを導け。
なんとか善人を維持したまま、上手く断る方便を見つけ出せ!
…………見つからなかった。ギブアップ。
「同行自体は構いませんが、貴女の目的地は何処でしょう?」
「家出みたいなもんだから目的地は無いの。そちらに合わせるわ」
「……分かった。宜しく頼む」
「ええ。わたしはキィリだけど、貴方たちは?」
「私がリフィス。そちらは主のファリス様だ」
「じゃあリフィス、それとファリス。こちらこそ宜しく」
キィリの言葉に嘘はない。
なけなしのゲーム知識によれば、貴族の彼女は弟との家督争いを嫌って家を出たという設定だったはずだ。
リフィスのささやかな抵抗も虚しく、こうしてキィリの同行が決定した。
本編だと明かす機会が無いのでここでネタバレしますが、
キィリはテレパシー能力持ちでファリスたちの事情が筒抜けになってます




