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10.復興――6

 その後もメーゼを宥め(すか)し、街に幾つか農場を作るってことで落ち着いた。

 農場は魔法だか科学だか分からない力で凄まじい成長を見せ、数日で安定した食料を生産し始めた。

 管理にはメーゼの指導の下、眷属や人間を配置。

 農場で育てた野菜を飼料に家畜の飼育も始まる。

 一つ安定した拠点が出来れば農場も国中へ加速度的に広まり……。

 そうして俺たち政務担当の仕事もかなり減ってきたある日の会議。


「――ところで、もうこの国(スタグバール)の復興は終わったとみて良いな?」

「まあ……この街に限らず、国全体でも最低限の生活は保証されつつありますね」

「そうか。おい、入れ」

「「「はいっ」」」


 呼びかけると威勢の良い返事。

 蝶か何かと見紛うような小型の魔人が三体、窓から部屋に入って来る。


「そちらは?」

「ラナ。お前、なんか死相が見えるんだよな。一応俺[屍山血河を築く者]って[死神]の上位天職(ジョブ)持ってるから」

「なっ……それは一体!?」

「落ち着けラネル。俺もラナを失くすのは惜しい……その為のコイツら(魔人)だ」

「え……?」

「暇を見て俺直々に鍛えた奴らだ、レベルは30程度。コイツらが四六時中ラナに張り付いて護衛する」

「……え……?」

「ラナ、リフィス化してるぞ。まあそれだけお前を買ってるってことだから諦めろ。気遣いは出来るし空気だって読める奴らなのが慰めになると良いな」


 前世の記憶や常識を参照すれば、多少は人間の感覚だって理解できる。

 ラナの生存を優先した上で最善の選択が出来たはずだ。

 この魔人たちだって仕事の合間に忠誠心無くしても構わないくらいのスパルタで鍛え上げた、リフィスに次ぐ最精鋭だし。

 仕事の効率とか考えると、死亡イベントの報酬程度じゃ釣り合わないからな。


「ところで、――ッ!」

「どうしました?」

「いや、俺にも分からんが……狼肉狩り過ぎたか?」


 街の周囲を警戒させているのは、勇者を監視してるのと同じ要領で生み出したスパイ分体。

 その感知に、東部から迫る災魔の気配が引っかかった。

 ゲームじゃ街の崩壊イベントなんて珍しくも無かったが、こんなのは記憶に無いぞ?

 何度か食糧的な意味で世話になったボス狼を筆頭に、数はおよそ千。人間に撃退できるレベルでは無い。

 ひとまず、分かっただけの情報を口にする。


「それでは早急に迎撃の準備を――」

「必要ない」

「……どういう事です?」

「良い機会だ。お前らが誰を味方にしたのか、思い知らせてやるよ」


 街中の眷属に召集を掛ける。

 国中に派遣している上、仕事のある者は除外したせいで集まったのは数十体だったが問題ない。

 俺としては経験値稼ぎの機会くらいにしか考えてないし、ある意味ちょうど良い数とも言える。

 ついてくるらしいラナとラネルの護衛を最優先、次に自身の生命を優先するように指示を出し、俺はリフィスを担いで先行した。


……(ファリス様)……(一体何を)!?」

贔屓(ひいき)だよ、お前が多く経験値稼げるようにな。あの程度の相手なら、油断しなけりゃ平気だろ?」

…………(む、無論です)!」


 幻聴か? いや、コイツが単純なだけだろう。

 それより人化を解いたリフィスだ。

 毛皮の……触感というか、触った感じというか……前世でも今世でも狐の毛皮は高級品だが、その理由も分かる気がする。


 災魔の群れが視界に入ったのは出発から数分と経たない内だった。

 あの森の近くは反抗勢力が拠点にしてたから昔焼き払っておいたのが幸いしたな。最初の村が襲われる前に到着できた。

 被害ゼロの方が戦果として良いパフォーマンスになる。

 最初と同様の召集を掛けると数体の魔人が駆けつけた……が、緊急事態だと思って仕事を放り出してきた奴らばかりだったから全員帰す。

 人間共もこっちを見てるが……おい、仕事しろよ。

 炎将をなんだと思ってんだ?

 睨んでもまたチラチラと様子を窺う奴らに溜息を吐いていると、狼群はすぐそこまで近づいてきていた。


「グルォア――」

「レベル35……まあ、誤差だな」

「「「グア!?」」」


 咆哮を上げようとしたボス狼の首を刈り、いつも通り収納魔法に収める。

 驚いたような雑魚狼がうるさい。

 普段ならついでにサックリ狩るんだが――。


……(喰らえ)っ!」

「ギャウッ」


 今回はリフィスもいるしな。

 俺はサポートに専念するか。


 それからしばらくしてラネルたちも追いついた。

 リフィスがバテてきてるのはもちろん、強行軍で来たらしい後続も戦う前から疲弊してる。

 支援が面倒になりそうだが……これも駒の育成だしな。仕方ないか。



「はぁ、はあ……っ」

「グルォ――ギャッ!?」

「今――!」


 眷属の一撃が、最後の雑魚狼を大きく吹き飛ばした。

 狩りは随分と長引き陽もとっくに沈んだので、今は俺の炎で照らしている。

 現場はまさに死屍累々。いや、死者も重傷者も出しちゃいないが、眷属たちは皆疲労困憊の様子で地に伏している。

 けど、それだけの成果はあった。

 これだけレベルが上昇していれば、今度同じことがあっても俺無しで十分に対応できるだろう。

 敵の数が減ってきて手持ち無沙汰になってから片手間に張っといたテントに眷属共を放り込み、出発前に放った分体で街に問題が起きてないことを確かめる。

 後は人化して弱体化した状態でも不便の無いよう身体を動かして時間を潰しながら夜の番を務めた。

 結果……人化してる間はスタミナも人間並に低下することが分かった。同時に、人化を解けば体力もすぐ回復する事を確認。

 なにか手を打てないと、人化はだいぶ不便そうだ。

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