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4話

第4話

 ■■■■。



 目が覚めた。ビッシリと寝汗をかいている。


「なんだったんだ……?」


 夢の詳細は覚えていない。だが、何か大きな力か、それを持つものに呑まれるような(・・・・・・・)夢だった事は覚えている。普段夢の内容ははっきり覚えているものだが、ぼんやりとしか思い出せないその夢は、何処か不気味な感じがした。

 意識が少しはっきりしておくと、振動音が聞こえた。真っ暗な部屋を見回すと、携帯電話が光っていた。ぼんやりとした意識の中、それを取る。こういう、夜中に来る連絡は大抵悪い連絡の事が多い。

 携帯電話を見ると、『緊急連絡』の表示。パスコードを入力してロックを外し、表示された画面の『OK』ボタンを押すと振動は止まり、メッセージの内容が自動で表示された。同時に、自動でこの連絡を見たという通知がなされる。


 緊急招集

  日時:集合8月17日午後5時 作戦開始8月18日明朝午前1時

  場所:北陸南部支部に集合の後、作戦場所まで移動

  補足:武装は各自の個人携帯許可武器に、指定武器とする。武装許可証は支部のPCに送信してある。作戦概要は集合の後、ブリーフィングを行うものとする。


 また仕事かよ。くそったれ(シット)と呟く。時間が時間なので、もう一度寝て、明日の朝考えよう。俺は携帯電話を再び枕元に置くと、布団に再び潜り込んだ。睡魔はすぐにやってきた。



 目が覚めると、まだ薄暗かった。昨日早く寝たのと、夜中の変な時間に起されたのが原因だろう。ぼんやりとした頭で周囲を見回す。カーテンで閉じた窓からは弱弱しい光が差し込んでいる。携帯を見ると、時刻は午前6時だった。同時に、召集の事を思い出す。

 だんだん頭が冴えて来た所で、ゆっくり立ち上がる。また支部に行かなきゃならんのかと思うと、ため息が出た。

 気持ちを切り替えてクローゼットを開ける。クローゼットの奥、個人携行武器が仕舞ってある戸棚から認証カードを取り出した。その隣で鈍く黒光りする拳銃とナイフは、帰ってから取り出そう。

 クローゼットを閉めると、ゆっくり襖が開いた。眠そうな榛名が出てくる。


「おはよう、榛名」

「ふぁ~あ、おはよう、ごしゅじん」


 眠そうに眼を擦る榛名。


「榛名」


 俺は声に真剣さを滲ませて言う。


「……ちょっと待っててくれ」


 榛名はそう言って両手で自分の頬を叩いた。頭を振ると、意識がはっきりしたようで、寝ていた耳がピンと立っていた。


「お待たせ。何だい?」

「任務が入った。ちょっと支部まで武装を取りに行ってくる。留守中を頼む」

「今からかい?」

「今晩新潟に集合だと。笑えねぇ」


 俺は箪笥から着替えを出して着替える。それと、大きめのスポーツバックを取り出す。鍵と携帯電話、定期入れを取り出してポケットに突っ込んだ。


「じゃあ、行ってくる」

「気を付けて」


 榛名の言葉を背に、俺は部屋を少し急ぎ足で出た。

 支部までは片道1時間程であるが、朝の通勤時間帯だったこともあって、電車は混んでいた。1時間半以上かかって、ようやく支部にたどり着く。

 入り口で認証カードを通す。ドアを開けて中に入ると、蒸し暑い空気が体を包む。階段を上っていくと、段々と暑く成って行くのが分かった。俺は腕で汗をぬぐいながらまず2階へ向かう。

 2階の事務室の俺のPCを立ち上げる。認証を終えて起動すると、連絡のアイコンが光っていた。クリックすると、連絡一覧が表示される。最新の連絡、タイトルは『武装持ち出し許可証』。俺は俺のデスクのプリンターの電源を入れ、連絡を開き、添付されたファイルを印刷する。印刷されたファイルには許可するという事を示す文章と印、日付と持ち出し許可武装、今日のみ、1回だけ使えるセキュリティーコードが書かれていた。俺はそれをクリアファイルに入れパソコンやプリンターの電源を落とし、3階に向かった。

 3階に着く。通路の左側は会議室、右側が武器庫だ。廊下を中程まで歩くと、鋼鉄の重い扉が姿を現した。扉の横にはカードリーダーと網膜読取機が設置してある。俺は認証カードをリーダーに通した。認証中の表示が出ると、続いて網膜スキャンを求められた。俺は右目をスキャナーに近づける。赤い光が一瞬光り、網膜がスキャンされる。スキャンが完了すると、終了を知らせる電子音が鳴った。顔を離すと、右のディスプレイに認証完了の表示が出ていた。扉のロックが外れる音、手すりの様なドアノブを持ち上げるとドアが動いた。そのままドアを引くと、武器庫が開かれる。

 武器庫の一番奥のロッカー、其処が俺の武器保管場所だった。先ほどのセキュリティーコードを入力し、観音開きのロッカーを開くと、壁には3丁のスナイパーライフルと個人防衛武器(PDW)、2種類のアサルトライフルが固定されていた。許可証を見ながら持って行く武装を取っていく。俺が触れると固定は融ける様にして外れた。弾薬庫のセキュリティーコードは無かった為、弾薬は集合場所で渡される。タクティカルジャケットや各種装備品も置いてあって、俺は持ってきたスポーツバックに装備品を詰め、武器はキーボードケースに偽装した箱に入れていった。スコープなどのアタッチメントも一緒に詰めた。セッティングは帰ってからやろう、そう思う。

 詰めた武器は半自動 (セミオート)の30口径スナイパーライフルとPDW。

 アタッチメントは高倍率スコープに銃口制退器(マズルブレーキ)消音機(サイレンサー)、フォアグリップに光学照準器(ダットサイト)とサイドレールに付けるライト。装備品はタクティカルジャケットと暗視スコープだった。装備品はスポーツバックに詰め、武器ケースに許可書を入れて俺は武器庫を出た。

 背負った武器が、何だか重い様な気がした。

 妙に大きな荷物を背負って家に向かう。電車に乗り、駅から歩いて、家に着くころには11時程になっていた。

ふと家の前に人影。一瞬警戒するが、よくよく見るとツツジだった。俺は警戒を解く。


「あ、お兄ちゃー……」


 ツツジが俺を見つけて嬉しそうに手を振るが、俺の持っている物を見て表情を曇らせた。普段はこういうのはあまり見せないようにしていたが、それが裏目に出たか。


「……」


 泣きそうな、そんな瞳で俺を見てくるツツジ。俺はツツジに家に上がるよう促した。ツツジは黙って頷いた。

 家に入ると、冷房の効いた、ひんやりとした空気が体を包む。


「お帰り、ご主人。それに、妹君、いらっしゃい」


 扉の開く音を聞きつけたのか、榛名がリビングから出てきた。


「榛名、セッティングをするから、準備をしておけ。早めに出る」

「分かった」


 俺は靴を脱いで上がる。ツツジは何も言わずについてきた。2階の俺の部屋に入り、俺は持ってきた武器ケースを開く。


「……ッ」


 ツツジがなにかを堪える様な、うめき声にも似た声が聞こえた。見ると、ツツジは部屋の隅で膝を抱えてこちらを悲しそうな目でじっと見ている。

 俺はスナイパーライフルを取り出し、チェックを開始する。


「……また、仕事なの?」


 俺がライフルの点検をしていると、ツツジが聞いてきた。


「まぁな。今晩だ」

「……いつまで?」

「わからん。下手すりゃ2、3日位かかるかもしれない」


 コッキングレバーを引く。異常無し。


「……ちゃんと、帰って来る?」


 見ると、ツツジの目が潤んでいた。俺はライフルを置き、ツツジに近寄った。そっと、ツツジが俺の胸に顔をうずめる。ツツジがしゃくりあげる。俺は俺より一回り小さいツツジをそっと抱きしめた。


「昨日、また夢で見たの」


 ツツジの身体は、冷水から上がってきた直後の様に震えていた。


「お兄ちゃんがただの塊になって、硬いコンクリートの上で雨に打たれてどんどん冷えていく夢を。まるで実際に見ているみたいに、凄くリアルなの」


 ツツジが俺の服を握る。俺はツツジの頭を撫でた。


「お兄ちゃんがとても強い意志で戦っているのは分かってる。それは私なんかじゃとてもじゃないけど覆せないって言うのも分かってる。だからせめてお願い――帰ってきて」


 ツツジは浅間の家で育てられた。あそこの家の人たちは優しいから、ツツジに良くしてくれただろうが、それでも『血が繋がっていない』と事実は残ってしまう。そんな中現れた俺と言う、血の繋がった存在が、ツツジにとってどれほど大きいか、俺も理解している。

だから俺は戦って、生き延びて見せる。こいつ(ツツジ)の為にも。この平穏を守れるのは、俺だけだから。


「必ず、帰って来る」

「……本当?」

「約束する」

「……嘘ついたらお兄ちゃんの純潔貰うからね」


 強がりなのが、バレバレだった。


「死んでるのにどうやるんだよ」

「ヨモツノクニまで追いかける」

「何それ怖い」


 ぐしゃぐしゃになった顔をあげて、ツツジが言った。


「いいぜ、やってみろよ」


 俺が笑って言うと、ツツジも笑った。


「頑張ってね、お兄ちゃん」


 ツツジが目をぬぐいながらそっと離れる。俺は指で軽くツツジの頬を撫でてやると、武器の整備に戻った。

 スナイパーライフルはFN―FALと呼ばれるバトルライフル(口径の大きなアサルトライフル)を原型にし、全体的な強度の上昇、機構の改良、銃身の長身化、アッパー、サイド、アンダーレールの追加等を施したものだ。取り回しに優れているので、護衛任務などの移動しながら複数の目標に対して行う狙撃には向いていた。弾薬の改良により初速が大幅に上昇したため、7.62mm弾でも対物ライフルに匹敵する貫通力を持っている。アッパーレールにスコープを少し前に取り付け、一旦構えて照準を微調整する。夜間戦闘だが感覚強化の術式を使うので暗視装置が無くても問題はない。使わないアンダーレールとサイドレールはカバーで覆った。最後に円筒形のマズルブレーキを銃口にねじの様に廻して嵌めた。

 PDWは個人防衛火器と呼ばれ、要するに対象を足止め若しくは無力化することに優れた火器の事を指す。携行性に優れ、小さなリュックに入る程小さい。アッパーレールには照準を赤い点で示すダットサイト、サイドレールにはライト、アンダーレールには反動を抑える為のグリップを装着した。最後に銃口に消音機サプレッサーを取り付ける。

 俺は戸棚を開ける。一番奥の個人携行武器保管庫、その中から拳銃とナイフを取り出してケースに入れる。次に保管庫の中から拳銃のマガジン2つとずっしりと重い紙箱を取り出した。床に座って箱を開けると、中には拳銃の弾が入っていた。俺はそれを2つのマガジンに一つずつ詰めていく。詰め終わると、俺は他の武器と一緒にそれをケースに入れた。保管庫からベルトを出してバッグに入れる。

 次に俺は戸棚から戦闘服を取り出した。いったん今着ている服を全部脱ぎ、まずは下着を着用する。下着は防寒用のタイツの様な形状で、炭素繊維カーボンナノチューブで縫われているため強度が非常に高い。また通気性や保温性も高いため、結構着ていて快適である。次に靴下だ、靴下はハイソックス程の長さだが、表面に模様が施されている。これは弾力性のある繊維で縫われた部分で、テーピングと同じ様な効果を持つ。俺はその上からズボンをはいた。ズボンはダークグレーのズボンで、一般的なズボンにも見えなくもないが、ポケットが普通のズボンより多く付いている上、ポケットのジッパーはすべて防水性の特殊ジッパーだ。

 次に俺はシャツを羽織った。このシャツは一般的な市販の速乾性シャツである。この上からタクティカルジャケットを羽織ることになるのだが、着るのは支部についてからだ。

 次に俺は手袋をバックに入れる。手袋は普通のタクティカルグローブで、指先が電導性の繊維になっているため、タッチパネルが操作できる。最後に俺はヘッドセット型の通信機とHUDグラスを取り出す。通信機はヘッドフォンの様な大型のもので、スピーカー部の上部にライトやセンサーなどの小型の装備を取り付けるためのレールがある。通信機をバッグに仕舞い、腕に付ける端末のチェックをする。携帯電話程の大きさの、バンドが付いた端末を起動する。問題なし。端末を操作してインターフェース『拡張現実(AR)グラス』を選択し、俺はHUDグラスを掛けた。眼鏡の蔓の根元の小さなスイッチを長押しすると、HUDグラスが起動する。『同期中』の表示が数秒表示されると、様々な表示が空中に浮かんでいる様に見えた。HUDグラスと端末はタクティカルジャケットのバッテリーに繋いで充電できる仕組みだった。

 最後に、タクティカルジャケットの点検をする。壊れてる留め金が無いかチェックし、背中のバッテリーが消耗していないか確認した。各種コネクタにも異常は無し。ハンガーユニットも問題は無い。タクティカルジャケットは防弾と運搬以外にも様々な役割がある。電源、通信など。チェックする個所も多い。背中に取り付けられている装置は電子戦ユニットだ。腕の端末とコードで繋いで操作し、通信、妨害などを行える多機能ユニットだ。また、小型のコンピューターにもなっている。

 チェック終了。問題が無かった為、俺はジャケットをバックに仕舞った。電源の充電は支部で弾薬の補給と同時に行う。


「ホント、なんか軍人って感じだね」


 準備を眺めていたツツジが言った。


「さて、じゃあ行くか」

「うん」


 俺は保管庫を閉じて武器ケースを背負い、装備品の入ったバッグを肩から下げて部屋を出た。階段を下りて一階に降りると、榛名が待っていた。榛名は妖術で衣服を自由に変えられるので、黒服のスーツ姿だ。18歳ほどの青年の姿になっている。


「榛名、行くぞ」

「了解した。ご主人」


 俺は玄関の下駄箱の中からタクティカルブーツを取り出す。足首の少し上までを覆う厚手の靴で、登山靴の様だ。紐を締め、その上にひし形のカバーをかけた。ズボンのすそを靴に軽く懸ける。


「ツツジ」


 俺はツツジにこの家の鍵を渡す。


「留守を頼む」

「うん。わかった」


 俺は玄関の鍵を開け、戸を開いた。


「行ってきます」

「いってらっしゃい」


 ツツジの声を背に、俺と榛名は陽光の下に出た。


躑躅ちゃんが可愛い!? うそ、ンな馬鹿な。


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