プロローグ
お待たせしました。
手紙を書き終えると、私はペンを置いた。インクが垂れないように気を付けながら、ペンをインク壺に軽く浸す。そしてそのままさっと私の名前を最後に書き記した。インクが他の手紙に染みないように気を付けながらゆっくりと乾かしていく。手紙が渇いたのを確かめると、丁寧にそれを三つ折りにして封筒に入れる。封を閉じると、蝋を垂らし、まだ固まらないうちに、歪まないように気を付けて印を押した。浮かび上がる、ドラゴンを模った紋章。
手紙を裏返して宛先を確認する。うん、間違ってない。
ふと窓の外を見ると辺りはすっかり暗くなっていて、鬱蒼とした森が黒い海の様に広がっていた。手紙を書くのに夢中になっているうちに夜になってしまったようだ。置時計の針は7時を指している。手紙を書くのに熱中していたせいで気付かなかったが、空腹を覚えていた。
私は机の引き出しを開け、中に手紙を入れる。明日出しに行こう。そこで私は、ふと隣の引き出しを開けた。中に入っているのは、手紙の束。日本という東の島国に暮らすあの人から貰った手紙。とても語学が得意なのか、私の母国語(ブルガリア語)を流暢に使っている。手紙を開くと、昨日は何した、とか、何が美味しかった、とか他愛も無いことが書いてある。言葉足らずでぶっきらぼうな感じだけど、何処か優しい感じがした。顔立ちが特にいいという訳ではないらしいが、文章の文字からは例えるなら――変な表現だけど、鋼を覆う黒錆の様で、とても力強く、優しい感じがした。
日に日に想いは積もって行った。声を聞きたい、手をつないでみたい、一緒に出掛けてみたい。手紙から始まる恋なんて、本の中の話だけかと思っていたけど、実際にもあるのかもしれない。
ドアがノックされた。私は手紙をそっと仕舞い、答える。お手伝いさんが夕食の準備が出来たといって、私を呼んでいた。私はそれに答え、席を立つ。そこで、私は窓の外をもう一度見た。東側の、窓。この遥か向こうにあの人がいる。
早く、早く会いたいです。
――ホタカ リヒトさん。
どうも、お久しぶり、ウシナギカクトです。
興「遅かったじゃないか……」
≧「遅かったな、言葉は不要か……」
各「アァーッ! ゲイヴゥゥン!?」
茶番はさておき。
登場した謎の人物、一体何アちゃんなんだ……