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18話

久々に戦闘シーンとか書いた気がする……

 敵に先手を取られるわけにはいかない。俺は警戒を続ける。

 一体どれだけ長く監視を続けていただろうか。時計を見ると時刻は3時を回っていた。定期的に榛名と連絡を取り合っているが異常はない。プラチナは眠りについたらしい。

 ふと、雨の向こうに何らかの気配を感じた。

 咄嗟に縁の下に隠れる。その直後、団地内に張った結界に何かが触れる感触が、霊力パルスとなって俺に届く。

 俺はARに表示されたUAVの表示を見る。IFF反応は無し。アンノウン。


榛名ゴルト


 通信機に声を抑えて語りかける。


『こちらゴルト、どうした?』

「お客さんがお出ましだ」


 俺は腕の端末を弄り、HQと通信を繋げる。無人機を経由して、本部と通信が繋がる。


「こちらステイン、HQ、応答を」

『こちらHQ、何があった』

「不明な人物が接近しています。照会を」


 二十秒程の沈黙。


『こちらHQ、照会したところ現在貴君の地域で活動中の職員はいない。民間人の反応も確認されていない』 

「ならば話が早いです。敵対勢力に位置を特定されました。交戦許可を」

『数は?』

「不明」

『……』


 通信機の向こうで黒部が黙る。数秒の沈黙の後、回答があった。


『こちらHQ、ステイン、交戦を許可する。ただし今回の作戦目標はプラチナ(パッケージ)の護衛が目的だ。それを忘れるな』

「了解。ステイン、アウト」

『グッドラック』


 通信が切れる。


「聴いていたな、ゴルト。プラチナを起こせ、いつでも逃げられるように」

『ご主人はどうする?』

「最悪置いていけ、お前一人でプラチナを本部まで連れていくんだ、分かったな」

『……了解だ』


 声色で何となく榛名が今どんな顔をしているか、見ているかのように思い浮かべられた。

俺は位置を調整し、片膝を立てる様な姿勢に。そして左腕の上にスナイパーライフルを載せて安定させ構え、座射の体勢に。コッキングレバーを引き、初弾を薬室に送り込む。

 銃床ストックに頬を押し付ける。頬骨の定位置にストックを押し付け、顔を固定する。観測手はいない。両目を開けたまま右目でスコープを覗いた。激しい雨で視界が悪い。スコープから覗く景色にはぼんやりと団地の入り口付近が広がった。

 ――見つけた。

 団地の入り口付近。周囲を警戒しているのだろうか、ゆっくり不規則に歩く影が2。ライフルを小さく左右に振って周囲を探す。1,2。やはり2人しかいない。最初に撃った奴を含めて3人だったのか? それとももう一人は別行動を?

 ともかく榛名にこの事を伝えなければ。そう思って通信を繋ごうとした瞬間――

――通信機から、甲高い、強烈な不協和音が響いた。


「――っ!」


 即座に通信機を切る。AR表示には『ECM:LINK―OUT』の表示。やられた。その瞬間、棟に仕掛けていた術式に反応。3人目だ。やはり4人組だった。

 攻撃は、きっともう始まっている。榛名が3人目に気付いているかどうかは不明だが、この距離では念話は繋がらない。だとすればやるべきことは一つ。

 俺はゆっくり照準を2つの人影に合わせる。体格からして、一人は成人男性、もう一人は自分とあまり年齢の変わらなさそうな少女だった。

 恐らく2発目は避けられるだろう。確実に仕留められるのは1人。どちらを先に殺すべきか。

 わずかな逡巡の後、俺は――成人男性と思われる方に、照準を合わせた。唇を湿らせる空気の湿度、雨音を放つ雨、頬を微かに撫でる風に合わせてスコープのダイヤルを弄り、微調整をしていく。スコープの十字クロスヘアの少し左下、そこに目標を合わせた。狙うのは心臓。引き金に指を懸ける。発砲する位置は覚えていた。全身を固く締め、衝撃に備える。そして、

 息を止め、

 引き金を引いた。

 撃鉄の落ちるわずかな感触。次の瞬間肩にかかる、殴られたような衝撃。一瞬薄青色の閃光マズルフラッシュが淡く輝く。スコープの中では放たれた弾丸がまるでスローモーションのようにゆっくりと、カーブした軌跡を描きながら目標の胸の中心に吸い込まれていき、

 そのまま、地面に赤い花を咲かせた。

 スコープの向こうでタクティカルジャケットの真ん中にぽっかりと、腕がやっと通りそうな大きさの穴が開いた男がゆっくり後ろに向かって倒れていく。

そしてそのまま自分が地面に作った花の中に倒れた。同時に俺の耳に地面に薬莢が落ちる小さな金属音が響いた。

 銃声が団地に木霊する。

 俺はもう一人に照準を合わせた。狙いは同じく心臓。息を止め、そのまま引き金を引く。肩に衝撃。銃弾はそのまま少女に吸い込まれていき――火花が飛んだ。


「ちっ……!」


 スコープの向こうではバラバラになった自動小銃らしきものが飛び散っていた。どうやらあれに当たったらしい。マガジンが特徴的なバナナ型だった。AKか。

 今ので場所は確実にバレたらしい。スコープの向こうでは少女が片腕を抑えながら凄まじい速度でこの棟に向かって走ってきている。

 俺は縁から飛びのくと、スナイパーライフルをハンガーに仕舞い、PDWを構える。そして立ち上がり、縁から少女目掛けて撃ち始めた。躊躇はしていられない。やらねば、やられる。フルオートで撃ったが何発かは当たった。しかし、球状の膜の様なものに遮られて本体には届いていない。物理障壁か。

 続けて射撃していたら2秒ほどで弾が尽きた。マガジンを引き抜き、投げ捨てる。マガジンは地面に落ちた瞬間にほどける様に水になっていく。新しいマガジンを差し込み、コッキングレバーを引いて再装填する。どっちからくる? 直接登って来るか? 階段か?

 次の瞬間、屋上の床が弾けた(・・・)

 瓦礫がまだ落ちて来ていない中、コンクリートのがれきを跳ね飛ばして影が俺に迫る。


 術式展開。


 咄嗟に術式を展開する。強引に霊力を増幅させ、物質に直接干渉可能な濃度になった霊力を剣の形に成形する。左腕から、腕の方向に向かって青白い剣が姿を現した。

 影が振りかぶった何かをそれで受け止める。霊力が物質に干渉して溶接の様に火花が散った。


「っく……!」


 身体強化が限界に近い。俺は右手のPDWを適当に影に向けて撃つ。影は飛びのいた。剣を消し、呼吸し霊力の流れを整える。

 肩で息をしながら影を見るが、正体をはっきり見る前に再び切りかかってきた。上段から振り下ろされる――グレートソードか?――を再び左手に発生させた霊力剣で受け流す。再び火花が飛び散り、一瞬だが影の顔が照らされた。

 先程の少女だった。目は血走り、殺意に満ちている。タクティカルジャケットを着ているがその下は普通の服のようだった。

 少女が俺が弾いたグレートソードを下段から振り上げてくる。切っ先が床を削った。俺は前方に駆け出し、霊力剣で左にそれを受け流し、体を右に滑り込ませる。目指すのは、階段。


「Wait(待てっ)!」


 背後で少女が叫ぶ。英語だった。待てと言われて待つ馬鹿が居るかよ、と心の中で毒づきながら俺は瞬間的に発生させた霊力剣で扉を右下から左上に切り裂いた。そのまま体当たりで扉を吹き飛ばし、階段に躍り出る。背後には少女の気配。いいぞ、そのまま追って来い(・・・・・・・・・)


 術式展開。


 左腕を振りかぶる。一気に霊力を爆発させ、左拳に強烈な電荷を瞬間的に発生させる。階段を蹴って宙に、そしてそのままの勢いで踊り場の壁を殴りつけた。強烈な閃光。次の瞬間俺は空を舞っていた。周囲には赤熱し、半分溶解したコンクリートの破片が浮かんでいる。

 そのまま勢いで半回転。背後を見ると、階段の壁に綺麗に丸く穴が開いていた。穴の縁は赤く輝いていた。そしてその向こう、こちらを追って階段を駆け下りる少女の姿。彼女から見えない位置、踊り場の手すりの所に小さく光る物体。


術式展開、物理障壁。


 俺は最後の霊力を振り絞り、空気を一気にプラズマ化、圧縮して球殻状に固定する。視界が淡く、白く輝く。俺は重力に引かれて落下し、穴から少女の姿が見えなくなって――

 次の瞬間、直径5メートルほどの火球が出現した。視界がスローモーションになる。火球は綺麗に球状に踊り場のあった所を飲み込み、膨れながら色が白から鈍い赤に変わって行き、形もいびつになっていく。火球は俺の目の前まで迫り、球殻の表面を少し撫でて、止まった。

 身体を巨大なフライパンで殴りつけられたような衝撃。肺の中の空気を一気に吐き出してしまう。次の瞬間世界は元に戻り、炎の球は一気に小さくなって俺は地面に叩きつけられた。


「がっ……!」


 身体強化の術式が功を成した。全身が悲鳴を上げているが、何とか生きている。視界が滲んで前が良く見えない。

 必死に息を吸う。苦しくてしょうがなかった。

 ぼやけた視界が戻ってくる。感覚の無くなっていた身体に感覚が戻って来る。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 息を吸っても苦しくて苦しくてしょうがない。一気に大量の霊力を使った後遺症で、若いころにこれをやると早死にしやすいとも言われているが、気にしている余裕は無かった。

 手足に力が入らないが俺は何とか立ち上がる。平衡感覚が戻っていない。PDWのストックを縮める。片手で撃つことになりそうだ。

 目を上げると、踊り場のあった辺りは綺麗に吹き飛び、炎が轟轟と上がっていた。何かに引火したのだろうか。しかし土砂降りの雨で勢いはすでに衰えつつある。ともかく今は榛名と合流することが先決だ。俺は先程から不気味に静かな榛名のいる棟に向かって歩き出した。

 世界が、回った。

 思いっきり殴られたと気付いたのは、そのまま壁に背中から突っ込んで止まってからだった。身体強化を施したままでなかったら壁に投げたトマトみたいになっていただろう。再びぼやける視界の真ん中にさっきの少女が雄叫びをあげながらこちらに向かって真っすぐ走って来るのが見えた。先程持っていた大剣は持っていないが、手には尖った何かを持っている。必死に体を起こして避けようとするが――間に合わなかった。


「ぐっ……ああああああ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ”あ“あ”あ“あっ!!!」


 何とか胴に刺さるのは回避できた。しかしそれは、俺の左腕の二の腕に深々と突き刺さる。焼ける様な痛みに思わず声を上げる。PDWを直接少女の胴体に押し当て、引き金を引く。少女がよろけ、飛びのいた。何発かは確実に食らわせられたが。

 俺はPDWを投げ捨て、そのまま左腕に刺さった金属片を掴む。


 術式展開。


 金属片を勢いよく引き抜き、投げ捨てる。強烈な痛みが襲うが歯を食いしばって耐える。血が弧になって飛び散った。血に込めた術式が地面に薄く張った雨水と混ざり合って起動する。水は一気に収束し、一本の弧の形をとっていく。段々になった弧の形をした、水の刃が付きだした俺の拳の前に出現した。

 少女が咆える。地面に手を突っ込むと、淡い光と共に一本の大剣が地面から引き抜かれた。変性で作ったのか。俺は左腕を庇う様にして右半身を前にし、水の刃を脇に構える。少女がグレートソードを振りかぶり、俺に向かって駆け出した。刃が淡く光っている。決める気か。

 俺はその場から動かない。左腕は使い物にならないし、霊力も残り少ない。確実に当てなければ、死ぬのは俺だ。1歩、2歩、3歩、4歩――ここだ!


 術式起動、第一段階。


 刃の端から蒸気が吹き出て視界を覆う。見えていた少女の姿が完全に消える。しかし俺は確実に少女を捉えていた。少女の足が、止まる。

 俺は駆け出し、刃を握る手に力を込めた。


 術式起動、第二段階。


 空気が割れる、そんな表現の出来る音。左右対称な水の弧の刃に垂直に、巨大な白い刃が現れていた。俺は真横に、薙ぎ払う様にしてそれを振りかぶり――

――少女の身体を、横に両断した。


「……What?(えっ?)」


 少女の瞳に満ちていた狂気が消え、そんな小さな声を漏らした。写真に写してそれをハサミで切った様な、綺麗な赤い切断面は、一瞬で白く霜で覆われた。重い音を立てて少女の上半身が地面に落ちる。少し遅れて、下半身が地面に倒れた。

 少女の上半身は、何かを掴もうとするように腕を空に伸ばして、力尽きた。


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