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虹屑の戦鏡譚  作者: 山鴎 柊水
序章 出会いと再開の地、姫様御一行の旅は始まってない!?
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Amanter part 3 鈴の優しい音色

「アイリス様、あまり目立つ行為は控えてください」

 恐る恐るスズは周りを警戒しながらアイリスに言った。アレンスの市場にいる。

「スズ、私を様付けで呼ぶと怪しまれる」

 軽快なリズムで歩いていくアイリス。鼻歌が聞こえてきそうなほど元気だ。人の喧騒の中で二人は埋もれていた。

 アイリスが先を歩き、その後ろからスズは付いていく。アイリスに付いていくことが大変で、それに加えて警護までしないといけない。

 スズは、ポケットに手を突っ込んでいる人は刃物を持っているのではないかと注意し、かごを持つ人は怪しい行動していないか注意するといった具合で、周りにいる人全員怪しく思えてきた。

「いえ、呼び捨てでは呼べません」

 スズは警戒もしながら、アイリスの相手もしないといけない。少し後悔をした。 アイリスを街の中に連れてくるのではなかったと。

「それにスズ、それだと余計に怪しまれる」

 アイリスは苦笑いした。後ろでスズは、そわそわしている。視線が左右上下絶え間なく動く。


 2人はアレンスの露店が立ち並ぶ通りを歩いている。

アイリスは春の季節にぴったりの服装。桜色を基調としたスカートが綺麗だ。お姫様には見えなくても、どこかの貴族の娘かと思わせる気品を持ち合わせていた。

 スズは少しばかし堅苦しい茶色を主とした服装だ。腰には剣を提げている。スズのかわいさを半減させている。

アイリスは、スズにも似たような可愛い服を着せようとさせたが、スズに断られた。

 このような服は、もともと変装用にあったものだ。ドレスの他にも、様々な場面できることのできる服装を何着も鞄の中に入っている。その中の一着を着ている。


 2人は首尾よく迎賓館から抜け出し、今こうして観光に楽しんでいる。楽しんでいるのはアイリス一人で、スズは神経をすり減らされているのだが。

「もしものことがあったら、大変です」

 スズはアイリスに向かって言うのだが、アイリスは露店に立ち並ぶ商品に目を奪われていた。

「スズ、この彫刻すごい」

「嬢ちゃん、目の付け所がいいね。こいつは、東洋で有名な一刀彫と呼ばれる彫刻だ」

 露天商のじいさんが威勢のいい声でアイリスに話しかける。

 姫を嬢ちゃんと読んだ時点で牢屋入りだろう。知らぬが仏だ。

「東洋の彫刻。珍しい。見たことない」

 アイリスは、そんなこと気にせずに露天商のじいさんと話す。

「おうよ。アレンスは海からの貿易品が入ってくるが、その中でも珍しい逸品だ。今ならお安くしておくよ。どうだい嬢ちゃん」

「スズ、スズ。これ可愛いわよね」

「なまずの彫り物ですか。彫り方が上手です」

「なまず?」

「東洋に生息している魚みたいなものです。本で見たことがあります」

「スズ、買ってもいい?」

「この細長い木の置物をいったいどうするおつもりですか?」

「飾るの」

 アイリスは目を輝かせている。姫としての威厳はどこに消えたのか。ここにいるのは、一人の少女だった。

「わかりました。おじさん、これください」

「まいど!」

 スズはポケットから銀貨を取り出し渡す。

なまずの彫り物を抱えているアイリス。少女が、なまずを抱きしめている光景は、何とも言えない感じがした。スズは微かに笑う。

「それでは行きましょう」

「もっと見て回りましょ」

 アイリスは露店を歩き回る。なまずを抱えながら。

「嬢ちゃん、この工芸品どうだ!」

「可愛いね。このビフトレス名産の一品はいかが!」

「お嬢さん、可愛らしいアクセサリー売ってるよ」

 行く先々の露店を見て回り、露店の人と話していた。アイリスは微笑みながら会話する。


 姫という身分を忘れてしまった少女のように、楽しく歩く。

 この光景を見ただけで、スズは気が晴れた。


 その後も、さんざん歩き回り疲れる。休憩も兼ねて食べ物屋に入った。

「今日は楽しい」

 丸テーブルの周りには四つのイスが、そのうち二つは荷物が置かれていた。

 アイリスはそのあとも購買意欲は衰えず、珍しいものを次々と買う。途中、スズが止めなければ、荷物の山ができていたであろう。

「それはよかったです」

 スズはコップの水を飲み喉の渇きを取る。アイリスは何を食べようか悩んでいた。

 姫であることを忘れたアイリス。その様子は、どこにでもいる年相応の少女だった。

 初めての外出。本当の景色。本物の人。何もかもが新鮮である。生まれてから、家庭教師などが付き添い勉学に励んだ。スズとヘスティナが来てから、ようやく外の様子を聞くことができた。

「あっという間に時間が過ぎる。時間の流れがはやく感じる」

 アイリスは夢見心地に天井を見ている。

「スズ、アレンスの街で、これだけ楽しいのだから、王都はより楽しい場所なの?」

 アイリスはいまだ城の窓からしか見たことのない王都に思いをはせる。


 スズはすぐに答えられず、少し間が空く。


「そうでもないです。でも、そうかもしれません」

 スズは言った。

「どういうこと?」

「楽しい面は、ただの一面にしか過ぎません。アイリス様、様々な面をあることをわすれないでください。いつも一つのことばかり見ていると、他のことが見えなくなります」

「そうね……」

 気を落とす。

「でも、楽しむことはいいことです。存分に楽しんでください」

 慌てて言い直すが、言ってしまったら最後、重い空気を作り上げてしまう。

「……」

「気にしないでください。ちょっと説教臭くなってしまって、すいません」

「スズに謝ってもらう必要はない。私こそ、羽目を外しすぎたみたい」

「今日は自由時間です。楽しまないといけません」

「でも……」

 スズは後悔する。せっかく楽しんでいたのに、それを潰してしまった。

「私、ちょっとお手洗いに」

「私も付いていきます」

 アイリスは、この空気から逃げ出すように、立ち上がりトイレに行こうとする。

「スズには荷物を見てもらいたいの。それに、近くだから一人でも大丈夫」

 アイリスはトイレのある方を指さす。厨房の真横あたりにある。

 トイレは、この時代、どこの国でも普及している。衛星概念というものが根付いていた。

「ですが……」

「大丈夫」

 アイリスはそのまま行く。スズは黙って後ろ姿を見ていた。


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