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虹屑の戦鏡譚  作者: 山鴎 柊水
序章 出会いと再開の地、姫様御一行の旅は始まってない!?
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Amanter part 2 鈴の優しい音色


 サンセル村から逃げたイツキたちは馬車に乗って一路アレンスに向かっていた。

 夜になってしまい、宿屋などなく、馬車で野宿となった。近衛騎士の2人は仮眠をとっている。三姉妹は何やら会話をしていた。

「お姉ちゃん、危ないんじゃない?」

 短いボブカットをした次女ローレイアが長く濡れたような髪を持つ長女エリザラに向かって言う。

「大丈夫よ。今までイツキについて損したことがないんだから」

「私もローア姉に賛成。エリザラ姉は無神経」

 肩あたりまである髪の毛先はそろっていない三女ヴィアーナもローレイアの意見に同意する。それを聞いてエリザラは肩をすくめた。

「ヴィナまで。ちょっとはお姉ちゃんを信用したらどう?」

「いや、いままでを考えると……」

「……不安しかない」

「お姉ちゃん、泣いてもいい?」

 エリザラは妹たちの言葉に耐え切れず涙目を作る。

「泣いたってお金にならない」

「森の中で泣いて。姉妹の恥だから」

「私の妹は最高よ」

 2人からの言葉を冗談だと勝手に解釈しエリザラは涙目なんてなかったように、2人の頭をなでる。

「今回も、がっぽり儲けるわよ」

「お金のために」

「はい」

 三姉妹は会話を楽しみつつ、3人が寄り添いあって眠りについた。



 そんな様子を片目に、ヘスティナの近くに行くイツキ。

「ティナは寝ないのか?」

「見てわからない。火の番」

 焚火の前に座りながら、ぼんやりと火を見ているヘスティナ。その横にイツキは座る。

「ありがたいな、近衛が夜の警護をしてくれるだから」

「私も部下の二人に感謝しないと、夜中の番をしてくれるのだから」

 枝を焚火の中に入れる。夜の警護は近衛が引き受けた。3人いるため、時間ごとに区切る。部下はヘスティナを最初にして、先に眠らせることにしたのだ。

「そうだな、しっかり寝ないとダメだ」

「私は子供じゃない。もうあれから、2年ぐらいが経つんだから」

 つい2年前のことを思い出す。無事王立士官学校を卒業したことを。

「いやー、2年も見ないうちに可愛くなって」

「……それが、久々に会う友にかける言葉?」

 焚火のせいで、頬が赤く見えるヘスティナ。

「事実を言ったまでだ」

「そんなことより、今は反乱軍について。あなたは一応元指揮官なのだから、戦力を教えて」

 これ以上、焚火のせいにできなかったヘスティナは、真面目な話を持ち出し冷静になろうと努めた。

「2千だったよな。内訳では、騎馬はいない。そのかわり鉄砲が全体の半分以上もっているな」

「鉄砲が多い」

「そりゃ、軍に勝とうと思ったら、鉄砲がないと厳しいんで、買わせた」

「余計なことを」

「指揮官は、たぶん村の若いやつだったな。名前は忘れたけど。なかなか気概だけはあった。小隊ぐらいを任せるなら有能なやつだ」

「ということは、2千人を指揮するほどの器ではないと?」

「そうだな、厳しいと思う。小隊を指揮するのと、大隊を指揮するのでは違うからな」

「そこが付け入る隙になる」

「ところで、アレンスにいる部隊はどれくらいだ?」

「アレンスは、周りに国境がないから、駐留する軍は少ない。たしか2百人ほど。それに、今アイリスの警護に近衛騎士2小隊2百人がいると思うから。合計4百」

 4百と2千、戦力比では五倍の差がある。

「近衛は、全員馬もっているよな」

「そう。行軍する際も速くするために、全員騎兵」

「そうなると、騎兵2百に2百の戦力で、反乱軍2千を相手にするのか」

「城壁にこもるのも手」

 アレンスは周囲を城壁で囲まれている。ここは王都への最終防衛ラインと言っていいので、防御の構えは固くしてある。

「アレンスに行ってみないと何ともいえないな」

「早くいかないと」

 ヘスティナは頷く。そして、アイリスのことを心配する。

「反乱軍は徒歩だ。だから、馬車でいけば間に合う。あとは、合流した後どうするかだな」

 空を見上げると星が光っていた。やさしいそよ風が流れる。

 その後2人は何も話さなかった。2人とも空を見上げていた。イツキは寝ころがりながら、ヘスティナは座りながら。


 会話しない。


 静寂を保つ。


 星の光のみ。


 風が流れる。


 焚火が燃える。


 2人はいた。近くも遠くない距離感だった。


 ヘスティナは、2年ぶりの再会で何をしていたかったのか聞きたかった。しかし、それも聞けなくなってしまった。

 隣にいるだけで嬉しかった。

 また会えてのだから。


 イツキはいつまでも空を見上げていた。


 ヘスティナがイツキを見つめる。

 まったく動かずに空を見上げている。


 頬すら動かない。一定の呼吸をしているだけ。


 それであることに気付く。

「もしかして、イツキ。寝てるの」

 ヘスティナは近くに行くと、イツキは目を閉じていた。ヘスティナの声に反応しない。何やら良い雰囲気になっていたことが台無しになってしまった。

「仕方ないか」

 ため息を久々についたヘスティナは、交代するまでの間、焚火を見ていた。




 翌朝、馬車が再び動き出す。

「反乱軍の到着まで、おおよそまだ2,3日かかる。今のうちに」

 焦るヘスティナは、まだかまだかと馬車から身を乗り出している。

「その前に、サンセル村にいる王国軍が付けばいいのだけどな」

「それは無理。王国軍は大砲から鉄砲まで重装備で来たから、それだけ行軍速度が落ちる。最悪、援軍は遅れて到着か、もしくは近衛騎士だけ来るかも」

 戦いの全容が把握しきれない今回の件は一種の気味悪さすら感じる。

「とにかくアレンスに急いでいかないと」

 馬車が移動しているとき、アイリスたちはアレンスに到着し貴族の接待を受けていた。

 イツキたちは反乱軍に見つからないように、慎重に馬車を進めた。運がよく見つからずに進むことができた。移動途中で夜になり、また野宿をし、次の日の昼過ぎ、ようやくアレンスに着いたのだ。

 ちょうど、アイリスたちが午後の自由時間を満喫しようとしていた頃合いだった。



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