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虹屑の戦鏡譚  作者: 山鴎 柊水
1章 王都の霧を斬り、姫様御一行の旅が始まる!?
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Fenestra part3 城の窓辺から


 ちょうど、アイリスたちが城内にいる間、ヘスティナとイツキは行動を共にしていた。

「なんだ、近衛も暇なのか」

「暇じゃないけど、アイリス様のためなら……」

「そういうことにしておこう」

「本当にそうなの」

 二人は裏通りの舗装されていない土道を歩いていた。このあたりは、石造りの道路ができていない。そこまで環境が違うのだ。

「王都の未開発地区か」

「いつ見ても、ひどい状況ね」

 この未開発地区は、本来整備されるはずだったのだが、資金難に陥り、手つかずのまま数百年が経過してしまい、勝手にスラム街が形成されてしまったのだ。

 とりあえず、城壁に囲まれている中にあるが、未開発地区の周りには、柵が設けられていて、通行が制限されている。

 と、いったところで、裏ルートはいくつもあったり、警備兵を買収したりと、意味をなしていない状況でもあるのだ。

 表で事件を起こせば、裏通りのせいにされて、粛清されてしまうと知っている裏通りの人々は、下手に事件を起こせない。

 そのためか、犯罪の数自体多くはない。すべて表に出てこないからだ。

「秘密主義で、金さえあれば、どうにでもなる裏通りは、たしかに密談する場所としてもってこいだな」

「でも、誰かの目には入らないの?」

「貴族が、歓楽街によくいくから、その一人と間違えられるだけだろ」

「厄介ね」

 ほとんどの貴族が怪しい対象だ。

 栄華を誇った国の末路は大抵こんなものだ。しかし、ほとんどの人が、どうにかしようとする力まではない。ただ、現状を静観することしかできないのだ。

「さてさて、どうするかな」

「こんなところに来て、何するの?」

 二人は、気配を感じながらも無視して歩いていたら、相手の方から声を掛けてきた。

「おまえ! お前は、たしか、前の会戦で活躍したとかいうヘスティナとかいう近衛だったよな!」

 盗賊まがいの格好をした男が半月刀を持ちながら近づいてくる。取り巻きは、おなじく 半月刀を持った男が3人。

「有名人になったな」

「有名になりたくなったのだけどね」

 ヘスティナも剣を抜く。同じくイツキも剣を抜いた。

「へっ、へっ、実はとある人から依頼があって、お前を殺せということらしい。命を貰うぜ!!」

「どういうこと? 相手から尻尾を見せてきた?」

「焦っているのか、それとも、ヘスティナ、また変なことをやらかしたか」

「何よ変なことって」

「そりゃ、あれだ。貴族の不正を取り締まったりだな」

「数が解らないぐらい取り締まったから覚えない」

「やっぱり、そうだったのか。あの噂は本当か」

 ヘスティナの噂とは、姫付きの近衛になった際、ついでとばかしに不正を取り締まった。近衛権限を使って捕まる。取り締まった後、相手の貴族は裏からお金を回して、恩赦という形で釈放がほとんどなのが現状だ。暴れ回ったためにアイリスまで被害が及びそうになったので、ヘスティナは自粛じしゅくしたのだ。

「とりあえず、捕まえないと」

「自分でまいた種は自分でどうにかしないと」

 二人で話しているのが気に食わない男は怒鳴る。

「おまぇら、俺たちの話を無視して、いい度胸だな。思い知らせてやる!!!」

「あなたたちが思い知らされると思うのだけど」

「怖い怖い」

 ヘスティナが目を細めて構える。抜刀して先手必勝に斬りかかる。

「は、はや……」

「1人目」

 殺してはない。あくまで剣を脅し替わりで、蹴りをいれて気絶させた。

「こ、こんな強いやつとは聞いてないぞ!」

「2人目」

 剣の塚で強打する。相手は一瞬で気を失う。

わりにあわ……っ!」

 三人目は語る必要すらない。

「3人目。はい、これで取り巻きは終了」

「おぉ、ティナ。ペースが早いな」

 相手は登場して、わずか数分で3人が倒れていた。

「どいうことだよ。こんなこと聞いてないからな!!!」

「誰に聞いてない?」

 ヘスティナは鋭い声をあげる。それと同時に、剣を構えて最後に残った男を斬りかかろうとする。

「ひぃっ、すまねぇ、ゆるしてくれ」

「ティナ、許してやれ」

「はいはい、それじゃあ、誰の命令なの?」

 完全に弱腰になりしゃがみこんでしまった男の額に、剣先を突きつける。

「裏カジノを率いるやつだよ。名前は、しらねぇ。そこでやとわれたんだ」

「裏カジノ、聞いたことある? イツキ」

「一応な、面倒だな」

「それじゃあ、情報提供ありがとう。早くいきなさい。斬るわよ」

 ヘスティナは睨みを利かせて脅すと、男は逃げていく。もちろん、男三人もだが、完全に気絶しているために、引きずっている。

「とりあえず、行くならスズも連れて行かないとな」

「そうね」

「じゃあ、城に行きますか」

「あなたはどうやって行くの?」

 お尋ね者のイツキは城内に入るのは難しいはずだ。

「それは、任せなさい」

「もう、何でもありなのね」

 イツキなら何でもしてしまう、そんな風に思っているヘスティナは憂鬱な気持ちになったのだった。


 城内に侵入したイツキは、堂々とヘスティナの隣を歩く。

「商会さまさまね。城内の安全性について検討し直さないと」

「無駄だ無駄。何とかなってしまうさ」

「イツキが言うと、本当に聞こえるから、最悪ね」

「仕方ない、本当のことだ」

 向かう先はもちろん、アイリスの部屋だ。

「アイリス様には内緒にしてよ。裏カジノに行くなんて言ったら、絶対に付いてくるから」

「そうだろうな、今のアイリスの様子だと付いてくるだろうな」

「内緒よ。一国の姫が裏のカジノなんていったら、一大スキャンダルだから」

「国王が発狂しそうだな」

「それはないと思うけど、とにかく、アイリスは連れて行ったら駄目よ」

 念押しするヘスティナだったが、薄々予感がする。にたにた笑うイツキの姿を見ていたら、無駄なことだろうと。

 部屋の中にノックもせずに入る。まったく失礼極まりない行動だとヘスティナは思いながら、後ろからついていく。もちろん、変な行動したら斬りかかってやろうと、剣の塚に手を置く。

「ティナ、殺気が立ってるぞ」

「今から、その口を開けられなくしてあげましょうか?」

「結構だ。アイリス。元気か?」

 突然の来訪者に驚いた様子を見せたが、イツキだと気づいたら、もっと驚いた表情を見せた。スズは来る人物を知っていたのか、普段通りの表情で、なくなりかけていたアイリスのティーカップに紅茶を注ぐ。ミスティは立ったまま固まっていた。

「イツキさん、お久しぶりです」

「久しぶりだな。スズも元気にしてたか」

 とりあえず、会っていない設定らしいので、スズも久しぶりに会った振りをする。

「はい、久方ぶりです」

「それでだ、本題に入る。ミスティ、裏カジノはわかるか?」

 イツキはすぐさま話す。ミスティは急に反応できずに少し経ってから、

「はい、3つ知っています」

 と返事するのがやっとだった。

「3つか、一番大きいカジノは?」

「はい、一番大きいのがあります。噂では、貴族たちご用達のカジノらしいです」

「そこで決まりだな」

 ヘスティナは睨む。スズは、事情がわかっていないので疑問が浮かぶだけだ。

「アイリス、社会勉強だ」

「社会勉強ですか?」

「そうだ」

「イツキ!」

 ヘスティナは怒るが、そんなことも露知らず。

「護衛に俺とティナ、スズもいるし、目利きのきくミスティもいるから大丈夫だ。それに、アイリスの顔を知っているのは、ほんのわずかだ。髪形を変えて服装も普通にすればわからない」

「でも……」

「行きたいです!」

 アイリスはイツキの提案に賛同する。これは本心でもあり、嬉しかったのだ。どんな場所でも行けることに。

「ですが、危ないです」

「大丈夫。ティナとスズがいるんだもの」

 アイリスの信頼のこもった笑みに、ヘスティナは何も言うことができなかった。スズもようやく事情を呑み込めたが、すでに反論する状況を失っていた。

 ミスティは黙って状況を眺めている。この4人が作り出す風景は華やかだ。ミスティが今までに経験したことのない関係性だった。不思議な世界が広がる。そこには鍵のかかった扉はない。いつでも扉は開かれていたのだ。

 アイリスのわがままに、スズとヘスティナは無理やり止めようとしない。二人はイツキに期待をしていたのかもしれない。この城から連れ出してくれるのではないかと。

「行きましょう」

 アイリスの号令がかかった。やる気が伝わってくる。本人のわくわくする気持ちが前面に出てくるのだ。

「よしよし、さっそく、今日の夜に強行開始だな」

 イツキの意地悪い笑みが止まらない。その様子を見た二人は大きなため息をつくのであった。

 アイリスは心おどらせている。

 ミスティはというと、不安しかなかった。

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