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虹屑の戦鏡譚  作者: 山鴎 柊水
1章 王都の霧を斬り、姫様御一行の旅が始まる!?
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Fenestra part1 城の窓辺から


「これから、は、はたらかせても、もらいます。ミスティと申すメイドです。なんなりと、ご指名してください……っ! 指名じゃなくて、ご奉仕? えっとえっと」

「ミスティさん、落ち着いてください」

「は、はい。おせわをさせてもらいます!」

 カタコトの支離滅裂な言葉を言いながらミスティは、九十度以上のお辞儀をした。それを見ながら、スズは苦笑する。

 二人はメイド服を着用している。綺麗なメイド服だ。ふとももが一部露わになっていた。

「そんなに、緊張なさらないでください。私もお友達が増えるのは嬉しいことです」

「お、おともだち!? いえ、失礼しました!」

 ミスティが戸惑うのも当然だ。

 なにせ、

「アイリス様、急にお友達とは困惑するのも当たり前です」

「ごめんなさい。だって、スズとティナの他に新しく来てくれたんだもの。歓迎しないと」

 アイリスは、まぶしくて見ることが出来ないくらいの輝いた笑みを見せる。

「はい、お姫様にこのようなお言葉ありがたくございます。今後も精進していきたいです」

 ミスティはカチコチに固まりながら、またもや九度以上のお辞儀をする。

「……なんでこんなことになったのですか」

 スズはわずかにため息をしてしまいながら、ふと数時間前のことを思い出す。


「なんでそうなるの!?」

 ヘスティナの怒声が響き渡る。

「だから、それが最善だろ」

「でも、それだとアイリス様が危険に及ぶ恐れが」

「そこは、二人でどうにかしろ」

「そんな無責任な」

「俺は、ある程度、的をしぼって調べてミスティに顔の確認をしてもらわないといけないんだ。その間だけだから」

「駄目よ!」

 ヘスティナはアイリスのことを一番に考えた結果、拒否をしている。ミスティの話と、転覆計画は阻止しなければならないのだが、それでも拒絶した。

「騎士様も、そう熱くならず」

 ここで、ミーナが間を入ってくる。

「たしかに、イツキの言うとおり、お姫様のところが一番安全。あそこだと、警備も厳重だし、なにより、頼れる近衛騎士様が二人も付いているということであっては、最適だと思う」

「しかし……」

「大丈夫、大丈夫。側付きのメイドとして働かせれば」

「そうですけど、これはアイリス様に相談して」

 ヘスティナは、アイリスを第一に考えていたのだ。そこにイツキが言った。

「ダメだな。アイリスを巻き込むのはなしだ。どうせ首を突っ込む気になるだろうな、あのお姫様。だから、内緒でやらないと」

「アイリス様を騙すなんて」

「仕様がないだろ。乗りかかった船だ。最後まで」

「それって、あなたが勝手に巻き込んだのでしょ」

 と、

 口論が続いた。

 しかし、結果は見えていた。

 ヘスティナは、イツキに口論で挑んで一度も勝ったことがない。

 結果。

「ということで、ミスティを頼んだ。俺も城に顔を出すから」

 ということで、今こうして、ミスティはメイドとして働いている。

 突然の雇用に城側も驚いたが、そこはスズとヘスティナ、それとヴェネチット商会の口添えがあり、すんなりミスティは城内に入った。



 自己紹介を終えて、アイリス様は講義を受けに行っている間に、スズは説明をする。

「ミスティ。アイリス様のスケジュールです」

「は、はい。えっと、あれ?」

 ミスティがスケジュールを見ると、ほとんど空白だった。

「アイリス様は、王位継承権も低くて、晩餐会などに呼ばれるだけで、あとは学問の講義と、手習い事だけです」

「それなら、何をすれば?」

「あなたには、アイリス様のお相手をしてあげてください」

「えっ? で、でも、そんな突然」

 慌てふためく、初日から姫の相手をしないといけないとは思いも知れなかった。もっと、掃除洗濯などなどの雑用をさせられるのかと思っていた。

「もちろん、掃除と洗濯などをしてもらいますが、話相手になってあげてください」

「ですが、私は何も話すことなんて」

「あなたが、見て感じた経験を話すだけでもアイリス様は喜びます」

「経験を?」

 昔から、学問などというものを知らないミスティからしてみれば、スズの言葉は意外だった。

「それでは、まずは掃除と洗濯の仕方からです。ちょうど、アイリス様がいないので」

「は、はい。よろしくお願いします。スズ様」

「様付けは慣れていないですから、呼び捨てでいいです」

「えっと、それならスズさん」

「はい、ミスティさん行きますよ」

 ミスティは、ドキドキして胸を躍らせながらスズの後ろをついて行った。


「それでは、地政学についての講義を始めます」

 アイリスは、机に分厚い地政学の本を開けながら、話を聞いている。

 地政学者の第一人者と言っていいほどの人物である人から、一対一の講義を受けていた。

 本から様々な知識が入ってくる。講師の人から多くの意見が聞ける。

 アイリスからしてみれば、いつも、そこには現実味はない。あくまで、それは理想なのだ。こうあるべきだという知識なのだ。

 そんなひねくれた意見を持っていた。

 アイリスは、いつも通りおとなしく講師の話を聞き、時間は過ぎて行った。

 そして、いつのまにか昼が過ぎていた。


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