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虹屑の戦鏡譚  作者: 山鴎 柊水
1章 王都の霧を斬り、姫様御一行の旅が始まる!?
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Nebura closed 霧に包まれる王都


 裏通りから抜けてきたイツキたちは大通りを歩いている。


「それで、イツキ。事情を説明してくれる?」

 ヘスティナは、事情を問いただす。

「それは依頼主に会ってからだ」

「誰? 依頼主って」

「お前は知らない人物だろ」

 ヘスティナとイツキが歩いている後ろを、スズとミスティが付いていく。

「大丈夫ですか?」

「はい」

 ミスティの年齢は十八ぐらいと、スズたちと同じに見えた。けれど、ミスティの瞳の奥は霧がかかっているかのようにスズは感じた。


「ここだ。ついた」

 豪華な建物。大通りの中でもひときわ目立つ建物の中に入っていく。

「ここって、ヴェネチット商会」

 白塗りの建物、石造りで非常に堅牢な建物だった。周りの建物と比べてみても一際目立つ。そこの看板には『ヴェネチット商会』と書かれていた。

 ヴェネチット商会とは、大陸随一の商人であり、その当主、マルクス・ヴェネチットは大富豪、大陸一のお金持ちとも称させる。各都市や、各国にヴェネチット商会があり、物流の半分は、握っているとも言われる商会である。

「そうだ。俺の依頼主は、ヴェネチット商会だ」

 イツキは中に入り、声を上げて、

「ミーナ! いるか?」

 と呼ぶと、「やっときた」とすぐに返事がする。

 赤茶色の肩あたりまでかかる髪が左右に揺らしながら走ってきた。

「イツキ! 遅い! あなたがミスティね。わたしはミーナ。よろしく!」

 その少女はミーナと名乗り、慌ただしく動く。

 元気が有り余っているようで、その笑顔を見ても、元気印を押せるほどだ。

「後ろにいるお二人さんは?」

「二人は、俺の友達だ。ティナとスズだ」

「こんなところで立ち話もなんだし、早く中に入って」

 そう言いながら、ミーナは先頭を歩いて、少しばかり進んで後、一番奥の立派な扉を無造作に開けた。

 そこには豪勢な机が置いてあり、その前には机とソファーがあった。


「さぁ、座って座って」

 ミーナに押されるがまま、4人は座る。スズもヘスティナも、この流れに乗らされて何も言えないまま部屋の中に入る。

「さて自己紹介を。私は、ミーナ・ヴェネチット。よろしくね」

 明るい感じに自己紹介をする。それにつられて、ティナとスズがする。

「ティナとスズだっけ? あなたたちは何者?」

「二人は、近衛だ。腕っぷしは一流だからな」

 イツキが紹介する。

「二人は、近衛か。これは今回の件にぜひぜひ噛んでもらわないと」

「わ、わたしはミスティです……」

 最後に恐る恐るミスティが声を出した。


「これで全員ね。さてさて、ここまで終わったところで、イツキどうする?」

 と流れにのったまま、ここまできてしまったのだが、

「ミーナさん、私たち、状況が呑み込めてないの。説明してくれる?」

「あぁ、忘れてた。忘れてた。ということで、イツキ説明して」

「俺かよ。はいはい」

 イツキはため息をつきながら事情を説明した。

 どうにもこうにも、スズとヘスティナは驚いた。

 なんでも、王家の転覆計画があるとのことだ。その話を偶然聞いてしまったミスティは狙われる羽目に、なんでも裏通りの店に働いていたミスティは知りたくもない情報を知って、殺されそうになっているのだ。


 この時代、写真というものがないために、人の顔を覚えておくのは、人でしかない。

 ようするに、ミスティは、話していた人たちの顔を見てしまった。

 そのせいで、この転覆計画の黒幕から追われることになり、計画を阻止する側から言っても、非常に重要な人物になる。尻尾を出してこなかった転覆計画の人物を見つける機会となるからだ。

「というわけで、ミスティが重要な鍵だ。とりあえず、計画の持ち主を知っているのはミスティだからな。協力してくれるか?」

 イツキは説明をして、事後承諾として許可を求める。

「はい、私で力になるなら」

「もちろん、ミスティの安全は、このヴェネチット商会が保証するわ」

「ありがとうございます!」

 ミスティは頭を下げる。

「それと、ティナとスズ。巻き込まれた手前、協力してくれる? それと、近衛にこの情報は漏らしたら駄目」

「どういうことですか?」

 スズが口を開いた。まっさきに近衛騎士隊に報告しているものだと思っていたのだ。

「どうにも、軍内部にも協力者がいるみたい。だから、この情報を漏らすと、こっちの商会に被害が及ぶし、それに計画が闇の中に消えちゃうから、それだけは避けないと駄目。あくまで内密に」

「そういうことでしたら、わかりました」

 スズの想定をはるかに上回っていた。簡単な転覆計画かと思っていたら、軍内部にも協力者がいる大規模だったとは想像以上だった。


「それで、なぜヴェネチット商会が、転覆計画を阻止しようとしているの?」

「それは、当然大事なお得意様がいなくなると困りますし。国がなくなると、治安がわるくなって、まともに商売できないから。なんていっても、貿易は、安全と平和が保証されていないとできないものよ」

 ミーナが商人らしく見えないのだが、もっともなことを言う。

 それを聞いてヘスティナは十分に信用できそうな人だと判断した。

 ただし、何か裏がありそうな雰囲気が漂っているのを肌で感じる。


 この様子を見て、イツキは若干前のめりに言う。

「スズとティナも協力してくれるよな?」

「それで、イツキ、どんな弱みを握られているの?」

「な、なんのことだ?」

「自分から協力してくれるなんて、まずないわ」

「そ、そんなことはない。これでも、この国ために思ってだな。俺としては、この国を憂いているんだ」

 後ずさるように顔を引きつらせるイツキ。

「それは。もちろんこれよ」

 ミーナは手でお金のマークを作る。

「借金?」

「大正解」

「イツキ……」

 二人からの視線が、なぜか痛かったイツキであった。


 話がまとまったところで、ミーナが締めくくろうとする。

「ミスティには苦労かけると思うけど」

 ずっと商会の奥に隠れていないといけない、それも、商会にいるからといっても必ずしも安全とは言えないのだ。

 それがミーナの懸念事項であった。

「そこでいい案がある」

 イツキがにやにやしながら、言って見せた。

「なになに?」

 ミーナは興味津々に耳を立てる。

 スズとヘスティナは嫌な予感しかしなかった。


「それはだな、灯台下暗しで、一番安全な場所で匿おう!」

 とイツキは、意気揚々と言ったのだった。



 霧に包まれる王都で、はたまた一悶着ありそうな気配が濃厚であった。



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