Nebura part 3 霧に包まれる王都
山賊に襲われることもなく王都に戻ったアイリスは、王宮においても戦勝祝いの言葉を貰う晩餐会が開かれた。
王宮の晩餐会は、アレンスとは比べ物にはならないほど豪勢だった。それに増して、挨拶をする人の数も桁違いだった。
疲れ果てたアイリスは、この日は何も考えずに眠りに入る。
それから、一週間後。
「スズ、イツキから連絡はない?」
「それを聞こうと思ってました、連絡はないのですか?」
「ない」
「そうですか」
珍しくスズとヘスティナは、休日の余暇を楽しんでいた。一週間もたつと、アレンス会戦の事後処理も終わり、ようやく暇な時間が出来たのだ。そのために、二人は一日休暇を取った。
「王都にいるって、いってたけど」
「信用ないです」
「信じられないから。こっちから探さないと」
「いい考えです。こちらから探しましょう」
そうと決まれば、二人の行動は早かった。二人はイツキを見つけ出すために、いそうなところをしらみつぶしに探す。
「大通りもいません」
「まだ昼過ぎだから、さすがに飲み屋にはいないと思うけど」
昼もすぎ、太陽が地面に戻ろうとしている。
「あとは裏通りですか?」
「見つけるのに苦労する」
王都の作りは、簡単である。大通りがあり、その周辺は店が立ち並ぶ。そこから少し奥に入ると、宿屋や雑貨屋が立ち並び、さらに奥に入ると、王都の人たちが住む家が立ち並んでいた。
裏通りは、文字の通り王都の裏である。ここの治安はお世辞を言っても良くはない。そのために、普通の人たちは近づこうとしない。逆に、そういう場所だからこそ、何かあるものだ。たとえば、風俗街なども裏通りにあったりする。一種のスラム街とも言っていい場所でもあるのだ。
スズとヘスティナは武器を持って裏通りを進む。スズは肩に銃を布に隠しながらかけており、ヘスティナは堂々と剣を腰につけていた。
「いつ来ても物騒です」
「物騒な場所であり、イツキが好む場所ね」
大通りとは打って変わって、荒れ果てて汚れている。ところどころには、壁に赤色が付いているところもあった。
「国はどうにかしないんですか、この裏通り」
「あえて放置してあるんでしょ」
ここは最貧層が住む場所で、この格差は、どうしようもできないことであり、最貧層が住むところとして、裏通りが存在し、様々な理由が重なっているのだ。
スズとヘスティナが進むと、
「キャーーーーーー!!」
女性の悲鳴が聞こえてきた。
「これだから、裏通りは」
「行きましょう」
二人は走り出す。スズは銃を取り出して撃てる準備を整える。
「おらおら! お前! やっと見つけた!! 逃げやがって! この! この!」
「許してください。許してください」
厳つい男が、華奢な女の子を蹴り飛ばしていた。
女の子は我慢することしかできない。
「やめなさい!」
ヘスティナが大きな声を上げる。
「あぁ、なんだ。俺の邪魔をするな!!」
ヘスティナと厳つい男が対峙する。
緊張が走った。
ヘスティナは斬りかかるタイミングを待つ。
おびえた表情で少女はこの場を静観していた。
両者はにらみ合い、ヘスティナは間合いを決めて剣を抜こうとすると、
「後ろにご注意を、っと!!」
背後から来ていた人物が、厳つい男の首筋を強打して、気絶させた。
「イツキ!」
その人物とは、二人が探し求めていたイツキだった。
「お嬢さん、大丈夫ですか」
イツキは、蹴られていた女の子を立ち上がらせようとする。
その女の子は、震えながらイツキのことを見ていた。
「君の保護を依頼されてね。ミスティさん」
「えっ……」
自分の名前を呼ばれて驚いたのだろう。ミスティと呼ばれた女の子は疑いの目を向ける。
「どうして、私の名前を」
「とある事件を追っていてね。君が、その際の重要な人だとわかったから、保護しにきたんだよ。よかった。よかった。間に合って」
「そ、そうなの」
「そうですとも、このイツキに任してください」
イツキの崩れた笑いを見ていたミスティは起き上がる。
「ありがとうございます」
「どういたしまして、まったく、こんな美少女をいじめるなんて、万死に値する」
栗色の長い髪をして、大きな瞳をしている。端正な顔で美しい。確かに、イツキの見る目には美少女に写ったのだ。
「イツキ、どういうこと?」
ヘスティナが、ようやく口を開いた。
「ティナとスズ。どうしたんだ。こんなところで、なんだお姫様が裏通りに興味を持ったのか」
裏通りとは、このスラム街、最貧層の俗称として呼ばれていた。
「イツキを探してたの」
「そうか。すまんすまん。野暮用を頼まれて、忙しかったんだ。ところで、ティナとスズ。これからミスティを連れて、裏通りを出るから一緒についてきてくれ」
イツキは路地から抜け出して、表通りに行こうとする。
「そうと問屋はおろさせねえ! おめぇも知ってると思うが、その嬢ちゃんは、こっちで始末しないといけねぇんだよ!!」
四人を取り囲んだのは、いかにも悪そうな集団、十人だった。全員が、斧や剣、槍、短剣などの武器を持っている。
「あちゃ、やっぱり顔が割れているか」
「そりゃあ、そいつはついこないだまで、働いていた人間だ。こういう業界は、人の顔を覚えておくもんだ」
リーダーらしき男が話す。その間も距離が詰めていく。
「ティナとスズ、さっさと終わらすぞ」
「イツキは面倒事しか持ち込まないの?」
「イツキと出会ってからは、なんだか大変なことばかりです」
ヘスティナが剣を抜いた。そして、スズが銃を構える。
「ミスティちゃん、俺の後ろに隠れて、この2人は強いからね。ぱぱっと終わらしちゃうよ。だから、心配しない」
「は、はい」
ミスティはイツキの後ろに隠れた。
「イツキ、私たちに押し付ける気?」
「当然だ。楽勝だろ、なんせ10人だ」
「簡単に言わないで、あとが高くつくわよ」
「大丈夫だ。依頼主がすべてどうにかしてくれるだろ」
ヘスティナが鼻で笑った。
「お前ら、話がなげぇーんだよ。こいつら全員殺しちまえ!」
「「「「「おぉおおおーーーー」」」」」」
十人が全員で突っ込んでくる。
「スズ、援護よろしく」
「了解です」
効果音その他は、一切省略。
その後、1分で戦闘は終わった。
この時起きた出来事は、ミスティから見れば一方的だった。
「す、すごい」
「だろ、少しは信用してもらえたか?」
「はい」
ミスティは呆然と頷くことしかできなかった。
「二人ともお疲れ様」
「楽勝よ」
「一安心です」
四人が去った後には、倒れて山積みにされた男が十人いた。
相手が悪かったとしか言いようがない。




