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虹屑の戦鏡譚  作者: 山鴎 柊水
1章 王都の霧を斬り、姫様御一行の旅が始まる!?
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Nebura part 3 霧に包まれる王都


 山賊に襲われることもなく王都に戻ったアイリスは、王宮においても戦勝祝いの言葉を貰う晩餐会が開かれた。

 王宮の晩餐会は、アレンスとは比べ物にはならないほど豪勢だった。それに増して、挨拶をする人の数も桁違いだった。

 疲れ果てたアイリスは、この日は何も考えずに眠りに入る。



 それから、一週間後。


「スズ、イツキから連絡はない?」

「それを聞こうと思ってました、連絡はないのですか?」

「ない」

「そうですか」

 珍しくスズとヘスティナは、休日の余暇を楽しんでいた。一週間もたつと、アレンス会戦の事後処理も終わり、ようやく暇な時間が出来たのだ。そのために、二人は一日休暇を取った。

「王都にいるって、いってたけど」

「信用ないです」

「信じられないから。こっちから探さないと」

「いい考えです。こちらから探しましょう」

 そうと決まれば、二人の行動は早かった。二人はイツキを見つけ出すために、いそうなところをしらみつぶしに探す。

「大通りもいません」

「まだ昼過ぎだから、さすがに飲み屋にはいないと思うけど」

 昼もすぎ、太陽が地面に戻ろうとしている。

「あとは裏通りですか?」

「見つけるのに苦労する」

 王都の作りは、簡単である。大通りがあり、その周辺は店が立ち並ぶ。そこから少し奥に入ると、宿屋や雑貨屋が立ち並び、さらに奥に入ると、王都の人たちが住む家が立ち並んでいた。

 裏通りは、文字の通り王都の裏である。ここの治安はお世辞を言っても良くはない。そのために、普通の人たちは近づこうとしない。逆に、そういう場所だからこそ、何かあるものだ。たとえば、風俗街なども裏通りにあったりする。一種のスラム街とも言っていい場所でもあるのだ。

 スズとヘスティナは武器を持って裏通りを進む。スズは肩に銃を布に隠しながらかけており、ヘスティナは堂々と剣を腰につけていた。

「いつ来ても物騒です」

「物騒な場所であり、イツキが好む場所ね」

 大通りとは打って変わって、荒れ果てて汚れている。ところどころには、壁に赤色が付いているところもあった。

「国はどうにかしないんですか、この裏通り」

「あえて放置してあるんでしょ」

 ここは最貧層が住む場所で、この格差は、どうしようもできないことであり、最貧層が住むところとして、裏通りが存在し、様々な理由が重なっているのだ。


 スズとヘスティナが進むと、

「キャーーーーーー!!」

 女性の悲鳴が聞こえてきた。


「これだから、裏通りは」

「行きましょう」

 二人は走り出す。スズは銃を取り出して撃てる準備を整える。

「おらおら! お前! やっと見つけた!! 逃げやがって! この! この!」

「許してください。許してください」

 厳つい男が、華奢な女の子を蹴り飛ばしていた。

 女の子は我慢することしかできない。

「やめなさい!」

 ヘスティナが大きな声を上げる。


「あぁ、なんだ。俺の邪魔をするな!!」

 ヘスティナと厳つい男が対峙する。


 緊張が走った。


 ヘスティナは斬りかかるタイミングを待つ。

 おびえた表情で少女はこの場を静観していた。


 両者はにらみ合い、ヘスティナは間合いを決めて剣を抜こうとすると、


「後ろにご注意を、っと!!」


 背後から来ていた人物が、厳つい男の首筋を強打して、気絶させた。

「イツキ!」

 その人物とは、二人が探し求めていたイツキだった。

「お嬢さん、大丈夫ですか」

 イツキは、蹴られていた女の子を立ち上がらせようとする。

 その女の子は、震えながらイツキのことを見ていた。

「君の保護を依頼されてね。ミスティさん」

「えっ……」

 自分の名前を呼ばれて驚いたのだろう。ミスティと呼ばれた女の子は疑いの目を向ける。

「どうして、私の名前を」

「とある事件を追っていてね。君が、その際の重要な人だとわかったから、保護しにきたんだよ。よかった。よかった。間に合って」

「そ、そうなの」

「そうですとも、このイツキに任してください」

 イツキの崩れた笑いを見ていたミスティは起き上がる。

「ありがとうございます」

「どういたしまして、まったく、こんな美少女をいじめるなんて、万死に値する」

 栗色の長い髪をして、大きな瞳をしている。端正な顔で美しい。確かに、イツキの見る目には美少女に写ったのだ。

「イツキ、どういうこと?」

 ヘスティナが、ようやく口を開いた。

「ティナとスズ。どうしたんだ。こんなところで、なんだお姫様が裏通りに興味を持ったのか」

 裏通りとは、このスラム街、最貧層の俗称として呼ばれていた。

「イツキを探してたの」

「そうか。すまんすまん。野暮用を頼まれて、忙しかったんだ。ところで、ティナとスズ。これからミスティを連れて、裏通りを出るから一緒についてきてくれ」

 イツキは路地から抜け出して、表通りに行こうとする。

「そうと問屋はおろさせねえ! おめぇも知ってると思うが、その嬢ちゃんは、こっちで始末しないといけねぇんだよ!!」

 四人を取り囲んだのは、いかにも悪そうな集団、十人だった。全員が、斧や剣、槍、短剣などの武器を持っている。

「あちゃ、やっぱり顔が割れているか」

「そりゃあ、そいつはついこないだまで、働いていた人間だ。こういう業界は、人の顔を覚えておくもんだ」

 リーダーらしき男が話す。その間も距離が詰めていく。

「ティナとスズ、さっさと終わらすぞ」

「イツキは面倒事しか持ち込まないの?」

「イツキと出会ってからは、なんだか大変なことばかりです」

 ヘスティナが剣を抜いた。そして、スズが銃を構える。

「ミスティちゃん、俺の後ろに隠れて、この2人は強いからね。ぱぱっと終わらしちゃうよ。だから、心配しない」

「は、はい」

 ミスティはイツキの後ろに隠れた。

「イツキ、私たちに押し付ける気?」

「当然だ。楽勝だろ、なんせ10人だ」

「簡単に言わないで、あとが高くつくわよ」

「大丈夫だ。依頼主がすべてどうにかしてくれるだろ」

 ヘスティナが鼻で笑った。


「お前ら、話がなげぇーんだよ。こいつら全員殺しちまえ!」

「「「「「おぉおおおーーーー」」」」」」

 十人が全員で突っ込んでくる。


「スズ、援護よろしく」

「了解です」


 効果音その他は、一切省略。


 その後、1分で戦闘は終わった。


 この時起きた出来事は、ミスティから見れば一方的だった。


「す、すごい」

「だろ、少しは信用してもらえたか?」

「はい」

 ミスティは呆然と頷くことしかできなかった。

「二人ともお疲れ様」

「楽勝よ」

「一安心です」


 四人が去った後には、倒れて山積みにされた男が十人いた。


 相手が悪かったとしか言いようがない。


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