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虹屑の戦鏡譚  作者: 山鴎 柊水
1章 王都の霧を斬り、姫様御一行の旅が始まる!?
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Nebura part 2 霧に包まれる王都


 イツキがいなくなった翌日、アイリスとスズは馬車の中にいた。外からはヘスティナが警護する。

「イツキさんとは、もう一度会いたかったのに」

 アイリスはヘスティナからイツキがいないことを聞いて、なぜか意気消沈した。

 もう一度ゆっくりと話をしたかったからだ。

「大丈夫ですよ。王都で会えると言っていましたから」

 スズは慰める。スズも、またイツキが姿を消したと聞いて焦った。

 こうした慰めの言葉は、自分を慰める意味もある。

 アイリスと共に行軍する、近衛騎士隊は、大砲から小銃まで運んでいる。さらには、火薬から弾薬まで、その荷車だけで半分以上はあった。

「それにしてもすごい銃の数」

 イツキの話題を終わりにしたいアイリスは、別の話題を振る。そうすると、スズもすぐに乗ってくる。

「これだけが王国軍の誇りですから」

 スズは皮肉のように言う。

「どういう意味?」

「王国軍は、兵力は少ないですけど、その代りに小銃と大砲を多数持つことで、これを国力としているのです。実際に、王国の中で厳重に守られている場所は、王宮より火薬庫だと言われているぐらいです」

 火薬庫、弾薬庫には、毎日百人規模の近衛騎士隊が警備している。周りには塀で囲まれており、さながら王都の中にある砦だった。

「火力が国の誇り」

「その通りです。大砲の数と、小銃の数が、国の誇りなのです。今回も反乱軍といっても農民相手にこれほどの火力は、余剰です。おそらく国力というものを見せたかったのでしょう」

 スズにしては辛口な評価で王国軍のことを言う。それもアイリスを前にして。

「王国軍の誇りがそんなことだなんて」

「これは比喩です。あくまで、そんな考えがあるかなというだけです」

 スズが慌てて誤魔化す。すでに時は遅いのだが、本人は必死だ。

「今の時代は、火器の時代なのね」

「そうですね。攻城戦なども火器によって作戦が行われます。そのせいで、防衛拠点の価値がなくなってきています」

 それを言うなら、アレンスの城壁も意味をなさないものとなってきている。石の壁があっても、大砲を一発撃てば崩れ去る。

 防衛拠点、城の価値はなくなりつつある時代であった。

「なぜ火器が発達したの?」

「それは、おそらくですけど、魔女に対抗するためでしょう」

「魔女に?」

「はい、いまから、50年前に三十年戦争があったように、いまの世界では魔女は恐怖の対象。また力の対象となっています。まだ千年以上前では、信仰の対象などで恐れられる要素はなかったのですが、駄目ですね。力を持つということは、それだけで化け物扱いです。それに特に最近では魔女にたたえるだけの、装備。これは銃火器なのですけど、これの発達によって、魔女と優勢とはいきませんが、五分五分ぐらいにまで持ってくることができるようになりました」

 銃火器の威力は、先の三十年戦争で実証されている。兵力と作戦によっては、魔女に勝つことも可能となった。

 それと共に、魔女狩りも盛んになる。魔女狩りの起源は、よくわかっていないが、かれこれ数百年もの間、魔女が迫害を受けていた時代があった。

 それは、ミュレントレス教のせいでもある。これはミュレントレスという神を崇める宗教であり、一神教である。

 この一神教は他の神を認めない、また他の神に等しい力を持つものを認めないのだ。

 魔女は、信仰の対象。神として崇められていることが多い。これは女神信仰とも言っていいほどだ。魔女は女性にしかなれない。そのために、数多くの女神像が立てられる。

 神話の時代において男性も魔法を使えたのだが、今の時代は女性のみが魔法を使える。

 各地に残されている聖女の伝説も、この女性の魔法使いによって成されていたのだ。

 排他的な一神教は、その魔女を厳しく罰した。力を持ちすぎるものを認めない。それほど、寛容ではないのだ。

 この魔女狩りによって、死んでいったものが多かった。アイリスたちが生きている時代にも多い。ましてや、その未来においても魔女狩りは沈静化しているが、細々とおこなわれていた。

「皮肉ね。魔女のせいで、時代が変わりつつあるなんて」

 アイリスは外が見えない窓を見つめた。

「時代は変わるものです」

 ビフレスト王国は、もともと一人の女王により建国された。その女王は魔女であり、騎士たちと共に、独裁者を打倒し平和な王国を作ったという伝承が残っている。

 そのために、ビフレスト王家は、代々魔女の家系である。もっとも、女性のみにしか魔女になれないのに加えて、魔女になる確率は低い。そのために、ごくまれに王家の中に魔女が現れるのだ。

「伝承の中の女王は、どんな魔法を使うんでしたっけ?」

「虹の魔法と言われていますね。なんでも、全てを繋げる架け橋だとも」

「不思議な魔法」

「不思議です。すべてを繋げる架け橋。この魔法は謎が多くて、伝承の中に記されていますが、どれも曖昧です」

「虹の魔法。どんな魔法なのでしょうか」

「私にはわかりません」

 一応、スズも魔女であった。ただし、自分でも、どんな魔法を使えるのか解っていない。これはスズの父親とイツキが、お前は魔法が使える、でも今は解らなくていい、そのうちわかるようになる。とかなんとか言って教えてもらえないのだ。

「……虹の魔法」

 アイリスは、魔法を理解していなかった。魔女はどんな存在か理解していなかった。


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