Proelium closed アレンスの戦場で騎士は舞う
この状況を変えたのは、一発の銃声だった。
銃声が聞こえると共に、傭兵が一人倒れる。
頭部を貫き、即死。
これだけ正確無比な射撃を見て誰なのかわかる。
3人に斬りかかる。後ろから斬りかかってきた傭兵は銃弾によって海の中に沈む。これにより勢いを取り戻す。
さらに、
「おい、ティナ! いつも独≪ひと≫りで突っ走って、困ったやつだな」
もう一人援軍がやってきた。
「イツキ、なんでここに?」
イツキの姿があった。ヘスティナの後ろに着く。
「心配になってきてみたら、案の定だよ。スズの掩護射撃があるから、このまま一気に行くぞ」
「言われなくても」
サンセル村で始まった剣舞の第二幕が開く。
第ニ幕ではスズの射撃も加わった。
「いつも通りで」
「いつもって、いつの話?」
「もう三年前の話か」
「三年前ね」
軽口をたたきながら、二人は進む。邪魔をする傭兵は斬り、スズに撃たれ倒れる。
人を殺す。
傭兵を殺す。
アレンス会戦という劇も終幕を迎える。
頭領にまでたどり着く。
「お前たちは化け物だ!! この俺様が成敗してやる!」
斧をヘスティナに向かって振り下ろす。
「ありゃ、俺たちが悪者か」
イツキが斧を横から剣で当てて、衝撃により斧の軌道は外れて地面に突き刺さる。
「イツキにはお似合いね」
容赦なくヘスティナは剣を振り下ろす。頭領は斬られ血の海に体を沈めた。
「これで姫様にティナの本性がばれたな」
「本性? ここは戦場よ。斬るか斬られるか。ただそれだけ」
「そうだな」
戦が終わりアイリスの元に戻ろうとしたヘスティナたちだったが、
「まだまだ!! 最後に!」
傭兵の頭領はまだ生きていた。腰に差していた短剣を抜き去り、ヘスティナに突進していき、
「うっ!」
このうめき声を最後に倒れて行った。一発の銃弾が心臓を抉った。
「スズに感謝しておかないとな」
「スズこそ、戦場になると性格変わるんじゃない?」
「スズはスズなりに頑張ってるだけだ」
「これで終わりね」
「終了だ」
2人は歩いて血の海から抜け出す。すでに戦闘の大半は終了していた。
最後まで抵抗した傭兵は容赦なく、海の中に仲間入りしていった。
「ひとつだけ、やっぱり包囲戦をするなと言っておかないとな」
「それは、本当に同意」
もともと包囲戦をするつもりはなく、逃げ道を作って逃げさせるつもりが、近衛騎士隊の勢いが勝ってしまい、結局は包囲することになってしまった。
少し歩くと、馬が3頭、そのうちの1頭には銃を持ったスズが乗っていた。
「お疲れ様です。二人とも」
「ありがとうスズ」
「お前こそ、銃の腕あがったな」
馬に乗り、3人はアイリスの元に戻った。
結局のところ、イツキが作戦を考え、スズが銃を撃ち、ヘスティナが斬りかかる。
この3人だけで2千の反乱兵を恐怖の底に叩きつけたと言っても過言ではなかった。
ただし、これは王国軍の全部の勝利であり、しいてはアイリス指揮の元の勝利である。
このことは記録に残るだろう。
アイリスを総指揮官とした王国軍は、反乱軍相手に圧勝をした。
2千の敵に、わずか4百で挑み、戦いに勝利した。
この事実は後世にまで残るだろう。
アレンス会戦の死傷者は王国軍が36名。反乱軍が多数。この数字を見ただけでも、圧勝したことがわかる。
アイリスが歴史の表舞台に立った瞬間であった。
表舞台に立ったアイリスは、まだこの時は、表舞台に立つという重大な意味に気づいてすらいなかった。
アレンス会戦は、こうして幕を閉じる。




