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虹屑の戦鏡譚  作者: 山鴎 柊水
序章 出会いと再開の地、姫様御一行の旅は始まってない!?
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Proelium part 5 アレンスの戦場で騎士は舞う


 会戦は、各所で行われる。ひとまずスズがいた左翼の戦いは終わる。

 続いて始まったのが右翼の戦いである。

 ここは鉄砲を撃つが当たらず、勢いは止まらない。百メートル以内に入ってきたところで、命中し始めるが勢いというのは恐ろしい。止まることを知らない。


 この勢いを完全に破ったのが、ヘスティナたち近衛騎士隊である。

 全員が騎乗した状態で丘の後ろに隠れていた。時期を見て姿を現し横から襲撃する。

「突撃!」

 まず竜騎隊による鉄砲の一斉射撃から火ぶたが切って落とされる。

 横から突撃されたために、対応に遅れる。ひたすら前に進んでいたのに、急に横から攻撃されては、勢いが余って止まることができない。


 先頭を走るものと、後ろからついていくものに二分される。先頭を走っていた反乱兵は、射撃により数を減らし最後たどり着いたとしても、数人になっているため、アレンス守備隊の大人数に包囲され見るも無残に命を散らす。


 後方にいたものは、近衛騎士隊の槍により串刺しになる。

「各隊陣形を崩すな、集団でことをあたれ!」

 ヘスティナが徹底して言う集団戦。これにより、戦闘効率は格段に上がる。烏合の衆でしかない反乱軍に集団戦は高度過ぎた。

 知らぬ間に騎兵に包囲されて殺されていく。

 こちらが逆に包囲される前に離脱して、またあぶりだした反乱兵を包囲する。これを繰り返していた。

 何回もやっていると戦場が膠着こうちゃく状態に陥る。

 ここからは、馬に乗っていると動きが遅くなる。

 騎兵の最大の利点は機動力と突破力にある。反対に動きが止まってしまうと大きな的となってしまう。


「白兵戦準備!」

 ヘスティナ含めて馬から降りる。馬はある程度飼い慣らしているため、戦場から先ほどまで隠れていた場所まで戻る。馬を下りた後は白兵戦が開始された。

「陣形崩さず、焦らず」

 剣を持つ近衛騎士隊が切り込んでいく。その後ろには鉄砲を持った兵士が付いていき、確実に葬っていく。ここまでくると一種の作業になる。

「た、たすけてくれ!」

「いのちだけは!」

 このあたりから命乞いをする者が出ていくる。

 それを殺さず「とっとと走って逃げろ! さもないと殺すぞ!」と近衛は低い声で脅す。これで、命乞いをする反乱兵は逃げていく。

 逃げる行為は広がる。一人が逃げはじめると、俺も俺もと増えていく。

 無駄な戦闘をせずに済む。


「くそっ! これだから農民は役に立たないな!!」

 悪態をついているのは、薄汚い防具で身をまとった者たちの集団だ。動きは戦慣れをしている。

「ヘスティナ隊長、あそこにいる隊が苦戦しています!」

 早急に報告が届く。傭兵集団相手に苦戦を強いられる。

「負傷者を連れて撤退。今すぐ新しい隊を投入させて」

「了解です」

 傭兵集団が約2百いる。逃げる場所はあるはずだが、その場所に留まり戦う。

 傭兵集団と言っても、傭兵たちの集まりである。もちろん、傭兵は個別で活動しているものもいれば、集団単位で活動しているものもいる。

 今戦っている集団は、まとまりがあった。

「半包囲円で徐々に押し切れ」

 ヘスティナが命令を出し近衛騎士隊の陣形も直ちに変える。

「お前ら! これで勝ったら、俺たちは一生遊んで暮らせるぞ!!」

 傭兵集団の頭領らしき人物が雄叫びを上げる。


 これだけ士気が高かったのに加えて、近衛騎士隊はひとつ失敗をする。


「包囲せずに攻撃。包囲を解いて!」

 近衛騎士隊の勢いは止まらず、勢い余って傭兵集団を包囲してしまった。

 ヘスティナが包囲を解かせるようにするが、時が遅かった。


 残滅戦。


 傭兵集団が消滅するか、近衛騎士隊が撤退するか、二つに一つだ。

「おやぶん! 逃げ道がありません!!」

「脅えるな! 殺せ! 殺せ! 後がないなら、殺して開けるのみだ!」


「「「「おぉーーーーーー!!!!」」」」


 退却もできない傭兵集団は死ぬ覚悟で攻撃をしてくる。

 勢いが増す。近衛騎士隊が飲まれそうになる。実際に近衛の兵士の死体がいくつか転がっていた。

「ぐはははーーーー! かかってこい!!」

 傭兵集団の頭領は斧を両手で持ち振り回す。その一撃は重く。剣で防ごうとしたら、剣ごと体を持ってかれ、吹き飛ばされてしまう。


「だから、包囲したら駄目なのに」

 ヘスティナが初めて文句を言った。近衛の屍を超え敵に向かって突入する。

「隊長! 危ないです!!」

 その後ろから近衛の兵士が付いてくる。

 ヘスティナは剣を片手に斬りかかる。動きに無駄がない。

「こういうのは、狙う人物は一人」

 斧を振り回す頭領がいる場所に向かって走る。その間、斬りかかってくる反乱兵がいたが、一撃で沈黙させた。

 殺すのに躊躇はない。この点、スズとは違った。白兵戦が中心なヘスティナにとって、命の奪い合いは近い範囲で起こる。

「隊長、突っ込みすぎです」

 兵士が付いていくが、途中で傭兵に阻まれてヘスティナだけが突出していた。

「大丈夫」


 ヘスティナはあと少しでたどり着くところで傭兵に包囲されてしまう。

「ひとりで来たことに勇気があったが、ばかだな!」

 頭領は大声で話す。本当のことで、こちらが包囲戦をしていたのに、ヘスティナは逆に包囲されてしまった。

 その後、4人同時に斬りかかってきたときなど、逐一対処していくが、限界もある。

 斬っても斬っても切がなかった。


「くっ」

 焦燥の表情を見せた。傭兵が斬りかかると受け止めることはせず、基本受け流す。そのまま剣を突き刺し、素早く抜き去って二人目に斬りかかる。

 持久戦だった。

 さらに、恐ろしいほどヘスティナは耐えた。まわりは血の海が広がる。

 死体で足がとられそうになるほどだ。


「はぁ、はぁ、はぁ」

 体が酸素を求めていた。連続での攻撃は集中力を多大に消費していた。

 周りには敵だらけ、血の海の中、独りで戦っているヘスティナ。

 剣は錆びつき刃こぼれをしてしまったために、敵の剣を奪って戦いを続行させる。


 意識は朦朧もうろうとしてくる。


 目の焦点が合っていない。敵が霞む。ほとんど感覚で斬っている。


 感覚を極限まで研ぎ澄ませた。


 絶体絶命の状況でもあった。


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