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虹屑の戦鏡譚  作者: 山鴎 柊水
序章 出会いと再開の地、姫様御一行の旅は始まってない!?
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Proelium part 4 アレンスの戦場で騎士は舞う


 アレンス会戦の指揮官であったアイリスは、驚くことしかできない。

「す、すごい」

 会戦の一部始終を丘の上から見ていた。

 高いところから見ていた戦いの様子は、もはや劇なのではないかと思うほど、現実感がなかった。

 初めは、反乱軍が押し寄せてくる。鉄砲で撃ち始めた。すぐに、左側が銃弾の嵐で逃げ散る。右側はヘスティナ率いる近衛騎士によって追い散らされていた。

 何もかも決まったことのようにして、戦いは終わった。

 劇が閉じるように、会戦は終わる。

「どうだった、指揮官は?」

 戦場で戦っていたイツキから話しかけられても、これもまた現実感がない。

「私何もしてない」

 その通りで、眺めていただけだ。勝手に会戦が始まり、勝手に終わった。何一つ命令を下していない。

「何もしなくていいさ」

「そんなことでいいの?」

「指揮官というのは、いざとなったときに必要なんだ」

「そんなもの?」

「そんなもんだ」

 アイリスは呆然とする。イツキは平然としていた。

「不思議なことがひとつ。左側の銃撃は、なぜ命中率が高いの?」

 マスケット銃の射程距離が百メートル以下のことを知っていたアイリスは疑問に思った。

「簡単だよ。腕のいい銃士を一人いるだけでいいんだ」

「そんな銃の使い手がいるんですか?」

「誰って、お前の知っている奴だよ。なんだ教えてないのか」

「だれ?」

「スズだよ。あいつの銃の腕は天下一だ」

「スズが!?」

 アイリスはスズが銃を扱えることに驚き、その不恰好さを想像して驚いたのだった。





 アレンス会戦が始まるとき、反乱軍から見て右翼。こちらの王国軍からは左翼に位置する部隊には、スズがいた。

 スズは、4丁の銃を配下の兵士に渡し、それに弾薬を装填させる。

 まず7百メートルで撃つ。撃った銃は兵士が素早く装填、その間、もう1丁の銃を構える。

 地面に寝そべった。伏射の体制で照準を付ける。

 銃弾というのは、まっすぐ跳ばない。弓と同じで山なりに跳んでいくのだ。そのために、照準を合わせるのから遥か上に向かって撃たなければ当たらない。距離が近ければ、ある程度まっすぐ跳ぶが、遠距離になると違う。

 それに、銃ごとによって弾の出方や引き金の重さなどの癖が違う。それは銃が手作業で作られるためである。

 スズは銃の癖を知るために、あえて当たらない距離から撃ちだしたのだ。

 それに加え、王国軍が臆病風に吹かれているという印象を持たせる効果もあり、一石二鳥なのだ。

 スズは、わずか二発の銃弾を撃ちだしただけで、銃の癖を理解した。


 4丁の銃を入れ替えて撃ちだす。番号決めておき、癖を覚えておく。

 撃ち終わった銃は、後ろに控えている兵士が装填する。それを繰り返すことで、銃の砲身が熱により曲がるまで、連射のようなことが可能だ。


 命中率が向上する理由はほかにある。百メートルごとに旗が置かれている。

「風は南西に微弱、距離は2百。標的は、先頭を走っている足」

 旗がなびくことで風を読み取ったのだ。これにより射線が確定した。

 狙う場所も、腕や足や胴体など、範囲が大きい。それは、殺すことを前提にしていないからだ。とにかく負傷させて足止めをする。先頭が倒れると後続は遅くなり、ゆっくりとなる。

 そのために、さらに左右広がって撃ち続け、間隔をあけて狙撃をした。

 この銃弾は2百メートルあたりから吸い込まれるようにして、当たりだす。

 それ以前もあたってはいるが、偶然の要素が大きい。

 2百メートルからは確実だ。

 そして、百メートル以内に侵入するとアレンス守備隊の本領を発揮する。

 有効射程範囲内だと、兵士でも訓練をして、ある程度の腕を磨けばかすり傷程度に当たりだす。

 今回の作戦では、完全に敵を殺す必要はないために、胴体などの的が大きいところに照準を合わせて撃つ。

 反乱軍も鉄砲を持っているが、走りながら歩きながら、さらには撃たれながらでは当たるものも当たらない。完全に意味がなかった。


 スズ一人の銃で、反乱軍の半数は崩壊していった。

 銃の腕もさることながら相手に与えた恐怖も大きい。

 叫び声は広がる。

 たとえ小さな声でも叫ぶという行為は目立つのだ。それを左右に渡って銃弾で撃たれ続けたら我慢もできない。


 遠い距離から銃弾を放っているため、スズは相手の顔を見ていない。


 標準をすぐ変えて速射しているため、スズは相手のその後を見ていない。


 もしかしたら、想像はできているかもしれない。その後倒れたら、後ろから来た

人に踏まれて死ぬ運命を想像しているかもしれない。

 さらに、反乱兵が逃げている最中も銃撃をやめなかった。


 スズの銃撃は、高熱により砲身が駄目になったり、火薬の残りすすがたまり撃てなくなったりしたところで止んだ。


 スズは何人殺したのか覚えていない。

 人が死んだところは見ていない。踏まれて死んだ人がいるだろう。出血がひどく死んだ人がいるだろう。当たり所が悪く即死した人がいるだろう。

 すべて想像だ。見ていたわけではない。

 無慈悲。

 スズは鉄砲を使うことに抵抗はない。銃弾を放つことに抵抗はない。

 ただし人を殺すのには抵抗を覚えてしまう。


「終わりました」

 スズは長時間伏せていたために凝り固まった全身をゆっくりとほぐす。それほど長い間伏せて銃撃を浴びせていた。

 そのまま自分が撃った戦場を後ろにアイリスとイツキの元に歩き出した

「あとは、ティナの出番です」

 スズは、もうひとつの戦場を見つめていた。そこはヘスティナが戦っているであろう戦場に思いをはせていた。


 もうすでに、スズの役目は終わっていた。


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