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虹屑の戦鏡譚  作者: 山鴎 柊水
序章 出会いと再開の地、姫様御一行の旅は始まってない!?
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Proelium part 3 アレンスの戦場で騎士は舞う

 これはケイリーが見ても異様な光景だった。


 反乱軍2千は、こうして動き出す。王国軍に向かって。

 距離が7百メートルとなったところで、王国軍が銃撃を開始した。

 このころのマスケット銃の射程距離がせいぜい百メートルである。その七倍以上も離れているために、当たらないのは当然である。それでも王国軍は発砲した。

「おい、やつら、本当に臆病者だ!!! ひねりつぶせ!」

「当たるわけがない! すすめ! すすめ!」

 2回目の銃撃音が響き渡るが進む。一発も当たっていない。

 それを見た反乱軍は相手が焦って銃撃を加えてきたと思った。


「あんなやつら、雑魚だ! 行くぞ!!」

「勝てる!」

「蹴散らせ!」

「王国軍なんて弱い!」

 この一種の不思議な高揚感は全軍を覆い尽くすのに時間はかからなかった。

 隊列なんてなく、皆が勝手に走り出している。横一列に広がる王国軍に向かう。


 3,4,5発と銃撃音が響く。距離は4百メートル。

 この時から、かすかに当たり始める。特に反乱軍の右翼を中心に命中しだす。

 かすり傷程度だが、足を撃ち抜かれたものは転び、後ろから来たやつに踏まれ、悲鳴を上げる。


 6,7,8発と銃撃音が響く。距離は2百メートル。

 このあたりから命中率が格段上がる。足に当たったものは悲鳴を上げながら、倒れ後ろから来たやつらに踏まれ圧死する。


 それでも異様な空気に包まれた反乱軍は足を止めない。


 この2百メートルから、百メートルまでの間に地獄を経験したのだ。


 特に右翼はひどい状況だった。魔法のごとく銃弾が、次々と命中して、一番前を走るやつの足に当たる。その悲鳴が各地で上がった。

 マスケット銃の射程距離はせいぜい百メートルが限界にも関わらず2百メートル以下で命中しだした。


 不思議な光景がもう一つあったのに、反乱軍は気づかなかった。

 それは、3百メートル付近から、右翼には旗が地面に差してあった。それが風で揺れていたのだ。

冷静な判断力を失った反乱軍は、そんなことにも気づかない。2百メートルに差し掛かったあたりにも、旗があることに、風で揺れ動いていることに。

 旗を踏み倒しながら、また避けながら進んでいる。

 反乱兵は次々と銃弾の餌食となった。乱れていた隊列は、さらに乱れる。足を撃たれたり、腕を撃たれたりした反乱兵が倒れうめき声をあげている。


 この悲鳴が右翼を中心に多くなる。


 ケイリーは中央部の後ろにいた。右側が妙に騒がしい。悲鳴があがる。

 声が響きあがる。叫び声だ。

「腕が!!!」

「あ、あし……」

「ふ、ふむな!」

「た、たすけてくれ」

「踏むな!」

「俺はここにい……」

「潰すな! 死にたくない!」

「こ、ころすな!」

「足に銃弾が!」

 どれも悲壮な声だった。

 一部踏みつぶされた者の声も消えるが、ケイリーには想像ができない。倒れて味方に踏まれて死んでいく姿を。


 右翼の反乱軍は百メートルを到達したあたりで、さらに悲鳴を上げる。いままで被害が少ない左翼も同じだった。

 それも当然だ、ようやく有効射程距離に入ったために、命中率が上がりだしたのだ。

 この百メートルにあった旗は倒されることがなかった。まずは右翼が崩壊した。

 異様な高揚感が感染したように、この異様な恐怖感もまた感染したのだ。

 右翼は、すでに戦う意思がなくなった。完全に崩壊した。


 恐怖によって逃げ出す。


 左翼は何とか持っていたが、街道から突如現れた騎馬隊の襲撃に瓦解する。

 左翼は、騎馬隊相手に戦うが、ほとんどの者は武器を捨てて逃げる。


「おい、逃げるな! 戦え! 戦え!」

 ケイリーが叫ぶが、誰も命令を聞かない。


「ケイリーやばいぜ。俺たちも逃げようぜ」

 ケイリーの友までも、恐怖に駆られて逃げる。

「死にたくない。俺は先に逃げるぞ!」

「お、おれも」

「おい待て!」

 静止の声を聴かずに逃げ出す。

 ケイリーは恐怖の津波に襲われ逃げる反乱軍を見つめていた。そして、ケイリー自身も走り出した。

「なんでだ、なんでだ。勝っていたのに。勝っていたのに」

 最後まで残っていた左翼の傭兵集団が逃げたのを最後に会戦は終わった。

 すべて突然の出来事だった。突然始まり、突然終わった。ケイリーは手も足も出せなかった。それは、反乱軍全員がそうだった。何もできなかった。



 反乱軍2千は、たった3人の戦術によって敗北した事実に誰も気付かない。


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