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虹屑の戦鏡譚  作者: 山鴎 柊水
序章 出会いと再開の地、姫様御一行の旅は始まってない!?
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Concilio closed 将の役割と資質


「明日の朝、全軍を率いて、この陣に入ればいいの?」

 アイリスが、ひとつひとつ確認をする。軍人ではないため、専門知識はないが、自分の行動を頭の中に入れる。

「そうだ。そして、実際の現場指揮は、近衛はティナ。アレンス守備隊にアイリスを。補佐として俺がつく」

「それだと、スズは?」

「それは、落ち着け、順序を追って説明してやるよ」

 日が沈んだ後も作戦は念密に練られる。三姉妹はどこかに行ってしまったが、4人は互いの行動を話し合う。作戦の基盤をイツキが考えだし、それにヘスティナとスズが補足をしていく。連携のとれた動きだ。

 誰が、どの役に徹すればいいかわかっている。その輪に加われないアイリスは遠くから眺めているような気分になったのだ。

 アイリスは、ただ確認の頷きをするだけ。他は何もわからない。本当に最善の作戦なのかもわからない。良いと思ったことに頷いているだけだ。


 やがて作戦の確認を終わり、詰所の上階にある部屋に、簡易ベットが設けられている。王族が止まるにはお粗末なベットだが、明日の明朝出発のため、詰所で泊まるのが時間の無駄もなくアイリスが、これを許可した。

「アイリス様、明朝出発なので、お早めにお休みください」

 スズは一言声を掛ける。戦の前といえども、侍女の役割を忘れていない。冷静なままだ。

「明日は、私たち近衛にお任せください」

 ヘスティナが意気揚々と詰所を出ていく。これから武具の確認に出かけて行く。


 イツキは無言で立ち上がり出て行こうとしたために、アイリスは、なぜだが呼び止めた。

「あの……」

「ん?」

 相変わらず姫に対して態度をまったく変えない。それが彼の信念と言わんばかりに崩れた調子のままだ。

「明日、将としての態度で戦に望めるの?」

 それは自分に対する問いかけでもあった。

 そんなアイリスの問いにイツキは笑いながら答えた。

「大丈夫だ。存分に怖がっちまえ。どんなに怖がっても、スズとティナがどうにかしてくれるよ」

 この言葉でスズとヘスティナの頼もしい表情が思い浮かぶ。

「そんな指揮官が怖がってるなんて話聞いたことない」

「それは当然だ。だれも話したがらないさ、怖いだなんて。そんなものは、自分の中で押し殺してしまうんだ。戦の前でもそうだ。大丈夫だと恐怖を押し殺すだけだ。怖がっても何とかなるだろ。指揮する者は、兵の中心にいるだけでいいんだよ。あとは命令を、確実に下して、責任を取れば」

「責任を取るって」

「そうだな。責任を取るぐらいだな。なんせ、兵の命を預かってるんだからな。お前の采配しだいで、兵は死ぬし、生きる。それもすべて指揮官の務めだ」

「責任を持つ」

 今まで姫として責務を果たしてきた。その重圧とは、また違った種のものだ。現実味がまったくない。自分の采配で、人が死ぬ。人が傷つく。そんな現実は解らない。

「でも、人が死ぬだなんてわからない」

「当然だ。戦場に出たことないやつが、いくら言ったって、身も蓋もないだけだ。わからなくて当然だ。ただ、それを当然だと思うやつと、思ないやつの差は大きい」

 人が死ぬ。この想像は簡単にできるが、どこか現実味のない。

「俺から言うことは何もないさ。あとはお前が、戦場をどう感じるかだ。それじゃあ、おやすみ」

 まだまだ若そうなイツキは、どこか歴戦の勇士のような哀愁が漂っていた。

「はい、おやすみなさい」

 この言葉しかアイリスは言えなかった。



 何がともあれ、時間は進む。この4人は戦へと導かれていったのだ。









 ここはひとつ王国が残した公式の文書を引用してみよう。


 アレンス会戦

 精霊歴1683年 アレンス郊外南西に約30キロに位置する場所

 

 ビフレスト王国軍 423人

 アレンス守備隊 237人

 近衛騎士隊 186人

 総指揮官兼アレンス守備隊隊長 アイリス・ビフトレス

 補佐官 スズ・サィカ

 近衛騎士隊隊長 ヘスティナ・コンストレ

 

 反乱軍 約2000人

 反乱軍総指揮官 ケイリー



 これが公式文書に残るアレンス会戦の概要である。

 どこにもイツキの名は載っていなかった。


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