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虹屑の戦鏡譚  作者: 山鴎 柊水
序章 出会いと再開の地、姫様御一行の旅は始まってない!?
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Concilio part 2 将の役割と資質


 決断してからのアイリスの動きは早かった。すぐにベストパルチッカ卿他重要な人を迎賓館に招集して会議の場となった。

 アイリスの後ろには、スズ、ヘスティナ、イツキが控えている。

「それで、ベストパルチッカ卿。いま情報が入ってきたところなのですが、農民が中心の反乱軍が接近しているとのこと、どうするおつもりなのですか?」

 アイリスの口調は砕けていない。威厳があり聞いている者の耳に透き通るように聞こえる。ここにいるのは、一国の姫だった。

「そ、それは、こちらでも先ほど入ってきた情報で、急ぎ兵には籠城の準備をさせているところです」

 ベストパルチッカ卿は冷や汗を、高価な生糸のハンカチでふき取る。

「籠城の準備ですか?」

「そうです。今の兵力では、せいぜい400そこらしかいません。敵は2千とこちらには勝ち目がないので、籠城するしかないです。それで、籠城をして日数を稼ぎ、援軍を来るのを待ちます」

 自信満々に答えるベストパルチッカ卿。

 たしかに、このアレンスは、王都の最終防衛拠点のひとつであり、堅牢な城である。籠城となったら、そうそう落ちることはない。

 この絶対的な自信があり、籠城を唱えている。


 そこに異議を唱えたのは、イツキではなくヘスティナだった。

「籠城は反対です。敵は農民兵です。こちらには、姫の護衛として近衛が付いています」

 ヘスティナには、近衛に対する絶大な信頼があった。スズが、さらに付け加える。

「今の季節は苗を植え終わった時期です。そんな時期に籠城をして、土壌を表せれば、今年の収穫は期待できません。籠城をして荒らされる前に、間にある丘あたりで対峙するのが最適かと進言します」

 ヘスティナとスズの提案に、アイリスは驚く。一介の姫付きの従者に護衛の近衛騎士が口を挟んだのだ。

「何を失礼なやつらめ! このベストパルチッカ卿に口答えするのか!」

 案の定、豊かな頬が上下に揺れながら怒る。

「まぁまぁ、静まってください。彼女らは近衛です。それに聞くに王立士官学校を卒業したもの、戦場において一日のおさではありませんか」

 ベストパルチッカ卿をなだめるかのように控えていた貴族の部下が進言した。

「たしかに、戦場の心得を知っているかもしれないが、そんな若いやつらに任せられるか。もし負けて見ろ。国中の恥だ。何もかもが終わってしまうではないか!!」

 発狂気味に言う。もう冷静ではいられないのであろう。貴族のプライドというのが邪魔をする。これは仕方のないことだ。

「籠城だ。今すぐ、門を閉じ守りを固めろ! 農民どもにアレンスの堅牢さを思い知らせてやれ!」

 貴族の発言は、王国内において強い。領地を預かっている身からしてみれば、権限がある。


 そんな喚き散らしているだけの貴族を横目にイツキは、アイリスに耳打ちをする。

「アイリス」

「なんですか?」

 小声で話しかける。姫に向かって呼び捨てとは、もし誰かが聞いていたら、そく牢獄行きだろう。アイリスは気にした様子はない。

「たぶんだけどな。負けて責任を取ることが怖いんだ。だから、籠城という確実な策で推し進めようとする。あとのことを考えずにな。あとのことを考えると、野戦をして農作物を守るほうが得策だ。だけど、自信がないんだ野戦で勝つ。当然、4百と2千だ。5倍の敵と相対するのは普通を考えれば厳しいだろうな。でも、ここにはスズとティナがいる。これで勝率はほぼ8割だ。それに加えて俺がいる。これで勝率は10割だ。だから、姫様。あんたが責任を持て、あんたが俺たちを信じれば、この戦いは勝てる」

 イツキは自信満々に勝てると断言した。それも、自分がいれば勝率が10割になるとも豪語する。アイリスは目を見開いて驚く。

「信じればいいのですね」

「そうだ。俺たちを信じろ。だけど、お前が責任をすべて持て」

 少し無責任なことだと感じた。それは当然で、作戦はすべて任せてもらってもいいが、責任は自分が持てと言っているのだ。

「私が責任を持つのですか」

「そうだ。全軍を指揮する責任だ。それを持つだけの素質を姫という身分はある」

「わかりました」

 わかったとアイリスは言ってみたものの、責任を持つことなどわからなかった。今まで軍を指揮したことなどない。だけれども、イツキがいう事を信じることにした。それ以上に、スズとヘスティナを信頼していたのだ。



 アイリスはベストパルチッカ卿のほうに体を向け直し、宣言する。

「わかりました。ベストパルチッカ卿。わたしに全軍の指揮権をお譲りください。そうすれば、私に責任が及びます。このビフレスト王国の王妃アイリス・ビフレストが」

「そ、そんな、姫様にお任せするなど、できません」

「大丈夫です。私が姫として、王国の一姫として全責任を持ちます。私に、この場を借りて全軍の指揮権を譲ってください」

 アイリスはお願いの形式でいっているが、実質的に命令である。

 この王国という体制上、王家の言い分が絶対である。たとえ王様でなくても、王家の発言は、それほど重い。


 アイリスは命令する。


「わたしが全軍の指揮権を持ちます」


 この時、アイリスは『責任』という言葉の意味をわずかにだけ理解した。ただし、それは、ほんの一部だという事には気付いていない。


「はぁぁはぁぁーーーーー」

 貴族たちはひれ伏すしかない。これで、アレンスの運命は、全てビフレスト王国の姫アイリスに託すことになった。


 アイリスは、アレンスの指揮権を持つことになった。それが、イツキの言葉があったことなど関係ない。

 アイリスは責任を持った。何事にも変えようのない責任が付いて回ることとなった。

 アイリスに指揮権が割譲されたことにより、アレンス防衛隊の2百と護衛のための近衛騎士2百は、アイリスの指揮下に入った。


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