Concilio part 1 将の役割と資質
その後、イツキたちは合流することが出来た。そこで、アリイスとスズは2,3語会話を交わしただけで、元通りのようになった。
「申し訳ございません。アイリス様」
「スズ、気にしないで、私のほうこそ悪かったから」
そんな場面を見ていたイツキは感慨深い表情を見せながら、
「いやいや、いい雰囲気だな。スズも成長して、嬉しいよ。それに加えて、ティナは何も変わってないな」
「それはどういう意味?」
和やかに仲直りが進んでいるアイリスとスズを側ら、ティナはイツキを睨む。
「3年で何一つ変わってないな」
「それは、悪い意味? 良い意味?」
「両方だよ」
イツキは、そう言いながら、ティナの成長していない小ぶりな胸元を覗き見る。
「どこ見ているの?」
「それはだな、成長していな……」
「何が成長していないの?」
「えっと、身長だな」
160前半の身長は変わりなく、数年経ったからと言って、体つきは変わらない。これからもう少し大人の体つきになるのではと、とりあえず希望を持つことにしたイツキであった。
ちなみに、身長はスズが一番小さく、アイリス、ティナと並ぶ。小さいと言ってもスズは150後半なために、3人とも160センチ前後の身長である。
「それはよかった。あと少しで、頭が飛んだていたわ」
「それは一安心だ」
そんな軽口を言いあっている間に、スズとアイリスは、こちらの会話に参加してくる。もちろん、自己紹介は先ほど済ませてある。
「ティナが楽しそうに話している。珍しい」
「アイリス様、そんなことはありません。私は嫌々、こいつの話に付き合っただけです」
「ひどい言いわれようだな。俺」
「当然よ」
おどけ笑うイツキに、文句を言うティナ。この光景を見ただけで、なにやら安心感というものが漂う。
「やっぱり仲が良いのね。うらやましい」
「それでは、お姫様も、この輪に加わればいいだけのこと」
アイリスの言葉に素早く反応して、わざとらしく首を垂れるイツキ。
「おにぃ……イツキは、調子が良いです」
スズは、ため息をつく。この性格は昔から変わりようがなかった。むしろ、スズからしてみれば、さらに磨きがかかったのではないかと思わせんばかりの光景だ。
「それで、イツキさんとティナは急いで、どうしたの? たしか、合流できるのは、もう少しかかるものだと思ったのだけれど」
この鋭い言葉にティナは顔を引き締める。緊張感が保ち出る。その代りイツキは、いつものままだ。空気が緩み切っていた。
「アイリス様、それが反乱軍が、こちらに迫ってきています。早く、ここを脱出するか。対策を考えないと」
4人は、一度アイリスたちが宿泊していた迎賓館の一室に集まっている。そこには4人以外誰もない。最初は、イツキが入ることを警護のものが躊躇していたが、スズとヘスティナ、それにアイリスの口添えがあり、通ることが出来た。
「反乱軍が? たしか、それを鎮圧しにティナは行っていたのよね?」
「はい、ですが、運悪く逃げられた後でして、その逃げた先がアレンス。アイリス様のいる場所だったのです」
「私がいることがわかって?」
「いや、これは王室内で極秘裏に進めていたので、それは考えにくいです」
「そうか、結構情報は透け透けだったな。この俺でも手に入れることができる情報だからな。アレンスにお姫様がいるっていうことは、それに、ここからは推測だけどな。俺に隠れて、こそこそと不自然な動きをしていたんだよ。だから、王国内の者か、もしくは他国の者が、たぶらかしたんじゃないか」
この王国。ビフレスト王国は内陸部に位置する自然に囲まれた地である。その分、国境面する他国は多い。北に位置するレクタリス帝国を初め、大小さまざまな国が国境沿いに跋扈する。
「それだと、他国は何が狙いで?」
アイリスが質問する。一応王女の教育として歴史から地理、経済の動きまで学んでいるが、その詳しい事情は知らなかった。
「王国は、現状では貴族の独断が多くなり、王室の力が弱まりつつある。ようするに、不安定な状態にあるんだ。だから、他国からして見れば、ある程度歴史のある王国を狙うには、外から攻めるのではなく、内から攻めるのが最適だ。貴族なんて、金と名誉と領土さえあれば、プライドは保つからな」
「なるほど、そういうこと。それが今回の反乱をうまく利用された訳。そう考えると」
アイリスが思考する。若干16歳とはいえ国の上を立つものとして思考する。
イツキはその様子を見て感心した。スズもヘスティナも、ある程度共通認識として一致しているのは表情を見ればわかった。
「一気に、きな臭くなるな。まったく俺が組織した反乱軍なのに、いいように使われて」
イツキは軽く笑いながら、結構衝撃的な発言をしたのだ。今の今までヘスティナが黙っていたことなのに。
「イツキさんが、反乱軍を組織した?」
アイリスの頭の上にはクエスチョンマークが飛び交っている。スズは納得したような納得していないような感じを。ヘスティナは頭を抱えている。
「あれ言ってなかったか。そうだ。俺が、せっかく作って王国軍にまで勝たせてやったのに。あいつら調子に乗って、誰かの甘言にでもかかったんだな」
「それは、イツキに従うのに嫌気が差したんじゃないの」
「ひどい言い方をするなティナ。待つことも戦の一つなのに。あいつら我慢ができなかっただけだろ。その分、鍛えられて教育を受けている軍はいいよな。反乱軍は所詮農民たちの集まりだったということだけだろ」
「初戦は、イツキさんが指揮する農民の軍隊で、王国軍に圧勝したということ?」
「そうですよ。お姫様」
いとも簡単に言うイツキ。この時点で、アイリスはイツキの人物評価を付けにくい段階に来ている。イツキという人物を捉えることが難しかった。
「状況をまとめると、反乱軍、大半が農民の軍隊が接近中ということ。さらに裏には何者かがいる可能性があるということ、これでいい?」
「はい、ですが後者は、あくまで推測の域から脱していません。ですので、今後の指針を決める必要があります」
今まで口を挟んでいなかったスズが言う。冷静なものいいだ。
「ベストパルチッカ卿を問い詰めて、対策を練らないと」




