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Ⅴ章:裏の首謀者

「遅れた」

「別に構いません。事情は聞いています」

 長いテーブルの上席に座るシャロームが厳しい顔をしていた。

 その側面には国の代表が座っている。

 王女から向かって右側に大臣たち、そして左側に勇者が座っていた。

「つかの間の休みは満喫できましたか?」

「おかげさまで」

 ジャックからの言葉におどけた感じで答え、真架は自分の席に座る。

「それでは会議を始めたいと思います」 

 真架が席に着くと同時に、ロフェルの言葉で会議を始める。

「それでは光希さん、お願いします」

「はいよ~」

 ロフェルから指名された光希は起立し、起きたことの簡単な説明をする。

「まずはそこまで気を張らないでください。今回の動きはオレの予想通り……むしろ動いてくれなかったらどうしようかと思ったぐらいだよ」

「いいから説明しろ」

「分かったよ。今回起きたことを簡単に言うと、フィレツェ大国領一部返還という要求が来ただけなんだ」

「それだけなのですか?」

「うん。でも―――」

「三国から要求されたのか?」

「ご明察。オレと真架くんと彩羽ちゃんしか解らないだろうけど、よく聞く『三国干渉』だよ。これを見てもらおうか」

 光希はシャロームと反対側に置いてあった特大映像球の前に立ち、そして映像球に地図を映し出した。

「これは大陸でね。名前はムータリオ大陸らしい」

 ムータリオ大陸の形を表現するなら巨大なドーナツ状、滋賀県を大陸サイズにしたもので、大陸の中央に巨大な湖がある。

 光希はその説明を真架たち勇者にしてから、少し拡大した。

「これがエルレラン王国とその周囲の国の拡大図だよ」

 拡大図が映し出される。エルレラン王国が緑で塗られ、そのすぐ北隣に青・黄・茶・橙の国があり、そのさらに北に行ったところに赤に塗られた大国があった。

「ちなみにここが、この前攻めてきたフィレツェ大国」

 光希が指したのはエルレラン王国の北右の黄色で塗られた国。

 国土の大きさとしてはエルレラン王国の四分の一程度。だが、その大きさの国が4つ連なっているため合計としてエルレラン王国と同じぐらいになっている。

「返還を求められたのはここ、オフェロス鉱山」

 次に光希が指したのは赤色の大国との境にある鉱山のマーク。

「他にはどこの返還が求められたのだ」

 ローランの問いに光希は静かに首を振った。

「ここだけなんだ。他には『軍事資産の三分の二』を『三分の一』に変えること、『十億』を『五億』に変える、首都潜伏を見直すことぐらいかな」

「要求としては軽いな」

「確かにね。これに国土魔力について触れられてたら、文句はなかったんだけどね」

「何でだ?」

「宣戦布告の理由になるから」

 不敵に笑む光希に呆れ顔で眺める勇者たち。

「まぁ、これでも十分だからいいけど」

 打算的だな、と真架は素直に思った。

「で。今回問題なのは、『オフェロス鉱山返還』なんだよ」

 光希の話題が変わる。

「もしこの国の領土の数か所が取られて、一か所が返還出来るとしたら、どこを取る?」

「もちろん、自分の国のメリットになるところを返してもらうな」

 真架の回答に他の勇者やシャローム、大臣が頷く。そのことにも光希は首を縦に振り補足を加える。

「確かに、それが当然だと思う。農業に富んだ土地、工業に富んだ土地、そして戦争で使える複雑な土地、いろいろあると思う。けど、この『オフェロス鉱山』は違う。少なくともこの返還を申し込んできた三国にはメリットはない」

「フィレツェ大国にとっては重要な土地だったのではないか?」

「フィレツェ大国には利益のある土地だった。そう考えるのが妥当だろう」

 晴代とローランがその考えに着く。

「確かにそうだろうさ。この鉱山からは貴重な鉱石・金属が手に入りやすいんだって。でも、それをうまく加工できているかと言ったら出来てない。かといって、それをもとに他の三国と繋がっていることもないんだ。おかしいよね。自国にも他国にもメリットがない土地を返還してほしいなんて」

 確かにおかしな話だ。

 メリットがあるならいざ知らず、それがないのにこの土地を返してほしいと言うなんて。

「だから、オレはある仮説を会談前に立てたんだ。……ねぇ、イーリス」

「ん?なんだ?」

 いきなり話を振られて身を構えるイーリス。

「キミたちの国、いやキミたちの国を含めた四か国は二年前に国土の形を変えたよね?なんで?」

「たしか、二年前にその四か国との間で同盟が組まれ、より繋がりを強くするために今の形になったと聞いているが…………」

「へぇ………表向きはそうなってるんだぁ」

「どういう意味?」

 懐疑そうに首を傾ぐイーリス。

 真架たちもその疑問に賛同する。

「これが二年前まで国の配置だ」

 光希が映し出した地図の四か国の配置は現在のものとは全く違い、国土の大きさ、位置がバラバラである。

「そしてこれが二年前からの……さっき見せた地図だ」

 真架たちはその地図を見て、二年前と後では大分形が変わっていることに気付く。

「この四か国の間では戦争が起きた記録はない。なのに何故、前までバラバラだった国土の大きさが今では均等な大きさになってるんだ?それにこの国の配置。見て気付かないかい?」

 光希が促し、真架たちはその地図をよく見た。

 配置が大きく変わったことは分かる。だが、その意図まではつかめない。

「光希。説明しろ」

「OK.オレがこの配置を見て気付いた点は……エルレラン王国を包囲した形になっていることだよ」

『―――――――――――ッ!?』

 光希の主張に驚愕した一同はもう一度地図に目を向ける。

 エルレラン王国に対した四か国は北の方に固まり、エルレラン王国をなぞるように東と西にも広がっている。

確かに、よく見なくとも、簡単に単純に考えると四か国が手を組みエルレラン王国を取り囲んでいるような形になっているのが解かる。

何故、ここまで大胆に地形を変えているのに、気付けなかったのか。

「人とは疑り深い種族であるが、その思考はいたって単純。他人に気付かれないように慎重に行動すれば、その行動は大概ばれ易くなる、なぜなら疑り深いから。だが、誰もわかるような問題に対し、その裏をかこうとする。例えばこんな問題がったとする。

自慢屋のある男が言った。『僕はとても速く歩くことが出来る。ベッドから十メートル離れたところにスタンドがあるが、僕はベッドからスタンドを消しに行き部屋が暗くなる前にベッドに戻ることが出来る』と。さて男はどうしてそのようなことが出来たのだろうか?シャミちゃん、分かる?」

「え!えっと……部屋の見取りを覚えていたとか、一直線上だったとか?」

「確かにそれでもいけるだろうけど、『暗くなる前に』だよ?それらだと出来ないだろうね」

「じゃ、じゃあ……」

「シャミちゃんはこの話を聞いて『暗い夜』を想像したでしょ?」

 シャミームは光希の問いに首を縦に振った。

「でも、この話の時間帯が明るい時間帯だったらどうだろう?」

「あっ!」

「『相手の裏をかく』『相手の状況を深読みする』。それが戦いのおける心理の基礎。大胆な行動は『裏がある』と考えたり『いや裏の裏』と思考の泥沼に嵌る。他にも、『複雑』に見えて実際は『単純』だったする。つまり人間は『複雑な思考』という人間特有の能力を持つと同時に、『単純な思考』という動物的能力が欠落しているんだよ」

 見事な心理トリックだ。

 真架は素直にそう思った。

「それで何が言いたいのだ?」

「四か国が包囲していることが分かった。けど、そのことは国民には知らせていない。ただ『エルレラン王国を滅ぼす』って言う考えなら、国民にも知らせていいと思うんだ。それをしなかったってことは、言えない何かがあったってことだ」

「だから、それが何だと聞いている」

 苛立った雰囲気で晴代が光希に問いつめる。

「国民に知らせない理由は、『国王の独断』である場合と『国民の混乱を避ける』場合がある。会談をして、オレは後者だと思った」

「何故、そう思われたのですか?」

「あの王は極力自分の国に『安全』な策を講じていた。それは自分の国を守ろうとしている表れだと思ったんだ」

 相手をよく見ている。

 観察や情報戦において光希は強い人間なのだろう。

「で?フィレツェ大国は何を国民に隠しているのですか?」

「この四か国同盟は不本意だったんだと思うんだ。だって、より強い国に脅されたら、小さくなるしかないだろ?」

「まさか、ロマリウス帝国が!」

「ロマリウス?どこだ?」

「この赤いやつだよ」

光希が指したのは広く塗られた赤い国土。

大きさはエルレラン王国と四か国を足してもまだ一回りほど。

それほどの巨大な帝国が今回の黒幕だと光希は告げたのだ。

「何故、ロマリウス帝国がこの国を落とそうとする訳なのだ?」

「それは資源でしょう」

「資源?」

 晴代の質問にシャロームは静かに結論を述べた。

「この国は他の国よりも農業や武器の生産が高いのです。それは広く栄養価の高い大地、豊富で高価な鉱物に恵まれているためなのです」

「対してロマリウス帝国は国土のほとんどが発展都市で、農地にも鉱山にも見放されている。だから得るために、戦争に勝ち、多くの資源を掻っ攫っていった。これがあの帝国が国土を広げていった理由って訳なんだよ」

「他国の資源でのし上がった国か。いかにも姑息そうだ」

「それだけで勝てるほどこの世界は甘くないと思うよ。現にロマリウス帝国は魔法の力が強くて、一騎当千級の騎士が数十人もいるんだ。でも~!」

「俺らが負けることはないだろうな」

 向こうの戦士が一騎当千ならば、真架たちは天下無双とだろう。

 真架たちの表情には余裕が見て取れた。

「それでじゃ。この鉱山には何があるのじゃ?」

「おそらく向こうは、鉱山にオレたちが潜伏するのを恐れたんだと思うんだ」

「なるほど。オフェロス鉱山はフィレツェ大国とロマリウス帝国をまたがっている。表向きはフィレツェの国土だったがおそらく、半々で使っていたのだろう。だが、向こうにとっての想定外は『表向きフィレツェの国土』という事だ。そこについて私たちがオフェロス鉱山を手に入れたら、ロマリウスは手を出しずらくなる。それを恐れたから、オフェロス鉱山の返還を求めたのだろう」

「うん。オレもそう思う」

「ならば、さっさと攻めればよかろう?」

「それはダメだよ。まだロマリウスが動いたって証拠はないんだから」

 これは飽く迄、推測だ。

 実際はフィレツェ以外の三国からの要求であり、ロマリウスの要求ではないのだ。

 もっと決定的な証拠が必要なのだ。

「一応、この報告はオレの推理であって、事実ではないんだ。でも十中八九オレの推理道理だと思うから、それを頭に入れておいてほしいと言うオレの意見なんだ。

 それから、オレはこの要求を呑んでもいいと思うんだけど、他の人の意見も聞きたいんだ?」

 真架は他の五人の顔を見る。

 五人が頷き、真架もそれにこたえるように頷いた。

「勇者側もそれに賛成でいい」

「エルレラン王国としてもその要求を呑みましょう。このまま戦争になったとしたらこちらとしても苦しいものがありますから」

「確かに、俺らが強いって言っても、まだこっちの戦いには慣れてないしな」

「そもそも戦いに慣れてない人もいるけどね」

「それもそうだな。光希、話は終わりか?」

「まぁね。向こうが動くまではこっちも動けないからね。でも、どっちから攻めるかは分からないけど、戦争は避けられないと思うよ」

「どうしても……ですか?」

 シャロームが不安げに問う。

「うん。遠からずね」

「……………」

 不安になるのもわかる。

 この世に戦争が好きな奴がいるわけがない。

 誰もが平和に暮らしたい。

 『平和』を知っているからこそ、『平和』の大切さも知っている。

 真架はシャロームを見てそう感じた。

「ローラン、晴代」

「ん?」

「なんだ?」

「後で俺に剣の稽古を付けてほしい」

「いいだろう」

「私は厳しいぞ」

 ローランと晴代は真架に向けてそう言った。

「イーリス。その後で魔法の訓練に付き合ってくれ」

「任せて」

「彩羽は広範囲に魔力探知をしてくれ」

「分かった」

「ジャックと迦具夜は部隊の編制を行ってくれ」

「今からですか?」

「早い方がいい。部隊を編制したら、その部隊で訓練をするように伝えてくれ」

「分かりました」

「任せるのじゃ」

「光希。言わなくても分かってるな」

「まぁね。とりあえず任せて」

「じゃあ、さっそく移ってくれ。ローラン、晴代は先に行っててくれ、俺はシャロームと話してから行く」

「分かった」

「早く来るのだぞ」

 真架はそれぞれに指示を出し、行動に移させた。

 大臣たちも既に退席し、残ったのは真架とシャミーム、シャローム、ロフェルだけだ。

「シャミは皆のサポートに行ってくれ。ロフェル、悪いけど二人にしてくれないか?」

「……分かった」

 ロフェルが退出して、シャミームが声を掛けてきた。

「戦争か……。今度も大丈夫だよね?」

「心配するな。それとまだ戦争が始まるって決まったわじゃない」

「そう……だよね」

「さっさと行って来い」

 気が沈みがちにシャミームは部屋から出て行った。

 真架はそれを寂しげな目で見つめていた。


  *


「真架さん、こちらに」

 シャロームは窓を開けてベランダに出る。

 真架はその後を追ってベランダに出る。

 ベランダからは城下が、広い国土が一望できた。

「座りましょうか」

 先ほどの横長いテーブルとは違い、丸い形の上品なテーブル。椅子の背に手をかけて、シャロームは座るよう促した。

「…………………」

 真架は無言で座った。

 真架が座った後にシャロームも椅子に掛けた。

「わたし、ここの風景が好きなんですよ。活気あふれる街に心安らぐ緑がわたしを落ち着かせてくれるんです」

「そうか」

 真架はシャロームが気にいっている風景を眺めた。

「確かに綺麗だ。これから戦争があるかもしれないんだ。心落ち着かせる場所があるのはいいと思う」

「真架さんは落ち着きますか?」

「俺は………」

 もう一度風景を見る。

 賑やかな街並みに豊かな自然が広がった美しい風景だ。

 だが、真架の心は曇ったままだ。

「良い風景だと思う。でも、俺は好きになれないな。こういう風景に慣れてないからだと思うけど」

「そうですか……真架さんにもそう言う場所が見つかればいいですね」

「そうだな」

 そして真架は改めてシャロームに向き合った。

「それで真架さん、話とは?」

「お前とシャミってどういう関係なんだ?」

「……………」

「戦争を避けようとする姿勢は一国王として当然だと思う。でも、さっきのお前は戦争の事を聞いて真っ先にシャミのことを見ていた。それも不安げな表情で」

 会議中の事だ。シャロームはシャミームのことをずっと気にしていた。

 あそこまでの分かりやすくしていたのに、シャミームは一切気が付いていないみたいだったが。

「俺の推測だが、フィレツェとの戦争の時もアンタはシャミームにあの部屋にいるように言っていたんだろ。『勇者の召喚』と適当な言い訳を付けて安全なところに置いていたんじゃないのか?」

「……………」

 無言のままのシャロームに真架は肯定だという意思を受け取った。

「いざとなったらシャミの魔法を使って遠くに逃げることが出来る。安全なところに置いたのは、シャミをより確実に逃がすためだったんだろ?」

「…………当事者ではないのに、よくわかりましたね。でも、『勇者召喚』は正式な任務として与えていました。適当とは心外です」

「あっそ……」

 興味なさげに返事をして、真架はまた風景を見た。

 方角的に、さっき訪れた孤児院の方向を。

 それを見て、シャロームもその方角を見て、口を開いた。

「わたしとシャミちゃんの名前、似てると思いませんか?」

 真架はそれに無言で答えた。

 『シャミちゃん』。王女が一人の少女を愛称で呼んだことに真架は二人の関係が何か深いものだと感じた。

「わたしとシャミちゃんは……双子なんですよ」

 シャロームは苦しそうな笑みを浮かべて、告げた。


  *


「……………」

 無言でひたすら歩く真架。

 行先はさっき約束をしていたローランと晴代のところだ。

「……………」

 真架の表情は暗く固いものだった。

 真架は廊下を歩きながら、さっきのシャロームの話を思い出していた。


『シャミちゃんとわたしが生まれ、お父様……先代の王がシャミちゃんを孤児院の前に置いたそうです。お父様がなくなる前に聞かされました。理由は分かりませんでした。が、決して憎んで捨てたのではないとおっしゃっていました』


『お父様からはその子の名前を聞きました。驚きましたよ。まさか、側近に置いていた子がわたしの妹だったなんて』


『あの子はいい子です。今まで親の愛情を受けなかった。わたしだけが親の愛情を受けました。だから、せめてもの償いの意味を込めて、わたしはシャミちゃんを守ろうと決めたのです』


『シャミちゃんにはこのことは言ってません。お願いです。このことはシャミちゃんには言わないでください。あの子は優しいです。こんなこと望まない、と怒られてしまいますから』


 真架は静かに拳を握った。

「ヤッホー。話終わったの?」

「顔が怖いけど、大丈夫?」

「……………………」

 真架の目の前に現れたのは光希と彩羽だ。

「何の用だ?」

「別に。何の話だったのかなぁ?って。ねぇ、彩羽ちゃん?」

「はい」

 いつもの調子で話す光希と彩羽をうらやましく思う。

「別に大したことじゃないかった。お前らが気にすることじゃない」

「もしかして、話とは王女様とシャミが姉妹と言う件ですか?」

「ッ!?盗み聞きか!」

「あ、図星?別にオレたちは盗み聞きなんてしてないよ。普通解かるでしょ?あんなに似てるんだから」

「顔が似ているわけではありません。体の特徴や無意識の仕草に共通点が見られたので」

「真架くんまた気づいてなかったんだね」

 真架は二人の言葉にいら立ちを覚える。

「でも、真架くんが気付かないのは無理ないね。だって、相手のこと見てないんだもんね」

「あぁ?」

「物理的ではなく、心理的にです」

「そうそう、他人との間に壁作ってるもんね。そんなんじゃ分かりっこないよ」

 真架は二人の言葉に覚えたのは怒りではなく、感心だった。

「皆も気づいてるよ。だから、さっきのは驚いたんだ。真架くんが他人に心開いたってね」

「……………」

「たった数日の付き合いしかありませんが、アナタのことは分かるつもりです。人の心が読めるわけではないので、客観的にですが」

「まぁね。人を信用できないのには何かしらの事情があるんだろうし聞かないけど。オレたちのことは信用してほしいな」

 真架は頬を緩めた。

「まったく、生意気だぞお前ら」

「ははは、そう言う性格だから」

「そこのところは大目に見てください」

「はいはい。それから、別にお前らのことを信用してないわけじゃねぇよ。信頼してるよ。数日の付き合いだけどな」

 そう言って、真架は止めていた足を動かせた。

「それと、光希。しっかり作戦考えとけよ。参謀んんだろ?」

「分かってるって」

 真架はそう言い残して、再び歩き出した。

(まったく、どいつもこいつも、ずかずかと壁を壊してきやがって……直すのも面倒なんだよ)

 今日、真架は久し振りに誰かを信頼することを思い出した。

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