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余章:捕虜の使い方

「大勝利でしたよ!すごかったよ!」

 歓喜に振るえるシャミームを横目でみる。

「結構危うかったけどな。光希も大分ばくち打ちだな」

「オレってギャンブルも得意だよぉ。でも、さすがにこれで懲りたよ。今回は情報がなかったから仕方なかったけど、今度からは地道に情報収集するよ」

「それがよいのぉ。見ておる妾らは肝を冷やすのじゃ」

「そうですね……情報大事です」

「今度の課題だな」

「今度もボクが代表でいいですよ。あの絶望した顔、堪らなかったなぁ」

「素が出ているぞ」

 俺たちが居るのはシャロームが充てた俺たち専用の部屋だ。

 全員で会談の話をしているとシャミームが質問してきた。

「あの~、真架?」

「何だ、シャミーム?」

「何で彼女をここに置いてるの?」

 シャミームが指した先には縄で腕を縛られ、その場で大人しく座っているイーリスだった。

「いやだって、もうコイツはフィレツェ大国の国民じゃないんだろ?だったら、条約の第六条にも適用されないだろ?」

「そうだけど…………」

「何だ?」

「ヒッ!」

 鋭い目つきでシャミームを睨み付けるイーリス。

「いちいちビビるな。あと、イーリスも威嚇するな」

「気安く私の名前を呼ぶな!それから、早く私を解放しろ」

「何で?」

「条約を締結したのだろ?ならばもう用済みとなった私を解放するのも理に適っているだろ?」

「アンタはもうフィレツェの人間じゃないんだぜ。確かに用済みであることには変わりない。けど、これからアンタの使い方をどうするかはこっちの自由なんだよ」

「そもそも、条約で保障したのは『フィレツェ大国の捕虜』だから『フィレツェ大国の捕虜』じゃないイーリスちゃんを解放する道理はないんだよねぇ」

 イーリスは言葉が出ず、ただ悔しい表情をするだけだった。

「さて、イーリスの処遇だけど、何かいい意見はないか?」

「はいはぁ~い!」

 光希が手を挙げ主張する。

「じゃあ、お前から順に言っていけ」

「人形」

「人権は保て。次」

「人体実験。もしくは解剖♪」

「だから人権。次」

「苦しまぬよう、一思いにじゃな」

「殺すな。次」

「剣の修行に使いたい。その段階で死んだとしても事故だな」

「右の意見に賛同する」

「殺さないならいいんだけどな。彩羽は?」

「メイド……」

「ケッッッッッッテェェェェェェェイッッッッッッ!」

「お前が決めるな!」

 大いに取り乱した光希の後頭部にグーパンを極める。

「おい。めいどとは何ぞや?」

「地獄のことか?」

「地獄送りということか?」

「他の意見と何が違うのでしょうね?」

 やっぱり分からないのか?

「えっと、メイドって言うのは…………」

「そこから先はオレに!」

 うるさい奴が復活した。

「おっほん……えぇ~メイドと言うのは、清掃・洗濯・炊事などの家事労働を行う女性使用人ことを指す。語源となる『maiden』は乙女・未婚の女性という意味で、過去に若い女性が結婚前には奉公に出されていたことに由来する。そこから、乙女の奉公人・使用人と意味になったんだ。つまり、メイドとは女中・使用人・女給であり、そして、揺るぎなき完全無欠の、萌えだぁぁぁぁぁぁ!」

「「「「「「「「…………………」」」」」」」」

 結論を言うと間違いです。

「何で前半当たってるのに、結論が『萌え』なんだよ…………。ん?」

 裾の方を引っ張られ振り向くと迦具夜が怪訝そうに見ていた。

「めいどとは草木が育つことかえ?」

「何で?」

「『萌え』とは、古典用語で、『草木が成長すること』、なので」

 定番の『メイド』を『冥土』と勘違いする方向性じゃなかったな。

「えっと、違うぞ」

「そうだ、違うぞォォォ!」

 お前、いい加減黙れ。

「萌えとは、様々なサブカルチャーの媒体において登場人物への好意・恋慕・傾倒・執着・興奮等のある種の感情を表す言葉である。『象物に対する狭くて深い感情』という意味を含み、それよりは浅くて広い同種の感情を表す「好き」という言葉を使うのにふさわしくない場合に用いられる言葉なのだ!なお、最大公約数的には架空の人物、アイドル、無機物といった現実的には恋愛対象になりえない対象に対する、自覚的な「擬似恋愛」といった定義でくくることもできることもあり、愛玩的対象に対して、恋愛感情ではない何かが感情として現れることを、萌え元来の意味である芽が出ることから何かに芽生えるという意味で使われていったとされる。「心に春を感じる」といった語感で用いられるのだぁ!」

 俺、コイツのこと分からなくなってきた。

「また、精神科医の斎藤環は、おたくが用いる「萌え」という言葉を、「芸風」として戯画的に対象化されたセクシャリティであると位置づけおたくの創作物が倒錯した性のイメージで満たされながらも、おたくの間では現実の性倒錯者が少数であると指摘し、おたくのセクシャリティを虚構のリアリティを支える、虚構それ自体が欲望の対象となり現実を必要としないものであるとしてその背景を論じたのだ」

 長い。

「また……」

「くどい!」

 どんだけ説明したいんだよ!

「で?即ちめいどとは何なのじゃ?」

「即ちメイドとは、萌えの対象として語られるようにもなり、この場合、メイドとして通常想定されるのは、妙齢の女性または少女であり、その服装は多くの場合典型的なエプロンドレス、いわゆるメイド服であるのだ。また、「血縁関係のない女性」を側に置く手法としても用いられるわけで、雇い主を呼ぶときは、大抵男性なら「御主人様」か「旦那様」、女性なら「お嬢様」、性別が関係無い物では「~様」と呼ぶことが義務づけられているのだ。『主人に対して絶対の忠誠を誓う』等、本来のメイドとはかけ離れた特徴を持っている事が多いわけで…………」

 もうメンドくせぇ!

「簡単に言うと使用人だ!」

「うむ、光希の話より分かりやすいのじゃ」

「アイツの話は理解しなくていい」

 光希に対して、その知識量よりも、その知識の偏り具合に恐怖したよ。

「で?結局、誰の意見にするの?」

「まぁ、メイドだろうな」

「ほほう、さては主殿もめいどとやらにご執心なわけじゃな?」

「ちげぇよ。俺、料理とか出来ねぇから。お前らは?」

「愚問じゃ」

 うん、出来ないだろうな。

「私は米を炊けるぞ」

「「米?」」

 そっちの西洋人分かってないよ。

「はい、オレ!オレ料理できるよぉ!」

「お前の料理は死んでもゴメンだ!」

「はっきり言われた!?」

「肉なら切れますよ。人の♪」

 絶対、刃物は渡さねぇ!

「水があれば生きていける」

 最後の手段だよ、それ。

「シャミーム、お前は?」

「わ、私?で、出来るよ!」

出来ないな、これは。

「はぁ……イーリス。俺らの使用人になるなら解放してやるよ」

「誰が貴様らの……!」

 やっぱりな。

「ん?彩羽?」

 すると、彩羽がイーリスの後ろに回り縄を解いた。

「おい、彩羽」

「いいよ……行っても」

 何を言ってるんだ。と言いたくなったがここは堪えて彩羽に任せることにした。

「な、何を……!いいのか?」

「うん、いいよ……。行くところがあるなら」

「――――――――!」

 痛いところ突いたな。

 イーリスは今や帰る場所がない。強気な態度は俺たちに悟られるのを恐れたからだろう。帰る場所のない寂しさを。

 俯くイーリスに彩羽は手を差し伸べる。

「一緒に……いよ?」

「ん…………」

 イーリスはその手を掴んだ。

「はい……使用人」

「なっ!だ、誰が使用人になると……!」

「なれば!これに着てもらおうか!」

 光希が手に持っていたのは濃紺のワンピースにフリルの付いた白いエプロンを組み合わせたエプロンドレスと白いフリルのカチューシャだ。つまり、要約すると『メイド服』だ。

「何でそんなもの持ってるんだよ」

「いつか……いや、絶対使うと信じてカバンの中に入れてきたんだ!」

 用意周到だなホント、無駄な部分で!

 こうして、この部屋には七人の勇者と一人の秘書、一人の使用人が暮らすこととなった。


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