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Ⅱ章:勇者の初陣

 豪!

 爆音が響く戦場。

それぞれの国の騎士が鎧を纏い、剣や槍を構え、魔法陣を浮かべぶつかり合う。

魔法陣を通り向ける弓矢は光を纏い、敵を襲う。

響く銃声に貫かれる仲間たち。

「クソッ!……姫様、もはや最終防衛線も突破されそうです」

「………………」

 まだ若く爽やかそうで武装なんて似合わない青年の通達を聞き、鎧を纏っていてもなお美しき姫様と呼ばれる少女は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。

 城のすぐ傍まで敵軍の旗や兵がやって来ている。自軍の兵も奮闘はしているが時間稼ぎ関の山。確実に数分後には落とされる。

「まだなのですか?……シャミーム」

 姫にとっての狙いは時間稼ぎであり、それでもよいのだ。

 待っているのは、【扉の魔導士】シャミームからの連絡。彼女の作戦がうまくいけばこの戦に勝利することができる。

 だが、まだ連絡がこない。最終防衛線が突破されればいくらシャミームがうまくやったとしても城が落とされるのは考えるに容易なこと。

「伝令!最終防衛線が突破されました!」

 伝令からの通達に姫と青年は俯く。

「く………」

「間に合わなかったか……」

 姫が膝を崩し頬に涙が流れる。

 刹那―――

『姫様!』

「っ!?シャミームですか!」

 通信球から響いた声の主は待ち望んでいたはずのシャミームだった。

『はい!急な申し出なのですが、今すぐ兵を引いてください!』

「そのつもりです。もう間に合いませんでした。たった今、最終防衛線が突破されました。この城ももう直きに―――」

『へぇ~、なるほど。なら、好都合かなぁ』

 突然、知らない声の主が通信球から聞こえる。

「?貴方は?」

『今はよしましょう、姫さん。それより敵将って近くまで来てるのかなぁ?』

「はい、おそらく」

『オケ、分かった。だってさ皆!あれ?シャミームさん、皆は?』

『今、出ていったけど……』

『え?フライング?もう、用意ドンが合図って言ったのに!屋上ってどこ?』

『そこ階段を上ったら!』

『よし。姫さん、聞いてますか?今からオレが道を作りますんでそこからすぐに兵を引かせてください』

「どうしてですか?貴方たちが戦うのなら援軍を―――」

『やめた方がいいですよ。邪魔になる、と言うより、今から出ていく人たち見境ないから、敵味方関係なく遣っちゃいますよ』

「それって、どういう?」

『じゃあ、行きます。よ~い……ドン!』

 刹那―――


  豪ゥゥゥゥゥゥッッッッッッ!!


辺りが白く輝く。

一筋の光が一閃し、地面を抉る。

「「…………………」」

『姫さん、逃げ道は作ったんで、あとはお願いしますねぇ』

 すると通信球は光を失う。

「一体、何が……」

 再び刹那―――

 怒豪!

「「ッッッ!?」」

 と、城の門が内側から破られる。

 その壊された門から二頭の馬が駆け出る。馬の上に一頭には一人、もう一頭には二人が乗っていた。

「おい、降りろ」

「いいじゃないですか。行先は一緒なんだし」

「先に行かせてもらう」

 着物に袴、二本の刀を差した者の馬が先に出る。

 鎧を纏っている騎士と銀髪の青年はもめていたが、直にやめ前に出る。

「彼らが……」

「姫様!上を!」

「どうしたの?――――――ッ!」

 上を見上げると、一機の牛車と二人の人が空を走っていた。

「貴方の鎖……便利……」

「だろ?貸さねぇぜ」

「必要ない……」

「其方ら、随分とはかないの?」

「儚い?何で?」

「古典的な意味で……頼りない、決まりが悪い。つまり、のんきだと……言いたいのだと……思います」

「あっそ、そっちこそ楽してんじゃねぇか?」

「乗りたいかの?妾に勝ちを渡すのなら乗せてやらんこともないぞ?」

「馬鹿言ってんじゃねぇよ。そんなのろまに乗るぐらいなら自分で走った方がいい。先行かせてもらうぜ!」

「お先に……」

「うむ……」

 姫はそのやり取りをただ茫然と見ていた。

「彼らが―――勇者」


  *


「何をしている!」

 敵兵の部隊長であろうその人は進軍を止める兵に檄を飛ばした。

「し、しかし隊長!敵の砲撃が止みません!」

 兵の人がそう叫ぶ。

 光線や炎球、光の弓が雨が如く降り注ぐ。

 隊長もそのことは承知している。だが、それでは落とせる敵も落とせなくなる。

「怯むな!全軍突撃!」

 敵兵は死を恐れず前に進軍する。


「ハハッ!頑張るねぇ、敵さん!じゃあ、こっちももっと本気でいかなくちゃねぇ!」

 光希の現在の武装は片手に魔光線銃に魔炎砲、魔弓を放つカタパルトが二つと敵陣に出るにはやたらと重装備だ。

 だから、光希は元居た城から全く動いていない。少し高台に上ったぐらいの移動をしたのみだ。

 そして、その重装備がさらに磨きがかかる。魔弾を放つ機関銃の砲口が四つ、浮遊する魔光線銃が六機、ミサイルポッドが四機。到底、この世界にはないであろう銃火器がわんさかと装備される。

「ロックしたから!避けれるなら避けてみなよ!」

 一斉放射。

 ―――豪ォォォォォォォォォ!

 大地を揺るがすほどの轟音が鳴り響き、爆炎が立ち込める。

 黒煙が消え去ると、そこには誰一人として立ち上がっているものがいない。

「ハハハ!爽快だなぁ!」

「あの!味方の人は撃ってませんよね!」

「まだ引いてなかったの?それはむしろ自己責任だよねぇ?引けって言ったのに引いていない人が悪いんだよ。だから責められる筋合いはないねぇ。それにオレたちはまだこの国のために戦ってるわけじゃないんだから。今はまだねぇ」

 含みを持った発言をする光希は、再び戦場を見て敵将の場所を探した。

「さぁ~て、後は彼らに任せますか。行こか、シャミームちゃん」

「え?あの戦争は?」

「あの人たちに任せればいいよ。その間にオレはこの世界についてお勉強したいとおもいまぁ~す」

 光希はどこか陽気な感じで笑っていた。


  *


「何か、スゴイ武器ですねぇ!安全地帯から攻撃なんて卑怯でしょ。ねぇ?」

「確かにそうだが、この付近に敵将はいない。射程圏外なら逆に取りにくい武器だろう」

「確かに。あっ、ここでいいや。ありがとう。敵将、ガンバってね」

 そう告げるとジャックは馬から飛び降りる。

「気を付けるんだな」

「そっちもね、騎士さん。帰ったら自己紹介しましょうねぇ」

 返事はなかったが、ジャックは気にしなかった。

「さて、お待たせぇ!やろっか?」

 ジャックが何気ない言葉を言う。

 笑っているがそんな状況ではない。彼は敵兵に四方を囲まれているのだ。

「舐めおって!」

「あっ。ねぇ、アンタって大将?この軍を指揮してるの?」

「違うわ!イーリス様は私なんかとは比べ物にならんほど偉大なお方だ!」

「へぇ、イーリスって言うんだ、大将って。まぁ大体わかってたんですけどね。だって、明らかにゴミですもんねぇ、アンタら。捨て駒にもならないんじゃないですか?」

「貴様!掛かれ!」

 囲んでいた兵が一斉にジャックに襲い掛かる!

「はは…………♪」

 彼の頬が狂気的な笑みで歪む。

 刹那、ジャックの姿が敵兵の視覚から消えた。

「な、何ッ!?どこへ行った!」

「こっちだぜぇ♪」

 いつの間にか敵の包囲網を抜け、部隊長のような者の後ろに立つ。

 その両腕は三本の長い『ナイフ』が付いた小手が装着されていた。

「何だと!?いつの間に!?」

「そう言うのいいから、まぁ、死ねよ」

 ジャックが指を鳴らすと、敵兵の半分以上が無残に切り刻まれる。

「何ッ!?どうした!?」

「おいおい、他人の心配かよ!アンタ、腕はどうしたんだ?」

「?――――――ッ!」

 部隊長は何を言われたのか気づかなかったが、自分の左腕が熱くなるのを感じ左腕を見た。否、左腕ではなく、左腕があったであろう場所を見つめた。

「コレ、な~んだ?」

 汚いものを抓むように持っていたのは切断された左腕。

 彼の左側からは大量の赤くドロドロとした液体がドバドバ、ドバドバと――――――

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

 その時になって、自分の腕が切り落とされたことに気づく。これでは指揮もあったものではない。すでに他の兵も恐怖に震える。

「ギャーギャーうっせぇなぁ!黙れよ、ゴミカスが!」

 ジャックがもう一度指を鳴らすと、空中に魔法陣が描かれ、そこから無数の『ナイフ』が現れる。

「ハハハ、串刺しだ!」

 すべてのナイフが敵兵を囲み、そして一気に兵に突き刺さる。

「いやだあああああああああああああ!」

「た、助けッ―――――ギャアアアアア!」

「い、痛っ―――――ガハッ!」

 そのナイフは生きているように、生きている者を無慈悲に襲い掛かる。

「ヒャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!最高だなァ!アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!死ね、死ね!ハハハハハハハハハハハハハ!」

 狂気に狂ってしまったように不気味な高笑いを響かせていた。

 ジャックは羽織っていたマント投げ捨てる。

 着ている服は白いシャツとスーツのズボン、そしてその着ている衣類には乾いた血痕が染みついていた。

 その場には狂ったジャックとナイフに串刺しにされた数百の死体(ゴミ屑)だけだった。


  *


「取り囲め!」

 武蔵の周囲には敵兵で埋め尽くされる。

 乗っていた馬は魔法攻撃を受け、もう動けない。

「よくここまで運んでくれた。ありがとう」

 倒れた馬の頭を撫でながら感謝の言葉を送る。

「さて、之は一騎打ちをするにも値しない小物ばかりだな。群れてかかるなど武士道にあるまじき行為。いや、こんな異郷に武士道はないのだろうな」

 腰から二本の刀を抜き、地面を刃先が撫でる。

「一人ずつは時間の無駄だ。一斉にかかって来い」

「言われなくてもッ!全員、かかれッ!」

 雄叫びをあげながら敵兵が一斉に襲い掛かる。

「有象無象と。まるで蟻の軍勢だな。なぁ、鬼切丸、蜘蛛切丸」

 刀を構える。いや、構えていないが、これが構えだ。有講無講、五方之構【下段之構】。

「斬り捨て、御免」

 武蔵の姿が消える。

「どこに―――!」

「ギャアアアアア!」

「どうした!」

「仲間の者が次々と斬り倒され―――ウワアアアアアア!」

 いたる所から血が噴水のように噴き上る。

「クソッ!いいから、魔法を放て!数撃てば当たるはずだ!」

「隊長ッ!」

「なん――――」

 隊長と呼ばれた男は隊員に呼ばれた意味を理解することはもうない。

 隊長の首を斬り落とした武蔵は刀を振り血を払う。

「何だ?此奴が隊長だったのか。では、もうこの隊には敵将はいなかったことになるな」

 刀に付いた血を振り払い、鞘に納める。

「ど、ドコに行く!」

「敵将を打ちにだ。その手は下しておけ。斬られたくなかったらな」

 敵兵の全員はこの言葉に畏怖し、膝をついた。

「……ふん」

 武蔵は興味をなくしたように去って行った。


  *


「おぉ……これは珍妙な」

 迦具夜は宙に浮く敵兵を見て感嘆の声を洩らす。

 完全に囲まれているにもかかわらず、迦具夜は落ち着いており閉じた扇を口元に持って行った。

「貴様は完全に包囲されている!降服しろ!」

「こうふく?うぬらは腹でも好いておるのかえ?」

「馬鹿にしているのか!」

「それにまたけむにはまだ上も下も空いておるではないか?」

「馬鹿にしおって!一斉、構!撃て!」

 指揮官らしき者が指示を出すと兵たちは一斉に魔法陣を浮かべ様々な物質を放った。

「これは珍妙!」

 迦具夜が使う『珍妙』には二つの意味がある。一つは『不思議だ』、そして『素晴らしい』だ。

 迦具夜はこの敵の攻撃を素晴らしいと評価したのだ。

「ならば、妾もうぬらに応へなければなるまい」

 迦具夜は閉じていた扇を開く。そしてその扇には不釣り合いな魔法陣が輝きだす。

「天の羽衣」

 迦具夜を囲うように張られた薄い空気の膜は敵の攻撃を易々と跳ね返してしまう。

「何ッ!?」

 指揮官は驚愕する敵兵の周りを舞う数羽の鳥に気付く。

「何だこの鳥は!」

「燕の子安貝」

 鳥はすべての敵兵の肩に留まりチュンチュンと可愛らしく鳴いていた。

 兵隊は全員が戸惑いの顔を見せていた。

 その様子を迦具夜は微笑みながら見ていた。

 そして扇を閉じた。

「『爆』じゃ」


   豪ゥゥゥゥゥゥッッッッッッ!!


 敵兵の肩に乗っていた燕も宙を飛んでいた燕もすべて巨大な音と煙を上げ爆破した。

 迦具夜を囲んでいた敵兵は黒く焦げて力を失い大地に落ちていった。

「あはれじゃの」

 迦具夜は何事もなかったように空を行く。


  *


「……茶番だな」

 ローランは敵の編隊を見て小言を溢す。

 遠距離の魔法攻撃に頼り切った戦い方。誰一人として武器を持たず接近戦を試みる者がいないと見える。

「な、何なんだ、アイツは………!?」

 敵隊の隊長らしき者や兵は驚嘆の嗚呼を溢す。

 なぜならローランはまだ剣すら抜いていない状態で、敵の一斉砲火を耐えしのいだのだ。

 いや、全く効かなかったという方が正しい。

「こんなに攻撃を喰らって、なぜ無傷なんだ!」

 そう、ローランの皮膚には切り傷も火傷も全く見られない。傷が入っているのはもっぱら着込んでいる鎧だけだ。

「そうか!その鎧か!その鎧が魔法を無効化しているのか!」

 指揮官らしき者の推理を黙って聞いていたローランは敵に視線を移した。

「この飾りにそのような力はないが?」

 ローランは纏っていた鎧を剥ぎ、シャツとズボンだけと軽装備になった。

 かなり無防備な状態だ。

「殺せぇぇぇぇぇ!」

 敵兵が一斉に遠距離魔法を放つ。

 ローランに魔法が当たると爆ぜ、煙でローランの姿が見えなくなる。

 すると指揮官が剣を抜きローランが居たであろう場所まで駆け抜け、大きく剣を振りかぶった。

「死ねぇぇぇぇぇ!」

「ようやく接近戦で勝負する者が来たか」

 だが、指揮官の剣はローランを切り裂くことはなかった。

 なぜなら、ローランはその剣を片手で握り掴んでいたからだ。

 片手での白刃取りではない、ただの鷲掴みだ。

 それでもローランの皮膚は傷が入っていない。

 剣の刃を握っているにも拘らず。

「我が肉体は、主の加護を得ている。何人(なんびと)も私の身を傷つけることは出来ん!」

 ローランは握っていた剣を握り砕いた。

「ぁ……ぁ……」

 驚愕に声も出なくなる。

「その勇敢な意思に敬意を表し、一撃で楽にしてやろう」

 ローランは腰から剣を抜き、天高く掲げた。

 太陽の反射か、それとも……。

 その剣は黄金の光を放った。

「あぁ……神よ……」

 敵の指揮官は膝を崩し、その目に神秘を映すように恍惚の表情を浮かべた。

「汝らに安らかな眠りを…………嘆け(カス・シャグラン)!デュランダル!」

 剣を振り下ろすと、敵兵を白い光輝が静かに包んだ。

 そして、光が晴れると、その場にはローラン一人が立っていた。

「私は歌おう……戦場に散った勇士の歌を」

 ローランは馬を呼び、誰もいなくなった地を颯爽と駆け抜けた。


  *


「何をしているのですか?……鎖さん」

「ん?」

 真架と彩羽は結果的に団体行動を取っていた。

 それは二人の向かっている方角が同じであることが一つの理由であり、もう一つ上げるとすれば七人の中での派閥が同じであることが挙げられる。

 彩羽の疑問は真架の『鎖』の使い方。

 真架は人差し指から鎖を五寸ほど垂らしていた。

 その垂らした鎖はと言うと前方の方を指して、重力を無視した状態を維持していた。

「俗に言う『ダウンジング』だ」

「ダウンジング……ですか?石油でも探しているのですか?」

 ダウンジングとは地下水や貴金属の鉱脈など隠れたものを棒や振子の動きを利用して探知する手法のこと。

 彩羽にとって、なぜこの場面で真架がダウンジングを行うのかが理解できないでいた。

「何でだよ。この鎖に『敵の中で最も魔力が高い者を指せ』と命令した。後はコイツが行先を示してくれる」

「なるほど……」

「お前はその片眼鏡か?」

「そうです……。この『モノクル』は【千里を見る魔法】で……範囲を指定して……条件を提示すれば……誰でもどれでもどこでもこの目で見ることが出来ます」

「そうか、てことは敵将とその場所ももう分かっている、ってことか?」

「そうですね。……それと、鎖さんが魔法を使っていないことも、お見通しです……」

「…………………」

 真架は答えなかったが、彩羽にとって彼の無言は肯定の意だと取った。

「まぁ、そこはおいおいとな」

 真架はその問いを誤魔化した。

「行きますか……?」

「まぁな。少なくとも武士と騎士と銀髪よりは先に着かないとな」

 なぜ三人より早く敵将と当たらなければいけないかと言うと、それはこのゲームを始める前に七人の中で敵将をどうするかで派が別れたことが原因である。

 真架と彩羽は『敵将を殺さず、生け捕りにし捕虜とする』意見を持った。

 それと反対に、武蔵、ローラン・ジャックの三人は『有無を言わさず殺す』意見を示したのだ。

 光希と迦具夜は『流れに任せる』と言う消極な意見だった。

 とにかく、二人にとっては『殺す』派の三人よりも先に敵将を撃たなければいけないのだ。

「一つ……いいですか?」

「何だ?」

「アナタは頭首になりたいのですか?」

「ん?あぁ、一番最初に言っておいてなんだけど、別にどうでもいい。てかこのゲームについてはあの銃の野郎はただ面倒を押し付けただけなんだよ」

「どういう?」

「お前も分かってるんじゃないか。俺たち七人の中で本気で頭首になりたい奴なんていない」

 真架の考えに頷く彩羽。

「ワタシも……興味ありません」

「武士は強い奴と戦いたいだけ、銀髪はただ殺したいだけ、さすがに騎士は何考えてるかわかんなかったな。で、銃の奴は俺たちに敵将撃たせている間にシャミームからこの世界についての情報を聞いてるんじゃないか?」

「同感です……」

 真架は指の鎖を消した。

「俺が敵の頭首と相手するけどいいか?」

「構いません……殺さないのなら」

「あぁ。案内は任せていいか?」

「それなら……任せてください」

 彩羽は魔法陣から羽のついた『ブーツ』を装備する。

「摑まります?……ワタシ……速いですよ?」

「愚問だな。追えないとでも」

「そうですか……見失わないようにしてくださいね」

 スタートした彩羽は空を蹴り空中を走っていた。

 真架もそれと同時に地面を蹴り彩羽の後を追った。


  *


「前衛が全滅だと?」

 敵将である少女はその知らせに耳を疑った。

「はい!しかも相手はたった六人!後方からの砲撃がありましたがすぐに収まった模様。それでも前衛が全滅したのは確かです」

 砲撃でも大半の部隊が落とされたが、それでもごく一部の部隊だ。だが残りの部隊を立った六人で落とされたのは想定外の事実だ。

「今すぐ部隊を再編制し、前衛へ――――――」

 刹那に、空中からその場に静かに降り立つ影が一つ。

「――――――ッ!?」

 敵将やその場にいた兵の全員がその可憐な侵入者に呆然と立ち尽くしていた。

 ハッと反応したときには侵入者はすぐに消えていた。否、目で捉えなくなるほどの速度で移動したのだ。

 そして、次々と兵が倒れていった。

「ッ!」

 敵将が見たのは侵入者が兵の背後を取り、手刀だけで戦闘不能にしていた瞬間だった。

 兵は逃げる間もなくすべて倒された。

「――――――!」

 気配に気付きすぐに防御態勢に入る。

 案の定、侵入者は背後に回っており手刀を繰り出していた。

 侵入者の手刀を防ぐと同時に少女は魔法陣を浮かばせた。

「………!」

 それに気付いた侵入者はすぐに背後から距離を取った。

「………………」

 少女が発動した魔法は火炎魔法。おそらく当たっていたとしても火傷程度の軽症で済んだ、殺傷能力の少ない魔法だ。

 卓越した戦士ならこの魔法陣に気付き、すぐさまに簡易障壁魔法を張ることが出来る。その程度で防げる魔法なのである。

 だが、侵入者である少女は魔法陣を描き出したと同時に離れた。

 敵将である少女は訝しがった。魔法陣を描くと同時に反応できるものが、この程度の魔法で離れたことに。

 そして少女は気付いた。目の前の侵入者は戦闘自体は卓越しているが、魔法戦に置いては素人であると。

「(動きが速いだけなら、仕留められる)

とか、思ってたりしてないか?」

「―――――――ッ!?」

 敵将は背後の声に、すぐさま距離を取った。

 そして改めて振り向くと、先ほどまで立っていたすぐ後ろに一人の男が立っていた。

「そんなに慌てなくても距離を取る時間ぐらいは待ってやったよ」

「あいにく、そのような言葉を信用する安い耳は持ち合わせていない」

「あっそ。お前ってこの国の軍の総隊長なんだろ?頭首って言った方がいいか?」

「どっちでも同じだ。お前の言う通り、頭首のイーリス・エリアスだ」

「そうか、よかった。約束通り、コイツは俺が貰うぞ」

 侵入者は静かに頷いた。

「お前らも!俺が負けるまで手を出すなよ!」

 岩陰から三人が、空には牛車に乗った少女が居た。

 彼らも静かに頷いていた。

「一斉に掛かってこないのか?」

「必要ない」

「それはどういう意味だ?」

「俺一人で十分ってこと」

「舐めないでください」

 イーリスは腰から剣を抜く。

 男―――真架はその剣に魔法が掛かっていないことを見極めた。

「なるほど」

「行きます」

 イーリスは一気に真架との距離を詰め剣を横に薙ぐ。

 真架は不敵な笑みを浮かべ、左掌を地面に向けて多数の鎖を伸ばした。

「ッ!?」

 イーリスの剣撃は地面から生えた鎖によって防がれる。

 次々と鎖が伸びる。その鎖は蛇のようにしなり、本物さながらに魂が宿っているがごとくイーリスを襲う。

 イーリスは真架の攻撃を後ろに跳び退けながらかわす。

 鎖の猛攻の間にイーリスは地面に触れる。そこに魔法陣を描くと刹那に地面の形状が変わった。

 変化した大地を操り真架の鎖をいとも容易くはじき返した。

 さらに重ねて魔法陣を描き、先まで操っていた地面を砕く。そして、真架に弾丸の如く飛ばした。

 真架の表情はそれでも変わらない。

 左手を前に突き出し、鎖を四方に飛ばす。

 今度の鎖は地面を貫かず、反射し、左手の五本の指を起用に使い、向かってくる礫をすべてはじき返した。

「?」

 真架が気づくと目の前にイーリスの姿がなかった。

「貰った!」

 イーリスは真架の背後に回り込み、そして剣を振り下ろした。

「気づかないとでも?」

 イーリスの剣は鎖によって防がれた。

 だが、今回の鎖は真架の掌からではなく、空間から直接生み出されていた。

 本数は二本。それらは円を作り、真架の周りを高速で回転していた。

「チェーンソーの要領だ。と言っても、アンタらには解らないことだろうけど」

 イーリスは真架の纏った防御結界(鎖)に弾かれる。

 すぐさま態勢を立て直そうと立ち上がるが、イーリスは足に違和感を感じる。何かに縛られている感覚だ。

「――――――ッ!?」

 気づいて足元を見ると、地面から伸びた鎖が足に結ばれていた。

 急ぎ真架に目を向けると、左手から一本の鎖が地面を貫いていた。

 真架は鎖を強く握り、そして勢いよく引っ張った。

 イーリスの足が地面に引かれるが突っかかる。

 それでも構いなし力強く引っ張る。

 すると地面の中を張っていた鎖が抉り出て来る。

 ピンと張った鎖によって引きずられるイーリス。

 魔法陣を描く余裕はなかった。

 イーリスは真架のもとまで引きずられた。

「クッ!」

 動きが止まった瞬間に魔法陣を描こうとしたが、真架はすぐさまにイーリスの掌が上を向くように両手を地面に括り付けた。

「終わりだな」

「そう思っているのなら、お前はまだ戦闘経験の浅い証拠だ」

「アンタだって俺と同い年ぐらいだろうが、アンタは経験があるのか?」

「こういうことだ」

 イーリスの掌に魔法陣が浮かぶ。すると、地面の細かい砂利が真架を襲う。

 さながら散乱銃のように。

「チッ!?」

 出し抜けの攻撃に真架は後ろに飛び退いた。

 その際に手を縛っていた鎖が解ける。

「今度こそ!」

 イーリスと真架との距離は僅か。この距離では真架も空間に鎖を展開できない。

 イーリスは剣を上段に構えた。

「これで!――――――ッ!?」

 刹那、イーリスの視点がぶれた。

「ハア゛ア゛ア゛―――――――――!」

 真架はイーリスの足を縛っていた鎖を一気に振り、間近の岩山に叩き付けた。

 

 怒豪ォォォォォォォォォォォォォォ!


 勢いよく叩き付けられて岩山は砕け散り跡形もなく粉砕された。

「あぁ……しまった」

 真架は砕けた岩山に真っ直ぐ伸びる鎖をゆっくりと手繰り寄せる。

 手繰り寄せられた鎖には糸が切れた人形ようにぐったりとしたイーリスが結ばれていた。

「ヤバい……殺ったかも」

「あれ?そう言えば、殺さないで捕虜にしようって言いませんでしたっけ?」

「あれは私たちが聞き間違いをしたのだろうか?」

「いいや、確かに申しておったの~?」

「鎖さん……」

「いや……頭に血が上って」

 真架は情けなくも言い訳をする。

「安心しろ、息はある」

「本当か、騎士!よかった」

 真架はローランの言葉に安堵する。

「しっかりしてください……」

「わるい……」

 敵将を倒したという事はこの戦は終わりという事だ。

 終われば呆気なかったと、真架や他の皆も妙な味気なさが残った。

『あっ、皆さぁん!敵将倒し終わりましたぁ?』

 迦具夜の牛車に乗っていた通信球から光希がおどけた感じ連絡してきた。

「黙れ、クズ」

『ヒドォ!オレだってさぁ、シャミームちゃんからいろいろ聞いてたんだからさぁ。結構ここのこと分かったよぉ』

「私たちが戦場に赴いている間に貴様は遊んでいたのだな?」

『武士さん手厳しいぃ!あ、そうそう、もし生け捕りにしてるなら連れてきてよ。ちょっと聞きたいこともあるしね』

「そのつもりだ」

 真架はイーリスを簀巻きにして牛車に乗せた。

「それにしても軽症だな。結構本気で叩き付けたんだけど?」

「そのことはソイツが起きてから聞くんだな」

「そうだな」

 真架は今いる場所から元居た王宮を眺めた。

「戦の最中だと気にならなかったけど、遠いなぁ……。メンドくせぇ」

「妾は車があるからの。何も思わぬな?」

「セコイだろ、ソレ?」

「ボクも乗せてくれませんか?」

「血生臭い奴はやじゃ」

 真架はため息を吐く。

 すると――――――

「迎えに来たよ!」

「「「「「「……………」」」」」」

 いつの間にか何処からか、シャミームが真架たちの前に現れた。

「どうやって来たんだ?」

「私の魔法は【ポルタ】と言って、空間に扉を作って行きたい場所に転移することが出来るんです」

「そうか」

 真架は笑顔でシャミームの頭を鷲掴みした。

「イタタタタタタッ!イタイ!イタイですぅぅぅぅ!」

「何で俺らにそれを使わなかったんだ?」

「使おうとしましたし、止めましたよ!でも、聞く耳持たずで行ってしまったじゃないですか!」

「そうか、ならいいや」

「ヒック……姫様ぁ~……」

 泣き出すシャミームを他所に真架たちはシャミームが作ったであろう扉を潜ろうと歩いていた。

「これって、リアル『どこでもドア』だな」

「なんじゃ?それは?」

「未来の秘密道具?」

「そのようなモノは……ワタシが知る中では開発されていません」

「一体、どこの時代から来たのですか、無口さんは?」

「興味深いな」

「あっ、ちょっと!待ってくださいよ!」

 彼らの初陣は戦場を荒しに荒し、異常なまでの強さを誇った。

 真架たちは扉を潜る。

そして、静かに扉は閉じた。


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