Ⅰ章:劣強の王国と七人の異界者
強い光が治まり、真架が目を開くとそこは見知らぬ大広間の中だった。
天井を支える太い柱が七本。その柱にはそれぞれ人の像が手を×に組んだ形で彫られてあった。
「何だろうな?ここ?」
「――――――ッ!?」
広間のことばかり気が向きすぎて、人がいることに気が付かなかった。
「なぁ?ここってどこなのかなぁ?」
「何で俺に聞くんだ?」
「え?ここの人じゃないんか?まぁ、オレと同じような制服着てるし、違うとは思ったけどさ。念のため?」
「なるほど」
「キミもあの魔法陣?に連れて来られたんだろ?」
「どうかな?呑まれたのほうが正しいだろうな。そういうお前もだろ?」
「そうだねぇ?オレは自主的に潜ったほうかな?ほらキャリーバック。着替えもたくさん入れたから着替えるなら貸すよ?」
「ありがとうとでも言えばいいのか?」
前にいる男の格好は俺のいたところと近い服装だ。ここが俺が元いたところとは違うことはうすうす気づいていたが。
「どこだろな、ここ?」
「まぁ、分かったら苦労しなよねぇ。もう少し解かりやすく『ここは【始まりの村】です』とかでも書いててくれないかな?」
「今更だろ?」
歳と出身地が近いからか親しげに話せる人物だ。
「そち、うぬら?」
「「ん?」」
「何やら、珍妙な姿をしておるのう」
「「……………」」
声は幼く綺麗なものだった。髪は床に引きずっていることはないがとても長い。そして服装が平安時代に見られる雅な着物だった。
こっちから言わせれば、コイツの方が変な格好だ。
「リアル十二単だぁ!」
うるさいやつだな……。
「この阿呆が!これは小袿じゃ!」
「あれ?違うんだ」
どうでもいいよ。
目の前の着物の少女。かなり小柄だが、歳はそう変わらないだろう。
それに向こうにも数人いるみたいだ。
「もう少し、話しかけてみようぜ」
「なんか、やけに馴れ馴れしいな」
「歳近そうだし、そんなに場所にも差もなさそうだしね。少なくとも、そこの和服美少女よりは近いだろ?」
「そうだろうが」
「なんじゃ?妾の話かえ?」
「何でもない。あそこにいる奴らにも話を聞く。お前も来るか?」
「一人で居るのも退屈じゃ、妾もついてくぞ」
「その必要はないと思うけど?」
向こうにいた数人も気づき、一か所に集まる。
「Hello!」
そのうちのチャドリ形式のフードを深く被り全身を隠していた奴が話し掛けてきた。
「え?英語か?」
「なんじゃ?何を言ったのじゃ?」
「英語っていう他国の言語だよ。まぁここはオレに任せてよ」
少年が外人と対面に並ぶ。
「Hello!Do you know the here?」
「ノー。はは、英語うまいね。ジャパニーズがいたからついからかってみたんですよ」
「あぁ、なるほどね」
被っていたフードを下す。明らかに外人で天然だろう銀髪、そして前髪に一束の青い毛が含まれている。肌の色は白く、瞳の色は青色だ。
「日本語か?」
「これはオレの見解だけど、おそらくここの言語を話してるんだと思うんだ。オレらを運んだあの魔法陣?を通じてそうゆう仕組みにしたんだと思う。そうしないと意思疎通の段階で破綻だよ」
「なるほど。そういうことなら私も話に加わろう」
甲高く透き通るような声は武士の格好をした男だ。髪は腰までと長く、後ろで一つにまとめていた。腰には二本の刀が差してあった。
「見るからに西洋人であったから話し掛けづらくてな。となるとそこの西洋人も話が通じると考えていいんだな」
「……あぁ」
マントで来ているものがよくわからないが、鎧のようなものを着こんでいるみたいだ。背は高い。俺の身長が一七五㎝だからあと一〇㎝は高いだろうか。肌は白いが髪が黒くウェーブがかかっていて、肩の上に少し届いている。
「これで全員か?」
「じゃないかなぁ?」
「いえ……。後ろにも目を向けてください……」
「「うわっ!」」
後ろから声がかかり振り返ると物静かそうな少女が立っていた。
「いつからいたんだ?」
「先ほど、皆が集まった時に……」
「なら後ろに立つな」
「てか気配もなかったよ?」
着物の子よりは高いが背は低い方だろう。ブロンドの髪は長く手入れが行き届いているみたいで綺麗に整えられている。肌の色が西洋人の二人より白く、不健康そうに見えてしまう。そして表情が凍り付いているように全く変わらない。
「じゃあ、これで全員だな?全員に聞きたいがここがどこだか知っているか?ちなみに俺は知らない」
「オレも知らないよ」
「妾も知らぬぞ」
「ボクも心当たりがないですね」
「私も同じだ」
「知らんな。神殿の作りは私の時代に似ているが……」
「皆さんと同意見です……。ワタシも知りません……」
どうやら俺を含めたこの七人は連れて来られた側の人間らしい。
「ここにいる誰もが知らないって、んじゃあと知ってそうなのって、あそこに隠れてる奴だけか?」
「なんだ気づいてたの?これで全員なんて言うから気づいてないんだと思ってたよ?」
「馬鹿だろ?あんな分かりやすいの、誰も気づいてるに決まってるだろ。なぁ?」
「何だ?あれは隠れていたのか?私はてっきり恥ずかしがり屋なのだと思っていたのだが?」
「出て来んでも、誰もが気づいておるのじゃ。潜んでいるうちにならんわ」
「いつ切りかかって来るか楽しみにしてたんですよね。取らないでくださいよ?」
「出てこないのならそれでいい」
「生体を感知できたので……人がいるのは明らかです……」
「ほらな」
「だね?じゃあ、なんで出てこないんだろうね?」
「知るか。おい、さっさと出てこい!」
俺は一つの柱に向けて呼び掛けた。全員も同じ方向を向いていた。
*
(ど、どうしよう…………!)
全員が私に気付いているみたいで、私が隠れている柱の方を向いている。
(完全に出ていくタイミングを失っちゃったよ。どうしたら…………)
こっそりと覗いてみるけど、呼んでる人はすごい形相だし、その隣の女の子は何考えてるか分かんないし、華やかな人はなんかムスッとしてるし、刀を持ってる人はイライラしてるし、銀髪の人はにこにこしてるけど逆に怖いし、背の高い人は凄い眼で睨んでるし、ヘラヘラしてる人はみんなを宥めてるけどなんか楽しそうだし…………見てるだけなのにもうイヤだよ。
いや、私がそう思い込んでいるだけかもしれない。そうかもしれない。
「おい!聞こえてんだろう!出てきやがれ!」
(ひっ!?)
「そんな言い方したら……余計出てこない……」
「じゃ、こういうのはどうかの?出て来ぬと其方の首を切るぞよ?」
(イヤぁ~!)
「いや、ダメじゃないかな?」
「そう、ダメですよ。首切るくらいなら、腹裂いて内臓取り出した方がきっといいですよ。なかなか死ねないから、より苦しんで死ぬぜ」
(なんか口調が!)
「そのようなのでは脅しにならんぞ。順良くしなければならんだろ?まずはそうだな……出て来んなら腕を切り落とす」
「拷問ならば椅子と固定ベルトを用意した方がいい。あとペンチだな。何か吐かせるなら爪から剥いでいくのが常識だろう」
(そんな常識知りませんよ!)
どんどんまずい状況に向かって言ってるよ。コワい、この人たちコワいよ。
何かこの場を和ませないと。
明るく『ようこそ~♪』って行こうか?いや、『舐めんじゃねぇぞ』ってキレられて殺されるよ。
じゃあ、ちょっとシリアス調に『よく来ましたね』って行くか?いや、『上から目線で何言ってんだ!』ってキレられて殺されるよ。
ならば、潔く『すいませんでした。急に連れて来られて驚きましたよね』『ザケんな!いきなり連れて来やがって、殺す!』。
あれ、これって詰みなのでは?
どの道、殺されるよ!
(助けてください、姫様!あっ、姫様から頂いたロザリオが!)
震える手で持っていたロザリオを床に落としてしまう。
それを拾おうとしゃがむ。
刹那――――――
斬ッ!斬ッ!斬ッ!斬ッ!斬ッ!斬ッ!斬ッ!斬ッ!斬ッ!斬!斬ッ!斬ッ!斬ッ!
私が持たれていた柱が乱雑に細かく切り刻まれた。
「……………ぇ?」
「ん?避けたか。気配は消していたはずだったんだがな」
二本の刀身がギラリと光を放つ。
「キヤァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!」
こ、殺される!
逃げなきゃ!遣られるぅ!
「キャッ!」
誰かにぶつかり、その人の顔を見上げて覗く。
「何だ?女か?剣を抜く必要はなかったな。それとも手にナイフでも握られていたか?」
ぶつかった人は背が高く、握られていた両刃の剣は長く鋭く鮮やかに光っていた。だが、その刃に赤い液体の乾いた跡があった。
男がそれに気付く。
「血を拭き忘れていたか?」
「イヤァァァァァァァァァァッッッッッッッッッ!!」
この人も危ない!
どこに逃げれば!
「やあ、お嬢さん」
「ヒッ!」
「まぁ、そんなに怖がらないでくださいよ!」
目の前には銀髪の男。
「でも、キミの肌って綺麗ですね。切り刻みたくなりますねぇ♪」
猟奇的な笑みを浮かべ爪を噛むその姿は人間なのか疑わしくなる。
「そち、そのような勝手は許さぬぞ」
華やか女の子が扇で口元を隠しがら寄ってくる。
「しかと桶に血をためておいて置くじゃぞ。女子の血に浸かることは艶やかな肌になる源なのじゃ」
扇で口元が見えなかったけどこの人、笑ってるよ。
「助けてェェェェェェェェェェェェェ!――――――キャッ!」
「おっと、大丈夫?」
また、人にぶつかる。今度はチャラチャラした人だ。
「だ、大丈夫……」
「そう、それはよかった。で、そんなことはどうでもいいんで、君に聞きたいんだけどさ。ここってどこなのかな?地球なのかな?「あの……」もしかして違ったりする?ならどこなんだろ?過去?未来?でも時間移動だとタイムパラドックスが「ちょっと……」発生するよね?じゃあもしかしてパラレルワールドってやつ?オレたち全員異世界の住人ってこと?それぞれが別々の時空から「多い……」連れて来られたってことかな?ねぇ、どうなの?あってる?ね?ね?ねぇ?」
「えっと……聞き取れませんでした?」
「だから、オレらは時間の縦移動じゃなくて、時空の横に移動したってこ――――――」
「少し……落ち着いてください……」
「あっ!ゴメンごめん!つい、知識欲が」
「大丈夫でしたか……?」
「あ、う、うん……」
この子、表情がない。ちょっと、違う意味で怖い。
「おい!」
「ハッ、ハイっ!?」
後ろから急に声をかけられ、振り向くと目の前に落ち着いた雰囲気の男の人が立っていた。
(あっ、さっき怒りながら呼んでた人)
「あのさ?」
「ひっ!殺さないでぇ!」
「誰が殺すか!それより聞きたいことがあるんだけど」
「質問攻めはやめてくださいッ!」
「ソイツと一緒にするな」
「は、はぁ……」
「おい、ここは俺が代表して質問していくけど、いいか?」
その人はそう問うと、他の人たちもそれに賛成する。
「まず、お前はこの世界の人間か?」
「は……はい!そうです!私はここの住人です!」
「そうか、それが分かればいい。もう少し質問するぞ」
私は彼のその笑みに優しさを感じたのだった。
*
俺は目の前にいる少女にいくつか質問する。
「ここは一体どこで、何で連れて来られたんだ?」
「はい、国名をエスペラ王国と言って、ここはその国王の住まう城です」
「王宮ってことだねぇ?」
「連れてきた理由はは、いま私たちは戦争中で劣勢に追い込まれているからです」
「それが妾たちを連れてきた理由かえ?」
「はい。この戦に負けるといよいよ後がないんです」
「どのぐらい負けが込んでいるのだ?」
「前国王が戦死して、今の戦の指揮権は姫様にあります。姫様は戦を避けるように取り組んでいらしたのですが、指揮の低下した気を狙われ、今に至ります。ここで負けてしまうと私たちの国の戦力が下がっていることの証明になってしまい、そうなってしまえば他国からの侵略が活発になってしまいます」
なるほど、国王が死んでしまい、甘ちゃんの姫様と奴が指が揮権を持ってしまったから戦で力が最大限引き出されないってことか。
「それでさぁ?そこでオレたちが呼ばれて、何の意味があるんだい?」
「さっき言っていたではないか?この国が劣勢になってしまい、戦力が低下してしまったからだろ?」
「いやいや武士さん、そうゆうことじゃないんですよ。武士さんと騎士さんは武器も持っているし、戦慣れしてるかも知れないけど、オレや着物ちゃん、無口ちゃん、銀髪さんはどうか知りませんけど、オレと同じ時代ぐらいから来てるこの人は戦なんて体験してないと思うんだぁ。それに魔法―――武士さんと着物ちゃんには妖術って言ったほうがいいかな―――そんなの使ってる世界だよ。オレはそんな力なんて持ってないよ」
「妾も持っておらんぞ。陰陽師ではないからのう」
「私もだ。刀と剣術を極めたぐらいだからな」
「ボクもですよ」
「私も使えない。神の加護が宿っているこの聖剣を一つ持っているが」
「ワタシも……」
「……………俺もだ」
「その点は大丈夫です」
この国の少女は誇らしげに胸を張り、説明する。
「皆さんはあの魔法陣を通過したことにより、自分の魔法を手に入れています。試したらいいですよ」
「って、言われてもな」
「使い方わからないんだけど」
「自分が最も望むものを想像してみてください。その望んだ魔法を使えるはずです」
俺の望んでいるもの……。
そう言われて、俺の脳裏に様々なものが思い浮かばれてくる。
こういうことなのか。
「皆さんどんな魔法でしたか?」
「オレはこれだよ」
馴れ馴れしかった男が魔法陣を浮かべると『銃』が現れた。
「なかなかのものだ」
武士が魔法陣を浮かべる。すると腰に差していた『刀』の形が変わる。
「我が剣もさらに神々しさ増したようだ」
騎士は手に魔法によって形を変えた『剣』が握られていた。
「妾はうぬらみたいな武器ではないのう」
着物の少女は持っている『扇』に魔法陣が描かれている。
「へぇ~ボクのはこれなんだ」
銀髪の西洋人は小手に刃渡りの長い『ナイフ』が三本ついている。
「ワタシは……」
無口の少女は右目に『モノクル』、裸足だった足には羽のような装飾がついた『ブーツ』、そして『大鎌』を握っていた。
「皆さん具現化系の魔法でしたか。で、アナタは?」
「ん?俺か?」
この国の少女は俺を指し説いてくる。
「………………」
少し考えてから、俺は左手を前に出した。
「これが俺の能力だ」
掌から『鎖』が現れる。それは植物が生えるように、そして触手が蠢くように。
「『鎖』、ですか?」
「あぁ?」
これで全員の魔法がわかったことになる。
「それで本題だ。俺らにこんな力を渡して何がさせたいんだ?」
「はい。これは強制ではありません。断わっても結構です。皆さんに我が国の
―――勇者―――
になってください!」
「わかった、いいぜ」
「軽いですね!」
「別にいいだろ?別に元の世界に戻してほしいわけでもないし。まぁ、これは俺個人だから、皆は?」
「オレもぉ。戻ってもつまらないしね」
「ワタシも……」
「妾ものぉ。別れを告げたのにのけのけ往ねぬわ!」
「私もだ。ここの強者と戦いたいからな」
「ボクもですね。戦争って興味あったんですよね。なんてったって人を殺しても何も言われないからな」
「……今度こそ守って見せる」
「な?全員おなじ意見だっただろ?」
「何か皆さん、清々しいですね」
疲れたように脱力させる少女。
「あっ、私、自己紹介してませんでしたね?シャミームです。シャミーム・アウ・ディレットです」
「そう、よろしく」
「で?皆さんは……」
「じゃあ、戦に行く前に決めようか」
シャミームの言葉を遮り、俺は全員に投げかけた。
「誰がリーダー……頭首になるかだ」
「「「「「「「「……………………」」」」」」」
全員が口を閉ざし、沈黙が訪れる。
「あ、あの、皆さん?」
「これは提案なんだけどさぁ」
馴れ男が皆に問いかけた。
「今回は単独行動ってことにして、この戦で先に敵の頭を倒した人が首領ってことにしない?」
「「「「「「…………」」」」」」
「えっと……皆さん?」
「おい、シャミーム」
「は、はい!」
「敵の頭って敵の国王か?」
「えっと、違うよ。戦の指揮権がある人が敵将で、戦の最中においては国王よりも強い権力を持つんだよ」
「なるほど。誰がそれなんだ?」
「大体は一番強い人がなるんだけど……」
「よし。その話乗った」
「是非に及ばず、じゃな」
「構いません……」
「ボクもいいですよ。敵殺していいなら何でも」
「強者を倒す。分かりやすいな」
「いいだろう」
「じゃあ、決まりだねぇ」
「本当にそれでいいのですか?」
シャミームの言葉に反応する者はいなかった。
そうして、俺たちのこの世界初めての戦の幕が上がろうとしていた。




