*エピローグ*
Purrr……Purrr……
真架の耳の奥で携帯の呼び出し音が鳴る。
真架はシャミームの魔法でこっちの空間と向こうの空間を繋げてもらったのだ。
向こうとは、もちろん―――
〈はい、もしもし……〉
「あ、もしもし、史乃か。俺、真架」
〈………………〉
返事がない。
真架は耳を澄ますと、
〈何をしているのだ、貴様はぁぁぁぁぁぁ!〉
いきなり怒号が飛んできて、右耳からキーンと音が響く。
携帯を左耳に押し付ける。
「いきなりでかい声出すなよ、神西」
〈度の口が言う!いきなりは貴様だ!いきなり姿を消した!我々がどれだけ心配したと思っているのだ!それをぬけぬけと!…………もういい、佐伯と変わる〉
「てかこれ、史乃の電話だろ?何で神西が居るんだ?」
〈知るか!〉
去り言葉を吐いて、声の主が変わった。
〈もしもし、真架くん〉
「よう、史乃」
佐伯史乃。向こうに居たときの学校のクラスメイト。
同じように、何かしらの呪いをその身に受けている。
そして、あの日―――真架がこの世界に召喚された日、呪いを持っている者たちで集まり解呪の儀を行ったのだ。
「呪いはどうだ?解けたか?」
〈うん、皆祓えたよ。真架くんは?〉
「聞くだけ野暮だよ。察しろ」
〈そうか……今どこにいるの?〉
「どこだろうな?まぁ、お前らが理解できる言い方するなら、異世界」
〈なんだろ、こういうのよく聞く展開だね?〉
「感想一発目がそれかよ。納得するのかよ?」
〈呪いがあるんだから、異世界だってあっておかしくないよね〉
「ごもっとも」
〈それにもうすぐであの日から一ヶ月も立つからね。それだけ間行方不明なら、それも信じるしかないでしょ?〉
一ヶ月。真架は心の中で呟いた。
〈戻れるの?〉
「まぁ、戻れるのは戻れる……らしい」
〈………戻って来るよね?〉
「いつかな。今ではない」
〈そっか……そっちはどう?〉
「こっちは………」
ふと、部屋の外に待機するシャミームを見る。
あの六人の顔を思い出す。
「悪くない」
〈そう……〉
少し間が空く。
〈絶対、戻って来てね。その時はそっちの話、皆にもしてよね〉
「あぁ……。あと、それから、皆に言っといてくれ」
〈うん……〉
「おめでとう。それと、俺が帰るまで宴会は待ってくれ、ってな」
〈分かった………じゃあ、元気でね〉
「おう」
〈百鬼!〉
「なんだ、神西?」
〈呪いを解いてから帰って来い。でなければ、いつまでも宴会が出来んからな〉
「あぁ……じゃあ、またな」
真架は携帯の通話をOFFにする。
「シャミ!」
外で待つシャミームを呼ぶ。
「な、何ッ!」
少し声が震えている。
真架は察した。
「コレ、預かっててくれ」
「えっと、これは?」
「通信球みたいなものだ。お前が預かってくれ」
「わ、分かったよ」
「それから、俺はまだ帰らねぇから」
「え?」
真架はシャミームを横切り魔導船の窓から夜景を見る。
「だって、俺はエルレランの頭首で、勇者だからな」
真架は紺の中に浮かぶ白い円を見つめた。
俺はあの世界が憎かった。
でも、今はそうでもない。
向こうでも待ってくれる奴が、また出来たから。
だから、この世界に来てよかった。
この世界は、この世界なら――――――
「好きになれそうだ」