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Ⅷ章:覚悟の英装

 エルレラン騎士団領。

 城の敷地内に設けられた騎士や兵の専用地だ。

 その中は慌ただしい空気が流れている。

「そうか……なら、そのままロマリウスに例の情報を流してくれ。……あぁ、頼んだ」

「フィオウル?」

「あぁ。彩羽、準備はどうなってる?」

「予定通り。今、別室でコウキが今回の作戦を兵隊に説明している」

「そうか」

 真架は通信球を机の上に置く。

「光希のが終わったら、皆部屋に集合な。サイードから敵幹部と頭首の情報を説明してもらうからな」

「分かった」

 彩羽は通信球を取り魔力を流す。

 それを見て真架は部屋を出ようとする。

「どこ行くの?」

「体動かしてくる。確かローランと晴代が稽古場に居ただろうし」

「そう。なら、ローランとハルヨには言っておいて。カグヤとジャックには言っておくから」

「あぁ」

 真架は部屋を出る。そして、そのまま稽古場に向かう。

 覚悟を決めた眼が鋭くなる。


「どうした、真架?緊張でもしているのか?」

「…………」

「まぁ、緊張はするわ。なんてったって、これが俺の頭首としての初陣だからな」

 ローランと晴代は魔法で強化した武器を手にしている。

 魔法による特訓をしていたことが見て取れる。

「それで……そんなこと言いに来たわけではないのだろ?」

「多分これからも、俺とローラン、晴代は前線で戦っていくだろう。だから、最初に俺の魔法を見せておきたいと思ってな。連携とかのことがあるだろうしな」

「光希に見せようとしていたが、光希の手が塞がっていて私たちのところに来たのだろ?」

「さすがローラン。まぁ、そうなんだけど。モノって言い様だろ?」

「そうだな」

 三人はお互いに微笑んだ。そして、真剣な顔つきに戻る。

 真架は背後に十の魔法陣がそれぞれ線を繋いで浮かんでいた。

「これが俺の魔法『生命の(セフィロト)』だ」

 真架は右手と左手に魔法陣を浮かべる。

「ケテル→マルクト。単体が基本だが、こんな風に魔法と魔法を繋げる『連結魔法』を使って様々な効果を加える」

 真架は魔法陣と魔法陣を合わせ、剣を取り出した。

「本来、専用魔法は一人一つが原則。ゆえに連結は汎用魔法と使うのが基本。だが真架は魔法陣が十もあれからこそ、魔法陣同士の連結が可能。と言う訳か」

「だが、これにも弱点があってな。単体での発動は一つ一つに厳しい発動条件がある。連結も後ろのコレの通り繋げれる場所が決まっている。例えばケテルとマルクトは直線で繋がってるけど、ケセドやゲブラーとは線が繋がってないから連結が出来ない」

 真架は剣を消す。

「なるほどなぁ。単体であれ連結であれ決まりがあるのは痛いな。私やローランのように発動の決まりが軽いものと比べると使い勝手が悪いな」

「そうなんだよ。俺もこれに気付いたのはシャミの話を聞いた時だし。慣れるまでが嫌だな。俺も強化系魔法が良かった」

「その分、強力なものなのだから良しではないか」

「まぁな。他に聞きたいことはあるか?」

「私は特にないぞ」

 晴代は真架の魔法を見て納得した。

「私からいいか」

「なんだ」

「なぜ、それを教えた。多分だがお前が今まで教えなかったのはその魔法が我々の抑止力になると考えたからだろう?現に私もその魔法を見てそう考えた。おそらく、私がその魔法を手に入れていたら隠していたと思う」

 ローランは睨むように真架を見つめた。

「この魔法の一つに『仲間を傷つけてはならない』と言う意味合いの条件で発動するものがある。だから、と言いていい。それに俺はこの魔法でお前らと争う気はないしな。まぁ、呪いだけでも俺は強いからな」

「それでこそ、お前だな。……次は私か。『不滅の聖剣(デュランダル)』だ。強度を上げる効果がある」

「私は『鬼切丸』と『蜘蛛切丸』だ。『鬼切丸』は腕力を強化、『蜘蛛切丸』は脚力を強化する。発動条件は必ず何かを切らなければならないという事だ」

「二人とも前衛に持って来いの魔法だな。その魔法だと連結しやすそうだよな。俺もそう言う魔法がよかった」

「そう言うな。私はお前の鎖の能力が欲しいぞ」

「私もだ」

「まぁ、これはノーリスクだしな」

「ぬしらなんだか楽しそうじゃの?」

「何か面白い事でもしてるのですか?」

 三人で魔法を話し合っていると迦具夜とジャック、その後ろに彩羽がやってきた。

「オレだけ除け者とか酷いじゃないかぁ!」

 さらに、遅れて光希までやって来る。

「全員集合ですね」

「光希。何を持っているんだ?」

「よくぞ聞いてくれました、ローさん!」

「密かに作っておいた、オレたちの戦闘服です!」

「お前、服も作れるのか」

「織物工場があったからね。結構早く作れたよ」

 光希は袋から服を取り出し、それぞれに配った。

「さて、これで本格スタートだけど、頭首から何かありますか?」

 光希から話を振られた真架はそれぞれの顔を見る。

 全員は真架の顔を見つめている。

「俺たちのやることはこの国の皆を守ることだけど、俺はそれだけが俺たちの呼ばれた理由だとは思っていない」

 真架は左手を見て、握り拳をつくる。

「俺は人を殺したくない。たとえそれが敵国の奴だとしてもだ。人にはそれぞれ守るものながあるし、死んで悲しむ人がいるからだ。

 だから、皆にもお願いする。人はなるべく殺さないでほしい」

 甘い。それは真架自身が自覚している。

「敵国を潰して、領土を奪うんじゃない。敵国を味方にしてこの国を守りたい」

 皆は黙って真架の話を聞く。反論はない。

「だけど、大切なものを守るために敵を殺さなければいけないのなら、迷わず遣れ」

 真架は顔を上げる。

「俺がこの世界を統一してやる」

 真架の言葉に六人も黙っていなかった。

「『俺が』じゃないでしょ」

「生意気じゃの」

「ボクはそれでいいと思いますよ」

「私たちはお前の家来だ。お前の大望に付き合う覚悟は出来ている」

「皆で戦いましょう」

「真架」

 ローランは真架の肩に手を置いた。

「お前は私たちの大将だ。お前の言葉が私たちの言葉であり、お前の願いが私たちの願いだ」

「あぁ、俺たちが世界を変えてやろう」

 全員が頷く。

「光希、広場に全兵を集めてくれ」

「OK!」

「じゃあ、行くか」


  *


「ここに居たのか、シャミ」

 真架がシャミームを探して訪れたのは真架たちが召喚された広間だ。

 シャミームはその柱の一つに祈りを捧げていた。

「あっ、真架。どうしたの?」

「渡さなきゃいけないものと、集合の知らせ」

「そうなんだ。渡すものって?」

「これ」

「服?」

「それを着て集合だから」

 シャミームはまじまじと渡された服を見つめた。

「これ、誰が作ったの?」

「光希だ」

「一気に着たくなくなったよ」

「大丈夫だ。今回はまともなやつだ」

 それならいいけど、とシャミームは微笑む。

 そして、柱を向く。

「これはね、エルレランの守り神なの」

「この七つの柱に彫ってある像がか?」

「うん。一つは晴代に斬られたけど、まぁ直ったしいいかな」

「罰が当たらなきゃいいが」

「これから戦争なのに不吉だよ!」

 シャミームはふざける真架を叱りつける。

「私が七人を呼んだけ呼んだのは、これに由来するんだ。これから召喚する七人が、守り神の化身でありますように……って願いを込めたの」

 真架は黙って柱の像を見た。

「真架たちは立派な守り神の化身だよ!」

「バァ~カ」

「あう!」

 真架はシャミームの頭をこつんと叩く。

 シャミームは叩かれたところを抑えて涙目で見つめた。

「俺らは神様の化身なんかじゃねぇよ」

 真架は手を差し伸べる。

「勇者だよ。守り神も驚きの、最強のな」

「――――ッ!うん♪」

 シャミームはその手を取り、二人で歩き出した。


  *


 頭首専用の待機室には九人が集まっていた。

 まずは勇者である光希、ローラン、晴代、ジャック、迦具夜、彩羽。

 その使用人兼戦闘員のイーリスに、エルレラン密偵になったサイード、アルハイユ。

 それぞれが光希の渡した軍服に着替えていた。

「良かったよ。皆ちょうどいいぐらいみたいで」

 光希の専用服は竜騎兵用の軍服風で割と分厚めの服だ。

「うむ。悪くない。よくこのようなものが作れるな」

 晴代は役割的には重騎兵なのだが日本人の武士という事と彼女の魔法を考慮して武士がよく着る着物にした。前線で戦うのに装備が軽騎兵並というアンバランスさだが、彼女なら大丈夫だろうと言う意思を込められている。

「中々の着心地じゃ。ぬしが作ったと聞いたときはどのような物が来るかと安げ無く思うたわ」

 迦具夜は光希と同じく竜騎兵の役割で、来ている服は平安の礼服だ。光希が作るのに一番手間と時間を食わされた逸品である。だが、その甲斐もあってか上等なものに仕上がった。本来では考えられない服装ではあるが、見た目よりも軽く丈夫で、強力な魔法を受けても身体に傷がつくことはないと言える。

「すごくしっかりしています。コウキが作っていなかったらもっと着心地がよかったことでしょう」

「何気に酷いね」

 彩羽の役割は軽騎兵および偵察。その為、装備は七人の中で最も防御力がない速さ重視の服装になった。燕尾服のようなものになっており、機動性に優れており偵察には便利な作りになっている。

「これを一人で作ったのですから凄いですね」

 ジャックの役割は軽騎兵で、服装は彩羽同様軽めのものだが彼には防魔法性の高いトレンチコートを着ている。彼の着ているトレンチコートは膝丈を超すロングコートで殆ど全身を覆う感じにつくられている。長い分機動力は彩羽より落ちるがそれでも十分な速さを誇るだろ。

「確かにすごいとは思うが……どうも、私のは手を抜いた感じがするな」

 ローランは典型的な重騎士なため身にプレートアーマーを纏っている。その為、ローランだけは服ではなくマントとなっている。

「まぁまぁ、そう言わずに…………」

「まぁ、気にいっているからいいが」

「なら言わないでよ」

 勇者たちの軍服はそれぞれ種類は違うが、部隊のメインカラーは統一されていた。

「なんていうか、俺のは凄いこってるな」

「一番力入れたから。何てたって頭首なんだから」

 シャミームと共に部屋に入ってきた真架が身に着けていたのは様々な肩章がついた黒の軍服。コートのようで、裾も割と長い。真架はそれをボタンで留めずに崩した感じに着ていた。

「真架くん、それはしっかり着た方がいいよ!」

「別にいいだろ。戦えたらそれで」

 シャミームたち他のメンバーも光希が作った服を着ているが、どれも勇者たちに比べるとどれも同じようなものに見える。

 違いを上げるとしたら、イーリスとサイードがズボン、シャミームとアルハイユがスカートを穿いていることぐらいだろう。

「それより真架」

 切り出したのはイーリスだ。

「兵を集めて何をする気だ?」

「見てたら分かる」

 そう言ってから真架たち勇者は部屋の外に出て、外の広場に向かった。

 シャミームたちも首を傾げながら後を付いて行った。


  *


 城内にある広場。そこにすべての兵が集められた。

 兵だけではない。シャロームもそれを会議室のテラスから見ていた。

 兵たちが見上げるのは誰も乗っていない壇上。

  カツ……カツ……。

 壇上に続く階段を上がる音が響く。

 そして、全員がそこに立つ者たちの姿を捉える。

 勇者である七人が横に一列で並んでいた。

 階段の下にはシャミームやイーリス、サイードとアルハイユが壇上の七人を鋭い目つきで眺めていた。

 真架が一歩前に出る。

 一度、全体を見渡し、息をゆっくりと吸い、吐いた。

 そして、目を見開いて、真架を見る全員に向けて告げた。

「俺たちは守護神じゃない」

 広場の中は静かだった。唯一、シャミームがハッとした表情になった。

「勇者でもない。お前たちと同じ人間だ」

 これにはテラスで見ていたシャロームが心を揺さぶられた。

「俺たちは七人で一国の部隊を倒した。敵が弱いわけではなかった。敵が油断した。それだけだ」

 イーリスは胸に握り拳をつくった。

「俺は途轍もなく甘い人間だ。敵国の密偵者すら仲間に引き込むほどに」

 サイードとアルハイユが苦笑いを浮かべた。

「そんな俺でも、認めてくれる仲間がいる。それが支えであり、誇りだ」

 後ろの六人がそれぞれ違う反応を取る。

「知っての通り、ここに立っている七人はエルレランの人間じゃない。最初はこの国のことなんて何も考えていなかった。だけど、この国で暮らした数日が俺たちの気持ちを大きく変えた」

 七人はそれぞれの思いを頭に浮かばせた。

 活気の溢れていた街並み。

戦争で親を失った子供たちのこと。

ここで触れた人の覚悟。

その思いが広場の兵士全員を振り向かせる。

「皆、それぞれで戦う理由が違うだろう。国のためもあるだろう。家族や大切なもののために戦う人だっている。戦う理由がある奴は強い」

 真架は広場の兵に投げかける。

「俺を認めてくれる者はここに残れ!そして、戦う覚悟がある者が俺たちについて来い!俺たちがこの国を、この国で暮らす人たちを守る!だから、お前たちは生きてこの国に戻って来い!死ぬ覚悟なんていらない!生き抜く覚悟を持って戦え!」

 真架は腕を高々と挙げた。

「俺が頭首の限り、エルレランを落とさせない!全員、俺について来い!」


『オオオオオオオオオオオッッッッッッッッ!!!!!!』

 広場の全兵士が真架の声に盛大な歓声で答えた。

「お前らも、頼りにしてるからな」

 真架は振り返って六人に素直な言葉をあげた。

「フッ、任せろ」

「真架の大望、私もお供させてもらう」

「妾もずっと傍に居させもらうのじゃ」

「ハハッ、興奮してきた」

「ワタシも、お役に立ちます」

「オレだって、参謀として頑張るよ」

 真架は口元を緩めた。

「行くぜ」


 

 これが真架の本当の才能なんだよ。

 シャミームは階段を降りて来る七人を見つめて、心の中で呟いた。

真架には人を引き付ける何かがある。心理学でも呪いでもない。真架の才能。人に好かれやすい、この才能が最も、この世界で重要な力なんだよ。

「おい、シャミ」

「な、なに!」

「出発だ。ロマリウス、落とすぜ!」

 先に行く七人の背中を見てシャミームは改めて思う。

 真架たちはこの国の勇者だと。

 彼らの背中はそう思わせるほど大きく見えたのだ。

「今行く!」

 シャミームはその背中を追いかけて行った。

 何せシャミームは真架のパートナーのだから。

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