余章:ロマリウスの眼
ロマリウス王室内。
「ん~……………」
「何か見えたか?」
「あぁ、大したことは見えないな~」
シャヒードは左目を隠して右目を見開いていた。
その右目には魔法陣が浮かんでいる。
「いつ見ても便利な魔法だ」
「でしょ?『時の番人』、神秘系では一番規格外の魔法だと自負しているよ」
シャヒードの魔法は『時間干渉』をおもな能力とした神秘系魔法。
両目に魔法陣が描かれており、右目と左目とで能力が多少変わって来る。
右目の魔法陣は『未来視』の能力を持つ。
シャヒードの右目に三つの未来画像が映る。一つは一日後、一つは一週間後、そして一ヶ月後の未来だ。
映る画像は上空から見下ろす形になる。見たい未来を一つ選択すると、その画像が動画と変わり、他の二つは消える。そして、選んだ未来画像の日数の間は『未来視』が使えなくなる。
「動かしてみては?」
「もったいないよ。画像だけでも見れれば大体は推理できる。滅多に使わないよ」
「そうか」
「大したものは見えなかったなぁ。あっ、オルガありがと」
「礼などいらない。仕事だからな。だが、唯一の難点はそれだな」
「そうだね」
弱点を上げるとしたら『未来視』を使っている間は左目を閉じなければならない。右目で未来を見ているのだから、視界を完全に塞いでしまうことになる為、戦場では使えない。さらに、見たい場面が見えるわけではないので、断片的であり、シャヒード自身の推理も正確性に欠ける。
「どんな未来が見えたんだ?」
「ん?あぁ、一日後は特に何もない。一週間後はエルレランがユルティルとニルドエイロに軍を動かしていた。一ヶ月後は特に何もなし」
「どこが大したことないって?」
「大したことないさ。俺たちが関与してないところでつぶし合ってくれるんだからな」
愉快そうに笑うシャヒードを横目にオルガはため息を吐いた。
(シャヒードは知っている)
未来は完璧には把握できないことを。
そして、人間がそんなに単純ではないことを。
知っているからこそ、シャヒードは楽しんでいるのだ。
「あぁ、楽しみだ」
シャヒードは小さくつぶやいた。