Ⅶ章:開戦の狼煙
真架とシャミームの二人が扉の魔法によってたどり着いたのは城の正面だった。
フィオウル大国。
会議で見た色付きの地図で茶色だった国。
公的に同盟を組んでいる四国のリーダー的な立ち位置にある国で、政治も治安もいたって良好。
食や織物の文化が発達しており、香辛料や絹織物を輸出することで財政を整えている国だ。その為、軍事に置いては同盟四国の中では弱小なのである。
「それでも、光希の読みじゃ、フィオウルが代表なんですよね?」
城内に上げてもらい、王室に向かう廊下を歩きながらシャミームが真架に確認の質問をする。
「あぁ、光希が言うには『軍事の強さより、政治の強さを優先している』らしい。まぁ、確かに混乱の多い国より安定して豊かな国の方が仕切るにはいいのかもしれない。俺らの世界じゃ考えらんないがな」
「こっちでもそうだよ。この様なケースは稀だよ」
「光希は言わなかったけど、その点でもロマリウスが関与してるって示唆してるだろうな。ロマリウスほどの国土と軍事力を持ってたらどこの国が代表だろうと関係ないしな。むしろ、弱い国の方が扱いやすいんじゃないか?」
ロマリウス帝国のように強い国は弱い国を支配する。この構図はどの世界であろうと成り立つ仕組みだ。
それをうまく言葉にするとすれば『植民地』という言葉が合うだろう。
戦争によって手に入れた国を自国領として支配する。この時、国名は奪われないが民の人権は著しく侵害される。腐った制度だ。戦時の日本がいい例だ。
「要するに、フィオウルはロマリウスの植民地だって言いたいの?」
「公的には未発表だから余計たちが悪い。って、これって許されるのか?」
「ううん。それは大陸憲章に大きく外れるよ」
「大陸憲章?」
「うん。ムータリオ大陸には四つの帝国があって、その国が代表となって決める絶対的な憲法だよ。もしこれが破られたらその国に軍事的処置が行われるの」
真架はその話を聞き、自分たちの時代の国際連合を思い出す。
「なるほど。国連の縮小版って訳か」
「国連てのが何かわからないけど、そんなことをしたら不利になるのはロマリウスの方だからしないと思うけど」
「だから『不平等条約』か。下種が」
光希が予想したこの関係の条約内容を思い出す。
真架はロマリウスに再び苛立ちを覚える。
それを見てシャミームが真架に告げた。
「真架ってやさしいよね」
「は?」
「だって、今みたいな時代じゃ自分のことが精一杯だよ。私もそうだし、皆もそう。でも、真架は皆のことにも気を配ってる。だから………」
「それは違う」
真架はシャミームの言葉を遮る。
「俺だって自分のことしか考えてねぇよ。でも、自分のことだけを考えて、そしてそれが相手の助けにもなるってざらじゃねぇの?お前だってそうだろ?」
シャミームは俯きながら口を閉じた。図星だ。
世の中の流れはすべて『個人』を中心に回っている。一人ひとりにその人の物語があり、より良い物語をつくる為に『個人』は『相手』を助け・助けられを繰り返すのだ。
真架の物語も、シャミームの物語も、話は違うが仕組みは同じだ。
「顔を上げろ。着いたぜ」
シャミームは気を引き締め、前の扉を見据えた。
「作戦開始だ」
*
光希が立てた作戦は、ハッキリ言って作戦と呼ぶにはあまりにも出鱈目なものだ。
王室に入ってすぐに奇襲。それだけだ。
奇襲と言っても王を襲うのではない。
襲うのはロマリウスの監視員。
ロマリウス帝国が実質的に四か国を支配しているのなら、四か国から反乱を起こされる可能性を考える。その為、監視のための使者を置いておくのは支配する側としては当然の心理と言える。
自分以外の他人を信用しないからこそ『支配』が成立するのだ。
さて、光希が立てた作戦は単純だ。
王室に入ってすぐの敵から向けられる気配を感じて、捕らえ、気絶させる。
そんな普通の人間には出来ないような作戦なのだ。
だが、真架たち勇者部隊の面々はその細かな気配を感じ取ることが出来る。
魔法でも魔力探知でもない。彼らが過ごしてきた環境によって身に着けた、身体的技能なのである。
無理な要件?難しい?否、彼らにとっては無難な要件で、容易なものであるのだ。
ゆえに、彼らは入出と同時に、いや、扉を開けたと同時に仕掛けるだろう。
「……とまぁ、こんな感じかな」
「無茶苦茶ですね。そんなことが普通できるんですか?」
「出来るよ。でも、出来てもらわなきゃ困るってのも含まれるけど」
光希はアルハイユと城に残り、戦争の準備―――もとい作戦を立てていた。
アルハイユはもとロマリウス出身という事もあり、細かい地形を書き出していた。
「魔力探知をした方が正確じゃないですか?」
「魔力探知は自身の魔力を周囲に拡散することで相手の魔力の性質を読み、姿を捕らえることだよね?」
「改めて何ですか?」
「確認だよ。魔力探知には二つ弱点があるんだ」
「弱点ですか?」
アルハイユは小首を傾げ、光希に顔を向ける。
「まぁね。一つは、自身の魔力を飛ばしていることだね。自分を中心に魔力を広げるんだからちょこっと計算したら自分の場所が割れてしまうんだよ。戦争時には奇襲を恐れる時だけ使うようにしてるらしいけど、奇襲っていつ襲ってくるか分からないから奇襲なんだよね。そんなにタイミングよく引っかかる訳ないんだから、戦争には向かないね」
「確かに……」
「そしてもう一つが、すぐに気付かれることだよ」
「えっと、どういう意味ですか?」
「サイードさんやアルちゃんがこの国に入った時、魔力探知に引っかかった、ってすぐに気付いて、その対応として二手に分かれたよね?」
「はい……。あぁ、なるほど」
「そう。相手の魔力を直接浴びるからね。普段受けることない魔力を受けるんだから、すごく敏感に感じると思うよ。だから、それ相応の対策だって練れるわけなんだよ」
「…………」
アルハイユは感嘆で声が出なかった。
確かに、今までは便利だから使っていたし、その光希の挙げた弱点もよく考えると思いつくことだ。
だが光希はこの世界の住人ではない。
たかが数日でその『当たり前』だった弱点を指摘している。
人間は分かっている常識的なことを深く追求しない。
頭の良い人には二つの才能がある。他人の知らないことを知っている才能と、『当たり前』のことを深く思考する才能だ。
『常識』から生まれる『非常識』があるのだから、『非常識』な出来事には『常識』が必ず必要になって来る。
「魔力探知を使って余計な火種を招くより、使わずに捕らえて味方を増やす方が、断然お得だよね」
アルハイユは感じ取った。
この男が、天才などではない圧倒的な鬼才であることを。
「『能ある鷹ほど爪は隠さない』オレの自論でね。才能って隠したって意味ないんだよ、あるものはとことん使わないとねぇ。それが人のためになるんだから」
そして、従順な策略家であることを。
*
フィオウル王城内、王室。
真架とシャミームはフィオウル大国国王と対面していた。
「さて、早速会談を始めようか?」
「その前に聞きたいのだが」
「なんだ?」
「アレは一体なんのマネだ?」
フィオウル国王が顔を向ける先には鎖によって拘束され寝ている大臣らしき者が三人。
「いや当たり前だろ?これは俺らエルレランとフィオウルの会談なんだ。他の国に聞かせる義理はないな」
三人。
倒れている三人がロマリウスの密偵であるらしい。
真架は入室と同時に鎖を出して、三人を攻撃した。秒数で直したらおそらく一秒にも満たない短い時間で拘束したのだ。
敵か他国の住人かどうかなど真架とシャミームは知る由もない。だが、真架は動いた。真架にはあの三人がロマリウスの人間だと分かったのだ。
「ほう……なぜそう思ったのか?その根拠はしっかりあるのだろうな?」
シャミームは身を凍らせながら目で真架を見つめる。
(真架、気を付けてよ。答え方を間違えたら会談どころじゃなく、フィオウルとの国際問題にもなるんだから)
真架は服のポケットに手を入れる。
「フィオウルの住人は手首に入れ墨をしてるよな。ここまで案内してくれた奴にもアンタにも、そしてあの三人以外は全員している」
「それでは理由にはならないのではないか?」
「なら、今から街を案内してくれ。今から住民一人ひとりの手首を調べればいいだけの話だ」
「……………」
フィオウル国王は黙り込む。
「?」
シャミームはフィオウル国王の沈黙が分からなかった。
だが、気付いた。
(真架、スゴイよ。確かに、あの三人以外は全員手首に入れ墨をしている。そこに気付くのも凄いけど、本当にスゴイのは『街を案内しろ』と言ったこと)
他国との情報が行き来しないこの時代では国の情報はとても重要な役割をする。
それは『アンダーベリア条約』の件で分かったと思う。
他国の情報―――もとい弱みを握ればその後の交渉などで役に立つ。
エルレランの標的はロマリウスであるが、そこに到達するまでにフィオウルと戦わなければならないのなら情報を握っておくに越したことはない。
遠回りであり、目的も外れている。だが、そのことを知らないフィオウルからしたら真架の申し出は自国を危機に落としてしまうことだと感じてしまう。
つまり、ここでフィオウル国王が答える選択肢は一択しかない。
「ご明察だ。そして、礼を言う。ありがとう」
フィオウル国王は椅子から立ち上がる。
「その三人を牢に入れておくのだ」
「いいのですか?あの人たちは………」
「察しの通りロマリウスからの使者だ。いや、監視役と言った方がいいな」
フィオウル国王は苦笑いを浮かべる。
「場を整える。少し待ってくれ」
「それだけど、ここでやってくれるか?机をここに持ってくれたら、ここでもできるだろ?」
「分かった。そうしよう」
フィオウル国王は家臣に指示を出して机を用意させる。
「何でここで?」
「新しく用意した場所に罠を仕掛けられるかもしれないしな。でも、ここなら見当たりいい。襲ってきても返り討ちにしてやるよ」
真架はシャミームに笑いかける。
それにつられてシャミームも微笑んだ。
「もしそんなことになったら私だけでも逃げるよ」
「そこは俺も連れて行こうぜ」
軽い雑談をしているとフィオウル側の準備が終わった。
「お待たせした。では始めようか?」
「最後に一つ。俺らも二人だからそっち二人にしないか?」
「私も王だ。他国と会談するには護衛が必要なんだ。話は私と大臣がするが、その傍に護衛を置く。それでもいいか?」
「ならそっちは護衛を入れて四人でいい。でも、映像球と通信球の持ち込みは禁止で。これは譲らないから。あと、そっちの護衛は『具現化系』か『強化系』魔法使いにしてくれ」
「分かった。私も初めからそのつもりだった。早速、始めよう。彼らが起きたら厄介だ」
フィオウル国王は真架とシャミームを席に誘導して座らせた。
「そっちも早く終わらせたいだろうから単刀直入に言わせてもらう」
フィオウル国王と大臣が席に座ると同時に真架は話を切り出す。
「俺らに協力してほしい」
「それは内容によるな。まぁ、大体は察しは付くが」
「そうか。ならまず質問をいくつかする。回答は、何かの制限を受けているなら『イエス』『ノー』もしくは『言えない』で答えてくれていい。だけど、出来れば詳しくことを答えてほしい」
「分かった」
フィオウル国王と大臣は悠然と構える。
真架は左手でジェスチャーを付けながら質問する。
「一つ目、フィオウル・フィレツェ・ユルティル・ニルドエイロの四か国は同盟を組んでいるのか?」
「あぁ、そのとうりだが、それはそっちも知っているだろ?」
「確認だよ。じゃあ、二つ目。エルレランとフィレツェの戦争時にフィオウルは軍事……いや、経済的支援を行っていたよな?」
「そうだな。戦争にはお金がかかる。その面でフィレツェに掛かる負担を減らしたかったんだ」
「三つ目、フィレツェが四か国の中で一番戦争に強いのか?」
「あぁ。経済面では我々。武器の鍛冶はユルティル、国土面でニルドエイロだな」
「国土?……あぁ、一般人の受け入れか。じゃあ、四つ目、四か国の中でのトップはここフィオウルなんだよな?」
「あぁ、そうだ。これは深くは言えない」
「そうか。五つ目。ロマリウスに何て条件を突き付けられてるの?」
「あぁ、まず、『エルレランを落とせ』と『ロマリウスに逆らうな』、『四か国と同盟を結べばロマリウスは軍事介入をしない』だ。ん?」
国王は些細な疑問に当たった。
「三つか……五つぐらいあると思ったんだけどな。シャミ、メモした?」
「うん、したよ」
国王が抱いた疑問。それは『なぜこんなにもあっさりと答えてしまったのか』だ。
「よし。じゃあ、質問は終わるな。次はこっちの提案なんだが、さっきも言った通り俺たちに協力してほしいんだ」
「ロマリウスとの戦争に、か?すまんが、我々は今で十分…………」
「監視つけられて、思うような政策も取れないのに満足か?」
「――――――」
国王は口をつぐんだ。
「貴様!」
「いいんだ。図星だ」
声を荒げる大臣を王は真架の言葉を認めることで諫める。
「だがな、エルレランの使徒。我々はあの国に手も足も出ないのだ。私たちの国だけではない。他の三カ国もだ。もし、ロマリウスに戦争を仕掛ければ我々四カ国は確実に負ける。そうなれば、私たちだけではない。国内の民すらも傷つけてしまう。我々、王族だけが傷つくならまだましだ。政治が支配されようと民が幸せなら…………」
「それ本気で言ってるのか?」
「あぁ」
真架は腕を組み、背もたれにもたれ掛る。
「それ、国って言えんの?」
「――――――ッ」
「良く知らないんだけどさ。そういうのを『植民地』って言って、国とは呼べないだろ?」
「ならどうすればいいのだッ!?」
王は声を上げる。
「分かっている。今の我々はもはや『ロマリウスの植民地』だ。征服されない代わりにあの国の言う事を聞いている。もはや道具だ!」
「悔しいと思わねぇのか?」
「思うさッ!」
フィオウル国王は机を両手で叩き立ち上がる。
「だったら、我らはどうすればよかったというのだ!」
「俺たちに手を貸せ」
「――――――ッ!」
真架の声のトーンが落ちる。
「四ヵ国(お前ら)が手を貸してくれるだけで俺が、エルレラン(俺たちが)がロマリウスを潰してやる!」
フィオウル側の人間は真架の言葉を真剣に聞き入る。
「だから、手を貸してくれ。俺たちが絶対倒してやる。どんな国が相手だろうと、俺の大切なものを傷つけようとする奴らは許さない!」
「―――――――ッ!?」
真架の隣りでシャミームは微笑んだ。
「どうする?このまま本当に植民地に成り下がるか、俺らに手を貸して国を取り戻すか。今、決めろ!」
王室が沈黙を纏う。
だが、フィオウル国王はさっきまでの焦心していた顔つきからガラリと変わっていた。
「分かった。我々はどうすればいい」
真架は微笑んだ。
「今から説明する。アンタから他の三カ国に伝えてくれ」
*
「ねぇ、良かったの?」
「何がですか?」
シャロームは紅茶を口に含みながらイーリスの言葉に耳を傾けた。
「私は元は敵だったのよ。護衛を私に任せるなんて」
「そうですね。でも、それを聞くってことは襲う気はないという事ですね」
「まぁ、そうですけど……」
「たまには女の子同士で話したいこともあるのです。いつもロフェルですので」
「なるほどね」
イーリスも目の前に置かれたカップに口を付ける。
「それで、どうですか?勇者様たちと過ごしてみて」
「どう、と言いますと?」
「気づいたこととか、感じた事とかですよ」
イーリスはカップを皿の上に戻して、考えることもなくすぐに答えた。
「格の違いを思い知らされます」
「確かに、皆さん凄いですもんね」
「でも、勝てない訳じゃないわ」
「?」
シャロームはイーリスの言い回しに疑問符を浮かべる。
「光希なら知識では敵わないけど戦闘では負けない。ローランや晴代には戦闘技術に差はあるけど魔法で対抗できるわ。迦具夜は人望があるけど戦争の前線で戦うのは無理だと思う。ジャックと彩羽は魔法の才が途轍もないけど人間性で大きく欠けている部分があるわ。真架は一番バランスがいいけど仲間を信頼しきれない点が残念ね」
「それぞれが誰にも負けないであろう才能を持っているけど、また同時に欠点も持っている。そういう事ですね」
イーリスは口元を緩めて肯定した。
そして、紅茶を飲んで、ふと思い出したようにシャロームに質問した。
「そう言えば、なぜ皆は真架を頭首にすることに反対しなかったのだろう?」
「どういう意味で?」
「真架は強いわ。でも、あの中ではローランが一番の実力者。光希も指揮力が高い。人望なら迦具夜だし、晴代も将軍の器を持ってると思うわ。でも、真架はこれと言って決め手はない。それこそ、ジャックや彩羽のように頭首には向かない人間の部類になると思うのだけど」
「それは、イーリスさんも気づいているわ」
今度はイーリスが疑問符を浮かべる。
「彼は一番バランスが取れている。誰の意見にも耳を傾ける。仲間を信頼しきれていないと言ったけど、でも仲間を信じてはいるわ」
「『信頼』と『信じる』は同じではないか?」
シャロームは横に首を振る。
「彼が言うには『信頼は一〇〇%』『信じるは五〇%』らしいです。信頼とは『信じて頼る』ことだから」
「なるほど」
「それに……『信じる』が『信頼』に変わるのも時間の問題ですよ」
「どうして?」
イーリスの質問にシャロームは微笑みながら答えた。
「なぜなら、皆が彼を信頼しているからです」
*
「ミッション完了、ってところだな」
『お疲れ、真架くん。作戦もしっかり伝えてくれた?』
「あぁ、了承も得た。他の奴らは?」
『会談中にフィオウルから連絡があって、そのまま『OK』出したってさ』
「分かった。今からそっちに戻る。アイツらも戻ってるのか?」
『各国から馬を借りたって。でも、彩羽ちゃんとサイードさんは走った方が速いって走って帰って来てるらしいよ』
「意外に阿保だな。まぁ、分かった。また後で」
真架は通信球に送る魔力を閉じて通話を終える。
「それにしても真架はスゴイよね」
「何がだ?」
真架が通信球を片付けていると後ろからシャミームが話し掛ける。
「すんなりと交渉を結ぶなんて。私には出来ないよ」
「確かにシャミには無理だな」
「そこはもちょっと言葉を選んでよ。でも、真架。あの質問は何の意味があったの?」
「質問?あぁ、アレは一種の『イエス』誘導法だ」
「何なの、それ?」
「相手に『イエス』と答え続かせて『ノー』と答えにくくする心理誘導のことだ。あと、これは俺のオリジナルだけど、指のジェスチャーで質問に答えやすくさせたんだ」
「心理誘導…………もしかして、さっきの会談、ずっとその心理誘導を使ってたの!」
「全部じゃない。最初……いや、最後もか。王様の説得には凄い熱入れた、俺の気持ちと覚悟をぶつけた。それ以外は心理誘導を使ってたけどな。けど、アレがなかったらあの王様も『イエス』とは答えなかったと思うぜ。本音と心理誘導を組み合わせるから、効果があったんだと思うぜ」
「そうか。……よかった」
「何が?」
「ううん、別に」
真架は気付いていない。
その本音こそが真架の才能だという事を。
「帰ろ。これからが本番だよ」
「分かってるよ。絶対勝つ」
真架とシャミームは扉を潜った。
ロマリウスとの戦争の準備は着実に進んでいる。