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余章:魔法の法則

「待たせた」

「遅いよ」

 真架とシャミームは揃って、会議室から出る。

 先ほどまでシャロームやロフェルたちと会議をしてたためだ。

「覚悟はしていたんだけどな」

「意外と怒られなかったね」

 二人が言っているのはサイードとアルハイユのことだ。

 元敵国の偵察を迎え入れるのは本来起きえないことだ。そんなことをしてしまったら、いくらかの処分を受けても仕方がないだろう。

 そう思っていた。

 だが、処分はなし。それと、これから行う作戦の指揮すらも任せられたのだ。

「でも、作戦案が通ってよかったね」

「指揮権をもらったけど、これは光希に任せた方がいいな。俺は向かう側だしな」

「頭首自ら行かなくてもいいと思うんだけど」

「そういう訳にはいかねぇよ」

 シャミームは不安げに真架の顔を見つめている。

 それに真架も気づくが特に何も言わなかった。

 そのまま、真架たちは皆が待っている城門に向かう。

「そう言えば、この作戦って一体どういう意味でするの?」

「お前は光希の話を聞いてたのか?」

「聞いてたよ!でも、よくわから分からなくて……」

「はぁ……シャミはどこまで理解しているんだ?」

「うん……今から私たちがロマリウスと同盟を組んでいるだろう四か国に交渉しに行くんだよね?」

「あぁ、俺とシャミはフィオウル大国ってところに行くことになってる」

 ジャックと迦具夜がフィレツェ大国、ローランと晴代はユルティル大国と言うところへ、彩羽とサイードがニルドエイロ大国と言うところにそれぞれ交渉に向かうことになっている。

「うん、それは分かってる。何で私と真架がフィオウルに行くのかも知ってる。でも、その交渉の内容が分からないの。光希、そのこと言わなかったから」

「分かり切ってるだろ。このままじゃ、俺らはロマリウスに奇襲をかけることが出来ないんだよ」

 「何で?」とシャミームは首を傾げる。

「あの四か国がロマリウスと同盟を組まれたままだと、俺たちがロマリウスに攻め込もうとしたときの壁になる。そして、その壁に時間をかけている間にロマリウスは準備を整えるんだよ」

「なるほど!」

 シャミームはようやく作戦の意図を理解することが出来た。

「俺達の読みだと、あの四か国は脅されて同盟を組まされているんだと思う。光希はいくつか理由を挙げてたけど、俺はただ何となくそう思うってだけだ」

「でも、もしこれがギブアンドテイクの正当な同盟だったら?」

「それはないだろう。四か国がロマリウスと同盟を組んで得られるメリットがあまりない。それはロマリウスが技術力に特化しているだけで、材料の生産を行っていないからだ。先日にフィレツェの国内の様子を見に行ったけど、ロマリウスから技術提供を受けている雰囲気じゃなかった」

「てことは、望みがあるの?」

「あぁ」と真架は短く返事を返した。なぜなら、もう城門に着いていたからだ。

真架とシャミームの到着に気が付いた晴代が話し掛けて来る。

「遅かったな。そこまで話は長引いたのか?」

「いや。話はすんなり通った。歩いてたからだろう」

「そうか」

「光希は?」

「光希は部屋で次の作戦を立てている。アルハイユも光希と一緒だ」

「見送りぐらい来てくれてもいいのにね?」

「別に必要ないだろ。むしろ、見送りに来てたら殴り飛ばしてる」

「それにすぐに帰って来るしな」

 そうだな、と返して真架は他の皆も呼んだ。

「これから全員を全員をそれぞれの交渉国に送る。できれば『YES』と答えてもらいたいが、くれぐれも騒ぎを起こすな。ロマリウスと戦う前に四か国と戦争はゴメンだからな。分かったか?」

「了解した」

「任せておけ」

 ローラン・晴代グループが悠然と答える。

「大丈夫ですよ」

「任せておくのじゃ」

 ジャックと迦具夜も堂々と答える。一番騒ぎを起こしそうで心配のグループだ。

「大丈夫」

「勤めは果たそう」

 彩羽とサイードも返事を返す。

「サイード、大丈夫か?」

「心配ない。向こうに顔が割れていることはない」

「いや、そうじゃなくて………」

「昨日の傷も大丈夫だ。あの程度の傷で音を上げられん」

「そうか。それならいいんだ。じゃあ、シャミ!頼む!」

「了解!」

 シャミームは掌を前に突き出す。すると、シャミームの手が輝きだす。

 それぞれのグループの足元に魔法陣が描かれる。

 刹那、各々の姿が消える。

「シャミの魔法って凄く便利だよな」

「そうかな?」

「そうだって。だってどこにでも瞬間移動できるんだろ?」

「う~ん、『どこにでも』って訳じゃないよ」

「ん?どういうことだ?」

「そう言えば魔法の仕組みについて話してなかったね」

「魔法の仕組み?」

「うん。他のみんなには話したんだけど、私の魔法の話をする前に話さないといけないんだよね」

 他のメンバーは任務に向かったのに、真架とシャミームは魔法についての話を始める。

「まずは、真架も知ってると思うけど『専用魔法』について」

「アレだろ?誰もが使える『汎用魔法』と個人だけが持つ唯一の魔法『専用魔法』の二つ、それから道具を用いる『機械魔法』の2+1だったよな?」

「そう。『機械魔法』は使ったから分かるよね?『汎用魔法』はおいおい説明するね。今は『専用魔法』について話すよ」

 シャミームは木の棒を拾い地面に六角形の図を描く。

「『専用魔法』、一般的には『オリジナル』って呼ばれる魔法には大きく分けて六種類あるの。真架も知ってるものもあると思うけど説明するね」

 シャミームは各頂点に『強』、『変』、『放』、『神』、『呪』、『具』と書く。もちろん、シャミームはこの世界の文字で書いていたが、真架も大分読めるようになってきていたのだ。

「まず一番上が『強化系』。物体や身体を強化する魔法。私たちの中でこれを使うのが晴代とローラン」

「あの二人は武器の強化だよな?」

「うん、それだけじゃない。晴代は速度強化、ローランは皮脂強化が魔法の効果として出てるの」

「速度強化は足を速くするんだよな。皮脂の強化って何だ?」

「体の皮膚を強靭にするんだと思う。変化系と違って、関節は動くから……簡単に言ったら『皮膚の鎧』かな」

 なるほど、と真架は口元を隠す。

「次はさっきも上げた『変化系』。魔力や細胞を物質に変える魔法。これにはいい例がないけど、ロフェルさんはこの魔法を使っているよ」

「魔力や細胞の物質化、ってどういう意味だ?」

「腕を鉄に変化させる魔法があるとする。この場合、腕を鉄で覆うんじゃなくて、腕事態を鉄に変える、つまり生物の構成から物質の構成に変えることを言うの」

 人間の体は細胞でできている。要するに、その細胞を別の物体や物資に変化させる。この時、その細胞は生物の働きではなく物体・物質の働きをする。鉄なら鉄の性質になるってことだ。

「魔力の変化も似たようなものです」

 もともと形のない魔力に物質としての形を与える。

 そういう意味合いだろう。

「次は『放出系』です。魔法陣から魔力を放出する魔法です。サイードがこれにあたるね。放出系は魔力の性質によって効果が変わります」

「それは分かるな、一回見てるし。サイードは黒色の魔力を持っていたから『闇』としての属性的性質があったんだろ?」

「うん。それも言えるけどそうじゃない。黒色の魔力の性質は『敵の攪乱』だと思う。闇の属性を持っていたのは、おそらく『汎用魔法』との連結によるものなんじゃないかな?」

「連結?」

「それは後で説明するね。次が具現化系。これは分かりやすいよ。魔法陣からものを具現化して取り出す魔法。光希とジャック、彩羽がそう」

「あぁ、それは分かる。たしか、具現化した武器には特殊な能力があるんだよな?」

「それを含めて魔法なんだよ。ジャックは空間を切ることで防御不可能な攻撃をすることができる」

 確かにそう聞いた。

 真架は頭にジャックの魔法を思い浮かべた。

「この具現化系で具現化されるのは思い出に残っているものとか、印象に残っているもの、そして自分の心の形が具現化されるって聞くよ」

 真架は顎に手を当てた。

 ジャックの『ナイフ』は分かるが、光希の『銃』、彩羽の『モノクル』『靴』『大鎌』はどうなのか、と考える。

「まぁ、いいか。次は『呪』だな」

「うん。『呪術系』。これは自然や物体に何らかの干渉を与える魔法。これは姫様と迦具夜、イーリスがこれだよ」

「モノを消すのは変化系じゃないのか?」

「変化系は術者事態の変化を指します。呪術系はその対と考えてください。つまり、自分自身に変化を与えるんじゃなくて、自分以外の物体に変化を与えるものです」

「なるほど。シャロの『モノの姿を消す魔法』は物体に対しては有効だけど自分に対しては使用できないんだったな。イーリスは大地に干渉する魔法だしな。じゃあ、迦具夜は?いろんな魔法がごっちゃになってるけど……」

「俗に言う『召喚魔法』です。召喚魔法は『呪術系』の一種だから。迦具夜の魔法は『空気を圧縮』した鳥、『天を駆ける牛』の召喚、『空気の状態維持』をした布のイメージで魔法を使っていたらしいです。他にもあるらしいですよ」

「見事に呪術系の応用だな。最後は『神』だな。これは?」

「これは『神異系』です。これは特殊で、説明が難しいんだよ。これは私と真架が入るかな」

「俺も?俺は具現化じゃなのか?」

「『神異系』で上げられる例は、一つの魔法に複数の性質があるものや、他人や因果に干渉するもの、そして、複数種の魔法陣を使うものが含まれるの」

 その例えを聞いて真架は自分の魔法を思い浮かべた。

 真架が皆に見せている魔法陣は二つ。だが、真架はまだ魔法陣を所持しているため、複数の魔法陣の所有に当てはまるため『神異系』なのだ。

「私の『扉の魔法』は『呪術系』をベースとして具現化系と変化系の混合種で、さらに時空を超えて扉を発動させることが出来るから、さっき上げた『複数の性質』と『因果干渉』に該当するから『神異系』なんだよ」

「なるほど」

 真架はここまでのことをすべて理解した。

「で、ここからが『魔法の仕組み』について話すね」

「あぁ」

 真架は地面に座りシャミームを見る。

「さっき話した『オリジナル』はすべて魔法陣を介して発動させられる。そして、この魔法陣は絶対専用のもので、同じ魔法を使う人はいないの」

「なるほど。人間性と同じか。世界に『自分』と言う人間は一人しか存在しないのとおなじだな」

「そうだよ。だから『オリジナル』は個人のアイデンティティーみたいなものなの」

 シャミームは地面にさっき言ったことのまとめを書く。

「次に魔法の性質ね。具現化系の説明で『個人の印象に残るもの』が形になるって言ったよね?」

「あぁ」

「それと同じで、『オリジナル』は自分の性格や気持ちが形になることが多いの」

「まぁ、魔法がアイデンティティーって言ってたもんな」

「私の場合で話すけど……私は孤児院育ちだったから、結構制限された生活を送ってたの。だから、いろんな場所に行きたいっていう私の気持ちがこの魔法に繋がったんだと思う」

 真架はその理由に納得をする。

 真架が知っている仲間たちの魔法も、気持ちや性格が形になっているものが多い。

 真架が直接聞いたのは二名。ジャックと彩羽。

 ジャックの『ナイフ』は人を切りたいという残虐的な性格が形になっている。もっとも色濃いのは『空間断裂』だろう。誰かを飛ばすためではない、切り裂くためにできた能力である。その性格は本人も気が付いていた。

 彩羽の『モノクル』は誰かを見つけたい、『ブーツ』は誰かの元に駆けつけたい。元の世界で孤独な思いをしてたことから繋がり、『一人になりたくない』と言う気持ちがこの魔法になったと言っていた。『大鎌』については彼女も知らなかった。おそらく自分では気づきにくい『性格』から来ているのだろう。

 他の四人も何らかの気持ちから来ているのは間違いないだろう。

「で、最後に魔法の発動条件。これは私の魔法についての説明と共に話すね」

「発動条件?魔法陣出すだけじゃダメなのか?」

「そこは真架が一番分かってると思うよ」

「どういうことだ?」

 懐疑の表情になりシャミームを睨む。

 シャミームはそんな真架に動じず説明する。

「『魔法陣を出す』。これは『オリジナル』を使う上で大事な条件だよ。でも、そこに達するまでが大切なんだよ」

「?……あぁ、そう言うことか」

 真架は理解したようにシャミームに確認する。

「魔法を発動するためには限定の動作やモノ、覚悟が必要って言いたいのか?」

「そっ。私の魔法の発動条件は『目的地を見ること』『条件を当て嵌めること』。使用条件は『一方通行であること』。私の魔法にはこの三つのルールを設定しているの」

「行ったら帰って来れないってことか。いや、シャミなら帰ってこれるな」

「そうだね。で、発動条件の『条件を当て嵌める』は真架たちの例だね」

「そうか。シャミは俺達の世界を見ることが出来ないんだもんな」

「うん。改めてゴメンね。いきなりここに呼んじゃったから……」

「もういいって言っただろ」

頭を下げたシャミームに呆れ顔で返した。

「それより、シャミは俺らを呼ぶのにどんな条件を付けたんだ?」

「え?えっと、まず『一つ最上の才能を持つ者』かな」

「まぁ、当て嵌まっているな」

 光希は『知識』。

 晴代は『剣術』。

 迦具夜は『親密』。

 ジャックは『狂気』。

 彩羽は『センス』。

 ローランは『戦闘力』。

 誰もが何かしらの才能を持ち合わせている。

「俺はこの呪いかな?」

「それは分からないけど。そしてもう一つあるの」

「もう一つ?」

「うん。『今いる世界に不満を持っている者』」

「ッ!?」

 図星を突かれたみたいに身を強張らせる。

 そう言えばと、真架の記憶に過るものがある。

 真架が『世界への恨み』を抱いた瞬間にシャミームの魔法が発動した。

「アイツらもだったのか」

「そうみたいだね」

「なんでそんな条件にしたんだよ」

「だって、いくら才能があったとしても『元の時代に帰りたい』って言われたらそれまでだから」

 確かに、と真架も納得する。

 才能があるからと無差別に呼んでいたら、その内の誰か、いやもしかしたら全員が元の世界に帰りたがるかもしれない。

 その点で考えたら真架を含む七人は元の世界に何かしらの『不満』がある。そんな彼らが好き好んで元の世界に戻りたいとは思わないだろう。事実、その通りだった。

「真架は向こうの世界を信用できなかったから、ここに来れたんだと思う」

「それは違うな」

 真架はシャミームの言葉を否定する。

 「え?」と拍子抜けな声を洩らす。

「俺はあの世界を恨んでいた。信用できなくなったこともあるが、信用できなくさせる切っ掛けをつくったのは明らかにあの世界自身だ」

 真架は強く拳を握る。

「呪いのことも、弟のことも、人間関係のことも、信用したくても出来ない切っ掛けをつくったあの世界が憎らしい。だから、不満じゃない。嫌いなんだよ、あの世界が」

「………」

 シャミームは額からいやな汗を流す。

「もしかしたら、俺が魔法を完全に使えないのはこの所為かもしれないな。それか、俺が気づいてないだけで他の条件があるのかもしれないしな」

 話を路線を戻し、真架はもう一つの疑問を訪ねた。

「そう言えば『連結』って何だ?」

「あっ、う、うん……。連結って言うのは魔法と魔法を組み合わせる応用発動術のことだよ。主に『オリジナル』と『汎用魔法』を組み合わせるんだけどね。真架もこれを使ているよ」

「あぁ、二つの魔法陣を合わせて剣を出すやつか。アレが連結か?」

「うん。多分、一つ一つの魔法は違う効果があるはずだよ。白の魔法陣か混色の魔法陣の内のどれかが具現化系なんだと思う」

「要は魔法陣と魔法陣を繋げて効果を融合させるのが『連結』って訳だな」

「そうだね」

 シャミームは地面に書いた文字を消して、話を終わらせた。

「ありがとな、シャミ。よし、じゃあ、行くか。こんなところで油売ってたら先に行った奴らにドヤされる」

「分かったよ。あ、そうだ、真架」

「何だ?」

 シャミに服を引っ張られ振り返る。

「真架の才能はその『呪い』じゃない、もっと別のものだよ」

「はぁ?どういうことだ」

「才能って言うのは、自分じゃ気付きにくいものなんだよ」

「だから、何が言いたいんだよ」

「さぁ、行こう!」

「おいっ!」

 真架の質問はシャミームの魔法の発動と同時に破棄されたのだった。

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