余章:ロマリウスの智王
豊かな街並み、飛び交う人々、豪華な宮殿。
エルレラン王国とは比べ物にならないほど巨大な王国、ロマリウス帝国。
その宮殿内。
「クソッ!また落とせなかったのか!」
「は、はい……そのようで……」
ロマリウス帝国国王、ガリウス・ロマリウスは玉座に鎮座し、肩を震わせていた。
ロマリウス帝国の目的はエルレラン王国の豊富な資源と土地。
エルレラン王国を滅ぼし、その国土を手に入れる。それが作戦の概要だ。
「あのような落ちぶれた国を落とすのいつまで掛かるのだ!」
「で、ですが、フィレツェ大国から入った情報ですと、たった七人の騎士に敗北を期したと……」
「そんな戯言、あるはずなかろうが!フィレツェの愚図共め謀りおって!」
憤慨するガリウス。
本来ならば先の戦で落とし、フィレツェ大国との交渉でエルレラン王国の国土を手に入れるはずだったのだ。
だが、その策はエルレランの七人の騎士によって阻止された。
『一国の部隊がたった七人に落とされた』、普通に考えこんな話が信じられるわけがない。あり得ないことなのだ。
「くそ、クソッ!」
「そんなに苛立つんだったらこっちから仕掛けたらいいじゃないか?」
「戦をしたら貴族共が頭に乗るだろうが、シャヒード」
「そんなこと言ってるから足元をすくわれるんだよ、父さん」
シャヒード・イ・ロマリウス。ガリウスの息子にしてロマリウス帝国の王子で王位継承第一位。
不敵な笑みを浮かべるその姿は『王子』という煌びやかな称号に不釣り合いだった。
「貴族の顔色うかがってるから遣られちゃうんですよ」
「黙れガキが!」
「そのガキに毎回助けられてるんですよ?」
「グ……」
「この国がここまで大きく強力になったのも誰のおかげか……その足らない脳味噌で考えなよ」
ガリウスは奥歯を噛み締め、酷い血相となっている。
「偵察でも出したらどうだろう?少しは向こうの状況もわかるかもよ」
「分かっておるわ!おい、今すぐエルレランに偵察を向かわせろ!」
怒号を響かせるガリウス。
その一声に臣下たちは泡だしく動き出した。
それを横目にシャヒードは何食わぬ顔で王室を後にする。
その顔は愉快そうな笑みを浮かべていた。
「また、国王で遊んでいたのか?」
「オルガか。まぁね。あの人を振り回すの凄い面白いんだよ」
「仮にも実の父親だろ?」
「『父』とか『母』って単なる普通名詞だよ?そんなの何の意味も持たないよ。俺が他人を量るのは、単に『使える』か『使えない』かだ。それ以外に価値はない」
シャヒードは何の詫びもなく言ってのけた。
「まったく、お前ってやつは……」
オルガは前髪を掻き上げる。
「リディアとミディアに『動くな』と言っといて。それとオルガも」
「分かった」
シャヒードの指示を聞き入れ、オルガは静かに立ち去った。
「クハハ………」
奇妙な声で笑うシャヒード。強く爪を立てるように右手で右目を塞ぐ。
「さぁ、面白くしようか、七人の騎士さん」
右目から垣間見える右眼の瞳に魔法陣が不吉に浮かびかがっていた。




