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霧雨のまどろみ  作者: metti
第二章 王都ティンドラ
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1.エ○同人みたいに!




ふと意識が浮上する。


まず頭に浮かんだのは、あれ、死んでない、ということだった。

あそこで容赦なくビームサーベルぶん回してきた辺りで、すわ殺害目的かと思ったが、どうやら違ったようだ。

とりあえず生きている事に、心底ほっとする。



辺りを見回すと、どうやら天幕の中らしい。

最低限のサバイバルグッズと寝袋が隅に置かれている、三、四人用の小さな物だ。

キリは、その端に荷物か何かのように転がされていた。


天幕の主は外出中のようで、天幕の外にも人の気配はない。

野営ということは、ここはまだティンドラ国内だろうか。


今のうちにさっさと逃げ出したいところだが、ご丁寧に金属を素材とした縄でがっちりと縛られている。

元の世界で言うナイロンザイルとか、そういうアレだ。

これを引きちぎるのは流石に無謀だなと判断して、キリは溜め息を吐いた。


しかし、まさか自分がこんな風に縛られる日が来るとは思いもしなかった。

昔は囚われのお姫様の童話を読んで憧れもしたが、今はそんな想像もできやしない。

助けに来てくれる王子様がいるわけでもなし、危機は目前に差し迫っている。

嫌な予感というか、死ぬ予感しかしない。



転がったまま遠い目でフォミュラとヴィーに謝罪の言葉を呟くキリの視界の隅で、音を立てて天幕の入り口が開いた。


「ふむ、気付いたか」


入ってきたのは、予想通りあの巨体の機械人の男だった。

シカトしてやろうかと思ったが、ぐいっと肩を掴まれて引き起こされ、座らされる。

ジト目で睨んでやれば、何が楽しいのか男は喉を鳴らして笑った。


「そう怒るな。無理やり連れて来たことは謝罪しよう」

「あーそうかい。じゃあ謝罪ついでに縄解け」

「それはできんな」


すげなく切って捨てられる。


まあ期待はしてなかったけど、と溜め息一つ。

気を取り直し、キリは口を開いた。


「そもそも、あの森ん中でどうやって私を見つけたんだよ。あの時、周りに気配は増えてなかったのに」

「ああ、あれか。確かに俺はお前達が交戦を始めてからあの場に行ったな」

「だから、どうやって」

「半分は企業秘密。もう半分はこれのお陰だ」


そして彼の手が伸びるのは、キリの服の襟元。

ややあって戻ってきた指には、何か小さな物が摘まれていた。

一体何だと眉を潜めるキリに、男はさらりと涼しい顔で言ってのける。


「発信機だ」

「発信機ぃ!?」


そんなもんがこの世界にあったのか、と目を引ん剥いたキリだったが、考えてみればそうだ。

戦争のためにレーザーやらビームサーベルやらを作り出したグラジアが、諜報のための機械製作を行なっていないわけがない。

恐らくこの男と接触した際に、――正直言って二度と思い出したくもないが、『あの』時にでも付けられたのだろう。


完全に、相手が一枚上手だった。

恐らく今回の襲撃も、森の中にキリを誘い込むことこそが目的だったのだろう。

視界の悪い森に逃げ込めば撒ける確率は上がるはずだが、発信機があるならば話は別だ。


「……なるほどな。最初っからそのつもりだったわけか」

「そういうわけだ。運が悪かったと思って諦めろ」


ぐうの音も出ない。

その代わり、溜め息一つ。


「つーか、どうやって入り込みやがったんだよ。ティンドラとグラジアは戦争中だろ」

「まだ開戦はしていないし、緊張状態にあるだけだ。国境が完全に閉ざされた訳でなし、出入りする方法は幾らでもある」


特にこの程度の少人数ならな、と男が見やるのは、テントの外。

キリが蹴りを入れてやった二人は現在手当てを受けている、と彼は肩を竦めた。


「被害は甚大だがな。『単なる旅人』如きに遅れを取るとは、鍛錬の見直しが必要なようだ」

「……ほんとにな。グラジアの軍人が聞いて呆れるよ」


精一杯の皮肉は、しかし男の笑みを深めたに過ぎなかった。

こいつやっぱり嫌いだ、としかめっ面を更にしかめて、キリは話を切り上げに入る。


「茶番はもういい。さっさと話せ。口封じじゃないなら、一体何の用だ」

「同盟の提案だ」

「アホか」


その台詞を耳にした瞬間、キリは反射的に言い返していた。

据わらせていた目には、呆れ以外に侮蔑に似たものすら含んでいる。


「無理やり拉致しといて同盟もへったくれもあるか。これは脅迫だ」

「ふむ、まあそうとも言うな」


男は素直に認め、そして口の端に笑みを乗せたままで紡いだ。


「どのみち、拒否権などない」

「……」

「だったら大人しく聞くべきだな。俺が気を変える可能性もあると、解っているだろう?」


殴りたい、と後ろ手に拳を握るキリに気付いているのかいないのか。

男はキリが黙ったのをいいことに、【同盟の提案】とやらを始めた。



「まずは報酬の話だな。これから言う要求を呑めば、これについては確約してやる」



そうして男が提案したのは三つ。


まず、特別な場合を除いてルーデンスには手を出さないこと。

特別な場合というのは、恐らくルーデンスから戦争に関わってきたとか、そんな場合だろう。

正直言って、ティンドラの貴族である以上戦争に無関係というわけにはいかない。

殆どないような約束と同じだ。


そして、キリの命の保障。

同盟さえ受け入れるのであれば、グラジアがきちんと国として身柄を保護する、とのこと。

遠慮なくビームサーベルぶん回しておいて、正直こんなもんが守られるとは到底思えないが。


最後に、同盟によって一定の目標が達成された場合の褒章。

内容はお前が決めろとの事だったが、正直目標達成の次の瞬間には殺されていそうで笑えない。

報酬はお前の命だ、とか言ってみたくてうずうずしているが、そんな事抜かしたら周囲で聞き耳立ててる兵士さん達が黙っちゃいないだろう。



とまあ、以上。

聞き終わったキリは、一つ溜め息を吐いて。


「つまり課題達成は極めて困難、特攻してこいってことだな」

「それを前提として、こちらの要求だが」


聞けよ。

内心思い切り突っ込みつつ、キリは話を遮る事はしなかった。

ぶすくれた顔で次の言葉を待ち、そして、




「お前には、キリ・ルーデンスとしてティンドラに潜入し、スパイ活動を行なってもらう」




紡がれたその言葉に、驚愕した。



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