キャラバンと共に(1)
放浪する遺跡──フツヌシの封印に成功した俺達は、森の外に出て野営していた。森の中には、まだ何が残っているか分からないからだ。寝首をかかれる訳にはいかない。
サンダーと流星号は、急遽呼び出したブレイブ・ローダーでメンテナンスを行っていた。
「サンダー、今回は、随分と無理をさせたっす。今夜は、ゆっくり整備をして欲しいっす」
「かたじけない、勇者殿」
俺がサンダーと話をしていると、
「勇者様ぁ、お食事の用意がぁ、出来ましたよぉ」
と、巫女ちゃんの呼ぶ声が聞こえた。
「それじゃぁ、サンダー。俺っちも、エネルギーの充填に行くっす」
と、俺はそう言って、焚き火を囲んでいる皆のところへ走って行った。
「今日のご飯は、何すか?」
返事は巫女ちゃんから返ってきた。
「アオツバメの肉団子汁と、オオイグアナのさっぱりソテー、オオイグアナの脳ミソのポン酢和え。もちろん勇者様には、精がつくように、オオイグアナのキン[ピー]の串焼きですよぉ。しっかりと、お食べ遊ばせ」
巫女ちゃんは、ニッコリと笑顔を作ると、いつもの如く『精のつく珍味』を、皿にたっぷりと乗っけて手渡してくれた。
(ああ、またこれか……)
いい加減、勘弁して欲しいところである。
「あのお兄さん達、無事に町まで辿りつけたやろか?」
シノブちゃんが言ったのは、今朝、森から助け出した賞金稼ぎ達の事だ。レベルも比較的高かったが、あんな騒動の後だ。歩いて街を目指すともなれば、心配にもなろう。
「そうっすねぇ。地図で確かめてみても、ここはどの町からも遠くにあるっす。食料や水が保てばいいんすが」
実際、俺も、勇者稼業の先輩である元勇者には、無事でいて欲しい。
「大丈夫だよ、勇者クン。彼等も、プロの賞金稼ぎや戦闘士なんだ。簡単には死なないよ」
と、ミドリちゃんが応えてくれた。
「しっかし、今日はホンマ、半端なくやばかったわぁ。『邪の者』も『フツヌシ』みたいに、えろう強いんやろか?」
シノブちゃんは、珍しく心許ない声をしていた。
「大丈夫っすよ。今までも、皆の力を合わせて撃退していったっす。勇気の力があれば、大丈夫っすよ」
俺は胸を張って、そう応えた。
「ふぅわぁ。何か眠うなってきよった。皆、ぎょうさん頑張ったもんな」
「ボクもだよ。じゃぁ、そろそろ寝る準備をしようか。本当は見張りを立てたいとこだけど、サンダーも流星号も居ることだし。勇者クン。折角呼び出したんだから、今夜はブレイブ・ローダーで寝ることにする?」
ミドリちゃんが、そう提案してくれた。巫女ちゃんも、焚き火の前でコックリコックリとしている。
「せやな。やっぱ、寝袋よりベッドの方が、ゆっくり寝られるわ」
「じゃぁ、サンダー。悪いけど、今夜の見張りはお願いするっす」
「心得た。拙者に任せるでござる。勇者殿達も、ゆっくり休んで、体力を取り戻して欲しいでござる」
「こら、流星。サンダーさんの邪魔なんてすんなよ。今夜は、きばって見張るんやで」
「ガッテンだ。任せておくんなせい、姐御」
取り敢えず見張りを二人に任せて、俺達はブレイブ・ローダーの居住区で眠ることにした。
一方、当の見張りのサンダーと流星号は、珍しく二人だけになったものだから、エロ談議を行っていた。
「流星号、そ、それで……、くノ一殿の尻の感触は、ど、どうでござるか?」
「そりゃーもう最高ですぜぃ、サンダーの旦那。あのデカさといい、形といい。やっぱ、姐御のケツは、異世界一ですぜい」
「そんな尻を独り占め出来るとは、流星号は果報者でござるなぁ」
「ここだけの話ですぜぃ。オイラ、フロントシートには、姐御以外は絶対乗せねぇって決めてるんだぜい」
「流星号は、一途でござるな」
「そう言うサンダーの旦那も、魔導師の姐御や巫女のお嬢をシートに座らせてるじゃねぇすか」
「おお、そうでござった。拙者も、あの方々の尻の感触は、格別に良いと思っているでござる。……おっと、これは絶対の秘密でござるよ。怒られて、車内にゲロを吐かれては、堪らぬでござる」
「おっとぉ、そうでやした。オイラもほどほどにしないと、姐御に怒られるっす」
「それはそうと、流星号。今日は、お手柄でござったなぁ」
「いやぁ、これもサンダーの旦那や自警団の旦那方が付けておいてくれた、特殊機能のおかげっす。オイラ、これからも、サンダーの旦那を目標に精進させていただきやす。これからも、よろしくお願いするっす」
「こちらこそ、よろしくでござる。そうでござった。後ほど、ブレイブ・ローダーのメンテナンス制御用のプログラムを、ダウンロードするが良いのでござる。一人ででもメンテナンスできるようになれば、修理のほかに、改良とかも出来るでござるからな」
「そいつは、ありがてぇ。早速ダウンロードさせてもらうっす。……と、あれ? サンダーの旦那、このデータは何ですかい?」
「おお、これはブレイブ・ローダーの車載カメラが捉えた『お宝画像』でござる。魔導師殿のパンチラや、巫女殿のノーブラ姿が写っているのでござるよ。はっ。流星号……、これも秘密でござるよ」
「了解っす、サンダーの旦那」
と、こんな感じで話が進んでいるのも知らずに、俺達はブレイブ・ローダーの中で、すやすやと眠っていた。
翌朝、目覚めた俺達の目の前には、相変わらず森が茂っていた。今度も、近寄ってみたが、昨日のように道が開くことはなかった。俺達が無理矢理作った脱出口も、そのままだった。
「森も、昨夜のままだね。封印に成功したようだね、勇者クン」
ミドリちゃんが、森の様子を見ながら言った。
「そうっすねぇ。もう封印が解けないといいんすが」
「かと言って、これ以上、ボク達の出来ることはないよ。やるとしたら、異世界のネットワークに情報を流して、危険を知らせるくらいだけど。それでも、逆に興味本位のバカを呼び寄せるかも知れないし。迂闊にフツヌシ情報を流さない方が良いと思うよ」
「うちも、魔導師さんの言うとおりやと思うで。見たところ、近くに街もないし。ほっといても、やって来るモンはおらんと思うで」
「そうっすね。しばらくは、俺達だけの秘密にするのが良いっすね」
それで、俺達は『放浪する遺跡』の件は他言無用と決めた。
さぁ、朝飯を食ったら次の遺跡へ出発だ。
取り敢えず、一番近そうな北方の街へ行くことに決めた俺達は、サンダーと流星号に乗って出発した。
今日も快晴。気温も、窓から吹き込んでくる風が心地よかった。次の遺跡では何が起こるのだろう? でも、俺達なら大丈夫。アマテラスの祭壇じゃぁなかったので、ボーナスポイントは無かったが、シノブちゃん達との新しいコンビネーションも出来た。この異世界を魔神から未然に防ぐことが出来たのは、大きな収穫だと思う。
そうして、俺達は次の遺跡に向かって、再び旅を続けることになった。