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放浪する遺跡(7)

 俺達は、異神『フツヌシ』に改造された亜人間を駆逐しつつあった。


(この分ならいけるぞ)


 だが、俺は単純に考え過ぎていた。亜人間が残り4人になった時だろうか、森の木々がザワザワと蠢き始めたのだ。

「何だ? 何が起こってる」

「勇者様、森全体から不穏な気配がします。お気をつけ下さい」

 巫女ちゃんが、何かを感じて、そう叫んだ。

 その瞬間、周囲の木々に絡まっていた蔦がウネウネと動き出すと、蛇か触手のように広場にいた俺達に襲いかかって来たのだ。

「マズイ。皆、サンダーのところへ集まるんだ。サンダー、火炎放射だ」

「心得た。サンダーフレイム」

 サンダーの右腕から強力な炎が放たれると、這い寄って来る蔦を次々に焼き払った。だが、蔦は後から後から這い出て来て、きりがなかった。

「勇者殿、燃料が少なくなってきたでござる。それに、右腕がオーバーヒート気味でござる。これ以上の火炎放射は、キツイのでござる」

「くそう、燃料切れか。今回の敵は、この森全体だったんだ。見通しが甘かったっす」

 俺達は、森の総攻撃を受けて、追い込まれつつあった。

「勇者クン、ボクが時間を稼ぐ。その間に、何か打開策を考えてくれないか」

 ミドリちゃんはそう言うと、

「フレア・スフィア」

 と、呪文を唱えた。そして、今度は炎の球体が、俺達を包み込んだ。森の放つ蔦は、球体を包み込み侵入しようとしたが、炎に焼かれて塵となっていった。

「済まないっす、ミドリちゃん」

「これくらい、わけないさ、勇者クン。でも、火炎魔法の球体も、長くは保たないよ。それに、内部の酸素量にも限界がある。いつかは魔法を解かないとならない。飽くまで、時間稼ぎだから。森全体を焼き尽くすだけの熱量は……、無いんだ」

 ミドリちゃんは平気な顔をしていたが、話したその内容は切羽詰まっていた。

「分かったっす」


(くそっ、考えろ。考えるんだ。何か方法がある筈だ)


 俺は、無い知恵を絞って、懸命に打開策を考えていた。


(どうする? 俺達は、この広場の中に押し留められていて、動けない。広場にあるのは泉と祭壇。……祭壇! 『アマテラス』は各地の祭壇をネットワークして、異世界の秩序を保ってきた。『フツヌシ』も『アマテラス』と同等の神体なら、祭壇が中枢かも知れないぞ)


「巫女ちゃん、『アマテラス』は『フツヌシ』をどうやって封滅したんすか? もしかして、祭壇に封じ込めたんじゃないっすか?」

「勇者様、祭壇ですか? あっ、ここに刻まれているのは、古代神聖文字です。わたくしにも読めますわ」

 巫女ちゃんは祭壇の側から、俺にそう言った。

「巫女ちゃん、何が書いてあるか、解読して欲しいっす」

「分かりました。……ええっと、『われここにイギョウのモノをコトダマにてふうめつする……ふるべゆらゆら』ふ……。す、すいません、勇者様。文字が削れていて、判読できない部分があります」

「文字が削られている? もしかして、その所為で、封印が一部解けたんじゃないっすか?」

 俺は巫女ちゃんに尋ねた。

「そ、その可能性はあります。でも、わたくしには、それ以上は分かりません。どうしましょう?」

「じゃぁ、それを刻み直せば、もう一度封印出来るかも知れないっすね」

 確信があった訳じゃないが、俺は思いついたことを口にした。

「ですが……。こんな固い石に、どうやって刻み直せばいいんでしょうか?」

 巫女ちゃんは、困ったような顔をしていた。くそう。やっとヒントが出たのに……。ここまでか。

 俺が諦めかけていた時、シノブちゃんが、流星号を叱咤した。

「おい、流星。お前は応用の効く便利なロボットじゃ無かったんか? 何か、えーっと……、ドリルとかリューターとか……。ほら、何か硬いものを削るような道具、持ってないんか!」

「ああっと、姐御。そういや、ニードリルならあるっすよ。どんな硬い岩も、これで削れるんですぜぃ」

 流星号はそう言うと、右手を挙げて、細いドリルのような物を俺達に見せた。

「それを早う言わんかい、ボケ。それで巫女さんを手伝って、文字刻まんかい」

「わ、分かったっす、姐御」

 流星号は、ペコペコと謝りながら、巫女ちゃんのところへ行った。

「わたくしが、ペンで神聖文字を書きますので、それをなぞるように刻んで下さいますか」

「ガッテンでぃ、巫女のお嬢」

 そう言うと、二人は祭壇の文字を復元し始めた。しかし、祭壇に触れようとすると、火花が散って流星号を跳ね除けた。


<我は『フツヌシ』。鬼神の太祖なるぞ。軽々しく触れるでない。我は『フツヌシ』。(いかずち)にて不届き者は退ける>


 また、頭の中に言葉が響いた。

「困ったっす。おいら、電磁パルスは苦手なんす。身体の電子機器が狂っちまう」

 くっそぅ、折角ここまできたのに。もう、手は無いのか……。

「流星号、雷は拙者が吸収する。雷の力で生まれた拙者に、電撃は効かぬ。任せるでござる」

「サンダー、出来るのか?」

「御意にござる。サンダーフルチャージ」

 サンダーは祭壇に右手で触れると、飛び散る火花を吸収し始めた。

「助かったっす、サンダーの旦那。そいじゃぁ、ガンガン刻んでいくっすよぉ」

「ミドリちゃん、済まないっすが、もう少し粘って欲しいっす」

「勇者クン、守りは任せて」

 ミドリちゃんは少し疲れたような顔をしていたが、なんとか火炎防壁を維持していた。

 一方の流星号は、巫女ちゃんがペンで書き込んだ線をなぞるように、祭壇に文字を刻んでいった。封印の文字が復元されていく中、また例の声が頭に響いた。


<我は『フツヌシ』。鬼神の太祖ぞ。我に仇なす不届き者は、引き下がれ>


「こんな言葉を送ってくるってことは、封印の文字が効いてるってことっす。頑張って、言霊を復元するっす」

「分かったぜい、勇者の旦那」

 流星号は、俄然張り切り始めた。巫女ちゃんの書いた文字を、どんどん刻んでいく。

 あと少し、あと少しだ。というところで、ピシッと言う音が上から響いた。

「うっ、グッ、うおおおぉぉぉ……」

「さ、サンダー、大丈夫っすか」

「だ、大丈夫でござる。す、少し、コンデンサーが、焼けただけで、ござる。……ぐっ」

 サンダー? コンデンサーって……、容量オーバーか。しまった、雷を取り込むだけで放電していない。『フツヌシ』の電撃がサンダーの容量をオーバーしているとすると、サンダーの身体(ボディー)がヤバイ。

「流星号、急いでくれ。でないと、サンダーが保たない」

「分かってるっす、勇者の旦那。あと少し、あとホンの少しっす。だから、頑張ってくだせい、サンダーの旦那」

 巫女ちゃんのペン書きは、もう終わっていた。あと少し、あと少しなんだ。頑張ってくれ、流星号。


「これで最後っす」

 流星号が最後の文字を刻み込むと、紋様が淡い光を放ち始めた。


<我は『フツヌシ』。我に仇なすものよ……我は、フッ……ヌ……>


 声が……消えた。成功したのか?


「勇者様、禍々しい気が消えました。封滅に成功しました!」

 巫女ちゃんは、パァっと顔を明るくして、そう言った。

「やったぞ、ミドリちゃん。サンダーも、ご苦労だったっす」

 その時、サンダーかヨロめくように後退ると、広場に倒れ込んだ。

「サンダー! 大丈夫っすか?」

「だ、大丈夫でござる……。少し休めば……大丈夫で、ござる」

「済まねぇ、サンダーの旦那。おいらが不甲斐ないばっかりに」

「いや、流星号は、よく頑張ったっす。お陰で、『フツヌシ』を封じる事が出来たっす」

「せやで、流星。お前は、今回はようやった。褒めたげるで」

「姐御、旦那。おいら、役に立てて嬉しいっす」

「じゃ、じゃぁ、火球の魔法を解くよ。未だ魔獣みたいなモノがいるかも知れないから、注意して」

 ミドリちゃんにも、かなりの負担をかけてしまった。彼女も少し休ませないと。

 魔法が解かれると、広場に清涼な風が入って来た。もう蔦も襲って来ない。成功……、したのかな?

「う、上手くいったみたいっすね。それじゃぁ、一休みっす」


 今回は、皆頑張った。『アマテラス』の祭壇では無かったけれど、これでまた一つ、異世界の脅威が減ったと思うと、俺達は達成感を感じていた。




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