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放浪する遺跡(6)

 サイトウさんとムナカタさんの話を聞いて、俺達は、森を調査する事にした。


 森の側に近づくと、ちょうど小型トラックが通れるくらいの幅の道が出来ていた。さっき流星号と見に来た時よりも道幅が広い。やはり、意図的な何かを感じる。

「取り敢えず、この道を通ってみるっすか」

「そうだね、これくらい広ければ、サンダーも通れるよね」

 俺の言葉に、ミドリちゃんが応じた。

「まずは、俺が先頭で入るっす。サンダーは最後尾について欲しいっす」

「心得たでござる、勇者殿」

 こうして俺達は一列になって、森へ入って行った。


 森の中の道は、生い茂る枝が太陽を隠していて、暗かった。

「勇者殿、周囲に多数の──いや無数の熱源を感知したでござる。大きさは小鳥程度のものから、2メートルくらいまでと、様々でござる」

「普通の森としての生態環境は、整ってるみたいっすね」

「住んでいる生物が、まっとうなモノならね」

 まぁ、そりゃそうだわな。おかしな森に住んでいるのなら、おかしな生物に違いない。気を引き締めておかなきゃ。

「それにしても、なんかえらい蒸し暑いなぁ。ジメジメしとるわ」

「おいらもカビが生えそうですぜ、姐御」

「アホか流星。その前に錆びるやろ。お前のAIって、ほんまにサンダーさんと同じなんか?」

「そのはずなんすがねぇ。すいやせん、姐御。その代わり、姐御のケツは、おいらが全力で守りますんで」

「おっまえはなぁ、ケツの事しか頭にないんか。このドアホぅ」

「すいやせん、姐御」

 ハイハイ、毎度の事でアリガトウゴザイマス。場の空気が和らぐよ。

 俺は二人の漫才を無視して、前進を続けた。


 しばらく歩くと、開けた所に出た。

 そこには、ムナカタさん達が乗って来たと思われる小型トラックが、置き去りにされていた。二人に聞いた通り、広場には泉と祭壇状の遺跡を見ることが出来た。

「今までの遺跡やアマテラスの祭壇と、形が違ってるっすねぇ。紋様とかも、全然違っているし」

 俺達は、周囲に気をつけながら祭壇状遺跡の前まで近づいた。すると、頭の中に声が響いた。


<我の名は『フツヌシ』。全ての『武鬼』の太祖にして、主である者なり>


「あ、ああ、あああああ。そ、そんな、……そんなモノが、未だ存在していたなんて」

 巫女ちゃんは、全身をガタガタと震えさせると、声を漏らした。

「巫女ちゃん、どうしたんすか? 『フツヌシ』って、なんすか?」

 俺が訊くと、また同じ声がした。


<我は『フツヌシ』。荒ぶる鬼どもよ、我が元へ集え>


「ふ、『フツヌシ』とは、遥かな昔、神話の時代にアマテラス様と対立していた異形のモノです。アマテラス様とこの世界の大地を争った末、倒され、二度と顕れないように封滅されたと伝承されてきました。そんな伝説の鬼神が、何故……」

 巫女ちゃんは震えながらだったが、頑張って俺達に『フツヌシ』のことを伝えようとしていた。


 そんな時、森の木々が、ザワザワと動いたような気がした。すると、高い木々の上から、小さな尖った物が、俺達に降りそそいだ。

「皆、塊って。バリアを張る。「シルドスフィア」」

 ミドリちゃんが防御魔法を使った。すると、無数の楔状の物体が、空中に出来た見えざる球体に突き刺さって止まったのが分かった。

「ミドリちゃん、助かったっす」

 しかし、ミドリちゃんは驚愕して叫んだ。

「そんなバカな! ボクの魔法障壁に突き刺さるなんて。弾いたのなら分かるが、これは……。勇者クン、もっと大きいのが来たら、防ぎきれないかも知れない」

 ちょっとヤバイ事になりそうな雰囲気だった。

「巫女ちゃんは下がって。敵の攻撃を探知して欲しいっす。サンダー、巫女ちゃんを守って。ミドリちゃんは防御に特化。シノブちゃん達は、俺と一緒に切り込んでくれ」

 俺は、咄嗟にそう指示を出した。

「よっしゃぁ、任せとき。出番やで、流星」

「ガッテンだ、姐御」

 俺は腰の木刀を引抜くと、正眼に構えた。シノブちゃん達も、攻撃モードに入る。

「勇者様、左上方、何か来ます」

 巫女ちゃんに言われて、俺が左を見上げると、さっきよりも大きい杭のようなものが数本、こちらに投擲されてきた。

「ミドリちゃん!」

「任せて。「マルチ・シルドウォール」」

 杭は、ミドリちゃんの多重魔法障壁に突き刺さって止まった。

「これでも弾けないのか。まさか……、杭が呪紋処理されている?」

 向こうは、単なる力押しで攻めてくることは無かった。攻撃が読みにくい。今までにない相手だ。手強い。

「流星、左上方、アームガン連射!」

「ガッテンだ、姐御」

 流星号の両腕が、杭の投擲された方向を狙うと、速射破壊機銃が連射された。タタタタタと、軽快な発射音が聞こえる。

 すると、不気味な唸り声があがって、何か人型の魔獣のようなモノが、樹上から何体か降ってきた。

 ソイツの姿を目にした時、俺は腹の奥に冷たい何かを押し込められたような気がした。それは、人間を退化させ、野蛮な(けだもの)に貶めたような不気味なモノだったからだ。

 破れた服を纏っているモノもいれば、ほとんど裸のモノもいた。俺は、「これは何かしらの悪夢なのではないか」と思い込もうとしていた。それほど、不気味で奇っ怪なモノだった。

 人間の肉体から人間らしい部分を取り除いて、悪意だけを抽出して練り直したようだった。遠目には人間の姿に見えるだけに、余計に(たち)が悪い。

 その時、俺はふと、中に三人ほど新しい服を着ているモノがいることに気がついた。


──まさかこいつら……


「拐われた人間、なのか?」

 ミドリちゃんが呟いた。ある意味、生贄よりも酷い仕打ちである。

「兎に角、撃退するぞ。シノブちゃん!」

「おっしゃ。行くで、流星」

「ガッテン承知の助でさぁ」

 俺達は、亜人間と成り果てた彼等に挑んで行った。

「とぉーりゃぁー」

 と、シノブちゃんが雄叫びをあげて、彼等の一人に殴りかかった。しかし、その一撃目は、空振りに終わった。素早い。ゾンビとは桁外れである。気合を入れて戦わないと、マジでこっちが危ない。

「へへへっ、やるなぁお前らぁ。うち、こうゆーの、めっちゃ好きやで」

 うお、シノブちゃんが戦闘モードに入った。この場合、シノブちゃんとのコンビネーションはNGである。こっちも巻き込まれて殺されかねない。

 俺はシノブちゃんと反対側の敵に切りかかった。もちろん、高速のサンダルの力をフルに使ってだ。しかし、目標は難なく俺のスピードに対応すると、素手の拳を奮ってきた。俺は木刀で受け止めたが、それでも打撃力は打ち消せなかった。俺は、無理せず後ずさった。


(やっべぇ。マジで強いぞ、こいつら)


 フツヌシに改造された所為なのか? ヤツラは、異様に人間離れした強さで以って、俺達を圧倒しつつあった。こういう小さくてすばしっこい相手は、サンダーもブレイブ・サンダーでも相手は出来ない。どうする……。

「フレア・スプラッシュ」

 その時だ。呪文が唱えられると、無数の小さな火の玉が敵を襲った。

「火系の呪文だ。ついでに自動追尾付き。勇者クン、決定打にはならないけど、足止めくらいにはなるよ」

 ミドリちゃんだ。ありがたい。俺は隙の出来た敵陣に切り込むと、動きが鈍くなった相手に切りつけた。

 勇者の木刀で足を切断され動けなくなった敵に、シノブちゃんが容赦なく止めをさしてゆく。新しいパターンのコンビネーションだが、これは有効のようだ。一気に敵の数が半分になった。

「イケるで、魔導師さん。どんどんやってんか」

 シノブちゃんも、調子が上がってきたようだ。俺は、とどめの格闘戦はシノブちゃん達に任せて、敵の動きを止める攻撃に終始することにした。


(この分なら、いけるかも)


 と、俺は心の中で思っていた。だが、それは「甘い目算だった」と後で思い知ることになる。こいつらは、フツヌシの先兵でしか無かったのだから。




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