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放浪する遺跡(5)

 俺達は、森から戦闘士のサイトウさんと賞金稼ぎのムナカタさんを助け出した。


「サイトウさんとムナカタさんは、どうしてあんな森に居たんすか?」

 俺は気になっていた事を訊いた。答えはムナカタさんが語った。

「賞金稼ぎの俺は、ある賞金首を狙っていた。そいつの首には、800万の賞金がついていたんだ。が、かなりの腕利きで知られていたヤツは、俺一人じゃ捕まえられそうに無くてね。それで、サイトウ達三人の戦闘士を雇ったんだ。俺の思惑(おもわく)通り、賞金首は確保できた。俺達は、そいつを、近くの街に護送することにした」

 そこまで喋って、ムナカタさんは「ゴホン」と咳払いをした。

「すまねぇ。続きを話そうか。俺達は、中古の軽トラを使って、そいつを護送していたんだ。もうそろそろ日も暮れようとしていた時、ちょうどいい具合に、あの森を眼にした。それで、その日は森で一泊することにしたんだ。お誂え向きに、軽トラが入れるくらいの広い道が、目の前にあったからな。だが、それは『森の仕掛けた罠』だったんだ」

 やっぱり、あの入り口は罠だったのか。

「罠ってことは、何かおかしな事になったんすね」

「ああ、その通りさ。だいたい、ちょうどいい具合に道が出来ている時点で、気がつくべきだったんだ。迂闊だったよ」

 そう言って、賞金稼ぎは両の拳を膝に叩きつけた。そして、一呼吸おくと、また、続きを語った。

「俺達が森に入ってしばらく進むと、開けた場所があった。そこには、小さな泉と、石造りの祭壇のような物があったんだ。俺達はそこで一泊することにした。木々の隙間での野宿は、虫や小動物に悩まされるからな。広場に停めた車を中心にして設えれば、一晩の宿にはもってこいだ」

 ムナカタさんはそう言った。


(祭壇か。アマテラスの祭壇の事かも知れないな)


 俺はそう思ったが、取り敢えずは続きを聞こう。アマテラスのことは、俺達以外はほとんど知っている者は居ないはずだから。


「俺達は、乗り込んでいた軽トラを泉の近くに停めると、野営の準備を始めた。賞金首のヤツは、逃げられないように、手近の木に縛り付けておいた。まぁ、もっとも飯は食わしてやったがな。この異世界じゃぁ便所に行かなくてもいいから、楽だったよ。俺達は飯を食った後、寝袋で寝ていた。その時、最初の事件(・・)が起こった」


(なんだ? 事件だって?)


「事件って、なんすか?」

 俺は、ムナカタさんに尋ねた。

「まぁ、事件っていう言い方は変かも知れんがな。兎に角、変な事(・・・)が起こったんだ。俺達は、寝袋で寝ていたんだが、賞金首は木に縛り付けたままだった。そのはずだったんだが、俺が夜中に目を覚ました時には、ヤツの姿はもう消えていたんだ。こりゃまずいと、俺は他の三人を起こして、ヤツの捜索を始めた。森の外へ逃げたのかと思ったんだが、おかしな事に、入ってきた時にはあった道が消えてなくなっていたんだ。暗い中、生い茂った木々の間を調査するのは難儀だったが、俺達は捜索を続けていた。でも、結局、朝になるまで探しても、ヤツは見つからなかった。ヤツが居なけりゃ賞金が入らない。そうなると、戦闘士への報酬も払えない。俺は、前金を払う時に借金までしてたからな。血眼になって探したさ。もうだいぶ日も高くなったので、俺達は一旦トラックを停めてある泉のところまで戻って、何か喰おうということになった。ところが、戦闘士の一人が、いつまで経っても帰って来ない。これが二人目の行方不明者だ」

 そう言うと、ムナカタさんは悲しそうな表情をした。

「そのうち、日暮れに近くなった。俺達三人は、かたまって周りを警戒していた。賞金首がいなくなっただけなら、逃げたと考えられるが、続いて戦闘士の一人も消えたとなると事情が違う。何者かが、俺達を狙っているということになる。そして、日も暮れたというころ、大きな地震が起こった。俺達は立っていられなくて、地面にへばりついていた」

 ムナカタさんは、そこで「ふぅ」と一息ついて、水を飲んだ。

「この地震もおかしかった。いつまで経っても終わらないんだ。そんな地震ってあるか? 俺達は広場から見える星空を見て、やっと解った。森が動いてるんだとな」

「ああ、星が凄い速さで動いていたからな」

 サイトウさんが相槌を打った。

「それからの三日間は、頻繁に起こる地震に悩まされた。完全に止まったのは、一昨日の昼ぐらいだったかな」

「ああ、一昨日だ」

「兎に角、俺達は何とかしてこの森から出たかった。もしかしたら、こんな得体の知れない森に一生閉じ込められるのかと思っていたよ。そうしたら、今朝になって道が出来ているじゃないか。俺達は、後先考えずに、森の道を走った。外に出られることを信じてな」

 そこまで話した時、ムナカタさんは、ギリッと歯噛みをした。

「後ちょっと……、本当に、後ちょっとで外に出られるところだったんだ。そんな時だった。木々に絡みついている蔦が、まるで蛇か触手のように、俺達を襲ってきやがった。結局、もう一人の戦闘士は、蔦に捕まってしまった。だが、彼を助けるなんて余裕は、全く無かった。あいつには悪いことをしたと思っている。でも、仕方がなかったんだ」

 そう言いながら、ムナカタさんは涙ぐんでいた。

「それからは、あんた達の見た通りだ。俺とムナカタは、かろうじて森から脱出して、あんた達に助けられたんだ。これが、事のあらましだよ」

 サイトウさんは、そう言って話の最後を締めくくった。

「蔦が襲いかかってきたんすよね」

 俺が再度訊き返した。

「確かに蔦に見えた。森の木々に普通に絡まっていたし」

 ふぅむ、動く蔦かぁ。俺が考え込んでいると、サンダーが千切ってきたロープ状のモノを俺に見せてくれた。

「勇者殿、これが彼等を襲っていた、蔦状のモノでござる。外見は、確かに植物のモノに、よく似ているでござる。ただ、切り口を見ると、中はゼリー状になっていて、魔獣か何かの触手にも見えるでござる」

「確かに外見は蔦そのものっすねぇ。葉っぱも付いてるし。でも、これが魔獣の触手というなら、本体は直径1キロの巨大サイズになるっすよ」

「勇者クン、もしかしたら、一個体じゃなくて、群体を作っているのかも知れないね」

 ミドリちゃんが、自分の予測を言った。

「それじゃぁ、あの森の木が全部魔獣なんか? しかも、罠をはるくらいの知能も持ってることになれへんか」

 シノブちゃんである。


(「罠をはる」か。なら、もしかすると、シノブちゃんよりも頭が良いかも……)


「アレが魔獣として、どうして人を(さそ)ったりしたのでしょうか。あの巨体を維持するには、人間の一人や二人では、到底まかないきれませんわ」

 巫女ちゃんが反論をした。

「そうだね。巫女クンの言う通りだな。じゃあ、どういうことだ?」

 ミドリちゃんも、そこで考え込んでしまった。そこへ、ムナカタさんが口を挟んだ。

「俺が思うに、『生贄(いけにえ)』じゃないかと思う。広場には、祭壇みたいなモノがあったし」

「そんな事は考えられません。確かにアマテラス様は、贄を欲する神ですが、人間の『生贄』を欲することはありません。これは絶対です!」

 巫女ちゃんが反論した。少し興奮しているようだ。

「じゃあ、この森の遺跡は、アマテラスの祭壇じゃ無いことになるよ。どうする勇者クン。アマテラスの祭壇じゃないんだったら、無理に危険を冒す必要はない。ここはパスする選択もあるよ。そして、この人達を街まで送ったらどうだい」

 ミドリちゃんは、そう提案してくれた。だが、俺はそうすることに、納得がいかなかった。

「この森をこのまま放おっておいたら、次の犠牲者が出る恐れがあるっす。これは、勇者として見過ごすわけにはいかないっす」

 すると、ミドリちゃんは、ニッと笑ってこう言った。

「そうだね。ボクもそう言うと思ってたよ」

 俺の目を見る魔導師は、不敵な面構えをしていた。

「ヘヘッ、生きている森だか魔獣だか知らへんけど、うちにかかればボコボコやで」

 シノブちゃんである。普通は話を聞いてビビるもんだが、彼女は俄然やる気が出たようだ。

 俺は、サイトウさんとムナカタさんの方を見た。

「す、すまねぇ。俺達は勘弁してくれ。もう二度と、あの森へは入りたくないんだ」

「あの森を放おっておけないのは分かるが、俺達にはどうしようもない。本当に済まない」

 それはそうだろう。いくら元勇者でも、そんな目に遭ったんだ。二度とお断りだろう。

「分かってるっすよ。地図と、当面の水と食料を置いていくっす。折角助かった生命なんすから、大事にして下さい。皆もそれでいいっすよね」

 俺は、そう判断すると、皆の顔を見渡した。

「異議なし」

「うちもやで」

「わたくしは、いつでも勇者様のお力になりますよ」

「当然、拙者もでござる」

「おいらも姐御達と行くぜ」

 仲間からの反対意見は無かった。

 俺は、大きく頷くと、助け出したサイトウさんとムナカタさんに声をかけた。

「じゃあ、俺達は森に入って調査をしてみるっす。サイトウさんとムナカタさんは、街まで歩きという事になるっすが、どうか頑張って生き延びて下さい」

 俺は、二人にそう言った。非情かも知れないが、俺達が森から還ってこられる保証なんてない。であれば、たとえ自力でも、二人には人の居るところを目指して出発してもらおう。その方が、生き残れる確率が高い。

「すまねぇ。水と食料を分けてくれただけでも、ありがたいこった。この上、街まで送ってもらうなんて事まで頼めねぇぜ。俺達も賞金稼ぎと戦闘士だ。それに、元勇者だからな。自分の後始末くらい、自分らで何とかさせてくれ」


 ということで、俺達は森へ侵入することにしたのだ。




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