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アマテラス(3)

 俺達は、また一つ祭壇の浄化に成功した。

 しかも、今回の祭壇は、アマテラス・ネットワークの基幹端末付き、というボーナスまであった。

 アマテラスの力で、皆の怪我も治ったし、結果オーライである。


「さて、当面の目標である祭壇の浄化も終わったし、さてこれからどうしようかなぁ」

 俺は、皆に相談を求めることにした。

「ボクは次の遺跡を攻略する前に、この遺跡の調査をするのがいいと思うな」

 魔導師のミドリちゃんの提案がこれである。

「どして?」

 俺が彼女に訳を訊くと、

「勇者クン、やっぱり君は何にも分かってないね。ここの祭壇は特別なんだ。何せ、アマテラス・ネットワークの基幹端末が置いてあるんだよ。神殿の未調査の部分を調べたら、この異世界の重要な情報が見つかるかも知れないじゃないか」

 と言う彼女は、俺を小馬鹿にしているようだった。……まぁ、実際のところ、俺はラッキーなだけで、基本はヘタレな勇者だからな。

「そんでさぁ、ミドリちゃん。異世界のことを色々と知って、どうすんの? 何か得をすることがあるのかなぁ」

 俺がこう尋ねると、ミドリちゃんは、左手で額を押さえていた。

「ほんっとうに、君は分かってないね。この異世界の事情が分かれば、残りの遺跡の攻略も容易(たやす)くなるよ。まぁ、これくらいは分かっているよね。でもさ、それ以上に、この異世界のことを知ることで、ボク達が元の世界に帰れる方法も分かるかも知れないじゃないか」

 彼女は、『マジで失望した』という表情をしていた。でも、そうか。ミドリちゃんの言う事なら間違いはないだろう。

「でも、俺、別に元の世界に戻れなくってもいいや。特別、女の子にもててた訳じゃないし、運動も成績も中の下くらいだったし。現実世界の俺って、あんまし幸せって言う訳じゃ無かったもん」

「勇者殿は蛋白でござるな」

 そんな俺を、女剣士のサユリさんは、少し笑って、そう評価した。

「まぁ、ええやん。うちも、この異世界のこと、気に入ってもうた。元の世界に戻っても、レディースの頭に戻るだけやし。人間なんて、この世界の化け物と比べたら、ゴミ虫以下やんか。喧嘩すんのに、強い相手がおらんかったら、全然つまらんわ」

 え、シノブちゃんて、レディースの(ヘッド)だったの。初めて聞いたくの一のシノブちゃんの過去に、俺は驚いていた。

 

「とは言っても、まあ、未調査のところを調査するのは妙案っすよね。何かお宝が出てくるかも知れないし」

 俺がそう言って納得してしまうと、皆も同じ見解に至ったようだ。

「じゃぁ、皆で探検に行こう、ってことで。巫女(みこ)ちゃん、この祭壇、水の上に出せるよね。そしたら、出発しようよ」

 と、俺が提案をしたものの、その言葉はミドリちゃんにあっさりと却下された。

「そんな必要は無いさ。そこのコンソールで遺跡──神殿のデータを丸ごと引っ張り出せばいいじゃないか。ね、巫女クン。そんで、必要なら、自分の携帯やサンダーにバックアップをコピーしとけばいいのさ」

「名案ですわね。その通りですわ、魔導師様。この端末から、神殿の全ての情報にアクセス出来ますのよ」


(あ~あ、そーですか。俺は全然分かって無かったよ)


 なんか、リーダーであるはずの自分を無視して物事が進むのが、少し苛ついていた俺だった。

「そうでござるか。であれば、巫女殿、データの準備を頼むでござる」

 それを聞くなり、サユリさんも、主是した。そりゃそうだろう。身体を動かさずに、この広い神殿の中を調査出来るんだから。それに、さっきの傷が癒えたとは言え、彼女にはこれまでに負ってきた古傷も未だ残っている。


 ま、と言うことで、遺跡探検はおじゃん。アマテラスの情報端末に頼ることになった。

「じゃあ、とっとと始めるっす。巫女ちゃん、頼むっす」

「はい、分かりました、勇者様」

 彼女はニッコリと微笑むと、例の石のコンソールのようなものを操作し始めた。

 再び、目の前に光の画面が現れ、やっぱり意味不明の文字のようなものが大量に表示されていった。

「何か分かったぁ」

 俺が不貞腐れたように訊くと、巫女ちゃんは、

「はい。今からこの神殿の全体図を表示しますね」

 と言って、コンソールの操作を続けていた。

 そのうちに、祭壇の中央に一際大きなパネルが浮かび上がり、そこに四層からなる神殿の断面図が表示された。

「これが、神殿の見取り図かあ。地上一階、地下三階の四層構造だね。よくこんな大規模な工事が出来たものだなぁ」

 と、ミドリちゃんが感慨深げに言った。

「うちらのおるのは、どの辺や?」

 シノブちゃんがそう言うと、見取り図に赤い光点が印された。

「ここです、くの一様。地下三階の最下層──『聖水の湖』の底です」

 確かに、断面図の一番下には半球状の大きな空間が示されていた。その一番下のところを、マーカーは示している。

「巫女ちゃんに頼んでマップを出してもらったけど、ここまで大雑把だと、ボクにもよく分からないな。どうしようか」

 いやいや、この方法って、ミドリちゃんが提案したんだよね。今更、それは無いだろう。

 そんなところへ、サンダーが声をかけてきた。

「魔導師殿、拙者の解析コンピュータなら、何か分かるかも知れないでござる。巫女殿、端末のインターフェイスを拝借してよろしいでござるか?」

 ふむ、そうか。サンダーの電子解析装置を使えば、細かいマップのデータも含めて解析が出来るかも知れないぞ。さすがは勇者ロボットだ。

「サンダー、気をつけてくれよ? なにせ異世界のシステムなんだからな。言語構造や、語句とか、全く違っているに違いない。膨大なデータでオーバーロードにならないようにな」

 俺は、頭に浮かび上がった疑問を、サンダーに投げかけた。

「ふぅん、珍しいな。勇者クンにしては、至極まともな質問だね。的を射ているよ」

「ミドリちゃーん。その言い方は、ヒドイよ」

「まぁまぁ、勇者殿。心配はご無用でござる。拙者は異世界の神──アマテラスの導きによって生まれ出たのを忘れたでござるか。プロトコルさえ解析できれば、あとは問題ないはずでござる。それ以上にストレージが必要であれば、ブレイブ・ローダーのシステムにリンクすれば良いのでござるから」

 そうか、大丈夫なんだ。それに、ブレイブ・ローダーも使えるなら、問題無いのかも知れない。


 こんな相談をしているうちに、俺は今更のように仲間に恵まれていた事に気が付いた。俺一人じゃ、ラッキーなだけで、何にも出来ないからなぁ。


(でも、この大事な時に、俺だけ何にも役に立ってない……。いや、そんな事はない。俺は『勇者』。異世界を清浄にする使命があるのだ。この祭壇の浄化だって、俺がやったんだもんね。ふっふっふ。俺がいっちばーん)


 などと自分勝手な妄想に俺は浸っていた。


 そんな時に、巫女ちゃんの声がした。

「勇者様、サンダー、用意ができましてございますよ」

 やっぱり巫女ちゃんの声は、ほがらかで、心が和むなぁ。でも凄いな、この短時間で準備完了とは。

「えっ、もう準備ができたの。じゃぁさ、早速やってみようよ。サンダーの方も、システムに接続できそう?」

「問題ないでござるよ」

 ふむん。これなら、遺跡のどんなデータも、取り放題だな。

「こら、あほんだら。流星(りゅうせい)、オマエもサンダーさんのとこ行って、お手伝いをするんや。ボヤボヤすんなや」

「でも、オイラ如きのプロセッサやストレージじゃ、髪の毛のサキッチョ程の役にも立たないですぜ」

 シノブちゃんの命令に、相棒の流星号は難色を示した。俺だって、コイツにサンダーを手伝えるような何かが出来るなんて、髪の毛の一筋ほどの思って無かったけど。

「よおく考えるんや。データ処理の方では手伝えへんでも、外的な理由で……、せやなぁ、どっか故障したり、回線を無理矢理にでも引っこ抜かなあかんような事があるかも知れへんやないか。そんな時にお手伝いがでけへんで、何が勇者ロボットやねん。せやから、オマエはサンダーさんに付きっきりでお世話をするんや。ほんで、それが、オマエにでける、いっちゃん大事な役目なんや。気張って、お手伝いをするんやで」

 ふむ。ここは聖域の最深部とはいえ、異世界には違いない。さっきまで、目の前に敵がいたんだし。

 まさかの時の準備は、入念すぎるほど入念にしておくことに越したことはないな。さすがはシノブちゃん。きっと、野生の勘が働いたんだろう。

「じゃぁ、シノブちゃんと流星号で、サンダーの傍についてて欲しいっす。ミドリちゃんは巫女ちゃんの隣でサポートを。念の為に、俺とサユリさんで、この辺り周辺の警戒をするよ」

 こう言って、俺は皆を見渡した。


「分かったでござる」

「おっしゃ、流星、いくで」

「任せて下せい、姐御」

「それがしも、相分かったでござる」

「では、始めますね、皆様」

「頼むよ、巫女クン。ボクが傍についているからね」

「お願いします、魔導師様」


 心強い皆からの答えが返ってきた。

 よし、じゃぁ、サンダーの力を借りて、遺跡の謎を突き止めるぞ。




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